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POPO

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 ということはバスケットには入っていないのか、と思うロイの耳に、おーい、という呼びかけが聞こえてくる。
「あっ、少尉、こっちですー」
 ごめんなさい、と丁寧にロイに断ってから、アルは廊下に向かって答える。
「ふぅ…おまえらこれどうやって持ってきたんだ?」
 やがて、額に汗したブレダが入ってきた。彼は何やら大きな袋を担いでいた。
「どうって…担いだりとか?」
「担いだりとか…だよねぇ?」
 少尉の質問に、兄弟は不思議そうに首を傾げた。お互いがお互いに向けて首を傾けているのがなんだか可愛らしい。
「…とんでもねー…なんだこの重さは…」
 げっそりとした顔でどすんと袋をカウンターに置いたブレダに、ととと、とエドが歩み寄る。そして嬉しそうな顔をして見上げた。
「ありがと!少尉!少尉にはケーキいっぱい上げるから!」
 にこぉっと笑った顔に、一瞬ブレダは驚いたようだったが、苦笑を浮かべると、そりゃありがとな、と金髪をぽんと撫でつつ答えたのだった。


 ぶかぶかのエプロンをし、うるさげな前髪とサイドの髪をおばちゃんから借りた黒ピンで留め、これでエドの準備は完了だった。普段は隠れている額がつるんと露になっている。思わず突つきたくなったロイだが、一応それは触れないでおいた。
 ロイはといえば、上着を脱いでワイシャツ姿になっている。袖を二回折り返して、どうやら本当に手伝うつもりでいるらしい。
「…ほんとにやるの?大佐も?」
 つるつるしたきれいなおでこを全開にしたエドが、不安げに問いかけてくる。それにはにこりと笑って、ロイは頷いた。
「卵は何個割るんだい?」
 おばちゃんもおじちゃんも、ついでにブレダも興味津々の態でそんなロイを見守っていた。

 ―――本当に家事なんか出来るのか?この男が?

 皆の目は正直にそう語っていた。
「ん…ここにあるの全部」
「共立てでいいのか?」
 ロイの何気ない反問に、おお、と軽いどよめきが起こる。だがエドだけがよくわからない様子で首を傾げた。
「…ともだて?」
「ああ。卵は一緒に割ってしまっていいのかい?卵白と卵黄に分けなくても」
 ロイも不思議そうに問う。
「…大佐、本当にお料理されてるのかしら…」
 そんな彼の背後では、食堂のおじちゃんおばちゃんのひそひそ言う会話が繰り広げられている。
 ―――彼らは知らない。
 甘い物が好きだと言い、嬉しそうな顔をしてパフェだのケーキだのを頬張るエドの顔を見るにつけ、もっとその顔を見たくて、もっと喜ばせたくて、夜毎密かにロイが料理本やら菓子作りの本やらを熱心に読んでいることを。
 …実際健気な男である。
 求める見かえりが、嬉しそうな笑顔だけ、というのだから。まあ、こんな幼げな様子を見せる相手にそれ以上を求めるのも如何なものか、という話ではあるのだが…。
「ん?一緒だよ?」
 知らないどころか夢にも思わないエドは、反対側に首を傾げながら、あどけなく肯定した。
「そんで、死ぬ気でかきまぜるんだぜ。ほんと腕死ぬから。たいへんだから」
「…死ぬ気で…」
「そ。な、アル」
 卵の割り方よりも攪拌こそが重要なポイントなのだ、とエドは弟を見上げた。今は疲労を感じる事のないアルが、そうだね、死ぬ気でやるんだよね、と穏やかに返した。
 彼らの「死ぬ気で」だから、多分半端ではないのだろう。
 むしろ泡だて器とボールの方が心配だ。
「じゃあ、とにかく卵を割ってしまおうか。砂糖や粉は分量通りなのか?」
「ええ。ここに来る前にきっちりグラム指定して買ってきましたから」
 爽やかにアルは答えた。
 ある意味で豪快な買物である。問屋か?
「あ、じゃあボク、粉をふるいに掛けてますね。兄さんがこういうの苦手だし」
「…苦手じゃねーもん。粉が勝手にふるいの目に詰まるだけだもん…」
 それが苦手と言うことではないのか、とロイは一瞬思ったが、あえて口にはしなかった。
「…わかった。では、取りかかろうか」
 かぶりを振って、ロイは気を取りなおしたようにそう声を掛けた。


 片手にボール(大)。片手に卵。

 ぱきっ、ぱかっ、ぽとっ

「おぉー…」
 
 ぱきっ、ぱかっ、ぽとっ

 ロイの手は止むことなく膨大な量の卵を割り続けた。
 その動きには無駄がなく、思わず食堂のおばちゃんたちも見惚れるくらいであった。
「…大佐、すっげー…」
 そして、金髪の子供も。
 素直に賞賛の目をロイに向けてきた。ロイとしてはなかなか気分がいい。練習の甲斐あったというものである(してたんだ…)。
「な、な、どうやんの?なんで片手で割れんの?なんで?」
 ボールを抱えたままエドはひょこひょことロイに近寄ってきた。ひよこのような動きだった。
 …ちなみに、エドの戦績はすこぶる悪い。まずボールの端にこんこんと卵を打ち付けた時点で、卵白が若干滲み出す。しかし力を入れてはいけないとそっとやっているため、割れるまでの決定的なヒビが入らない。そして悪戦苦闘しているうちに妙なところが割れ、殻が中にこぼれるといった有様であった。おまけに指も卵白でべとつくので、いちいち手を洗わなければいけない。そして逆に、では力を入れればいいのでは、と今度は強く割ってみて、打ちつけた時点で一気に卵を粉砕してシンクを卵白まみれにしたりもしていた。エドが一個の卵を割る間に、はっきりいってロイは十個くらい割っている。それくらいの差が開いていた。
 …こんな状態でよくも菓子を作ろう!などと言い出した物である。ロイはなんだかこの子が不憫になってきた。
「片手で割る前に、両手できちんと割れるようにならなくてはな」
 苦笑混じりにそう言うと、エドはむっと眉をしかめた。
「…わかってるよっ…そんなの…」
 そしてぷいっとそっぽを向く。一気に拗ねてしまったのがあまりにも子供っぽくて可愛くて、ロイは笑いを噛み殺すのに苦労する。
「何事も努力あるのみだよ。大丈夫、君ならすぐに出来るようになる」
 ロイは笑ってそう言った。
「…そんな気休めいらねぇもん」
 だがエドは頬を膨らませてますます拗ねる。
 …生来の器用、不器用はそう易々と反転する物ではない、と彼女はよく知っていた。弟は生身であろうと鎧であろうと器用だったし、エドは全生であろうと半生であろうと不器用さに変わりがなかったので。
「まあその時はその時だ。私がいるからいいだろう」

 ―――は…?

 さらりと吐かれた台詞に、おばちゃん達及びアルと一緒に粉をふるっていたブレダ少尉の動きが止まった。ただひとりアルだけは、何事もなかったかのようにエアレーション作業を続けていたが。
「なにそれ?」
 エドもまた、怪訝そうな顔をしてロイを見上げた。しかし、ロイは全く取り合わず、あいも変わらず器用に卵を割りながらしれっと答える。
「君が割れなくても私が割ればいいだろう、卵なんて。大した問題じゃない」
 そうだろう?
 ロイはこともなげにそう付け加えたが、…「いやそれおかしいから!」という周囲の無言の突っ込みはきっと彼に届いていないに違いない。
 その上。
「…そうなのか?」
作品名:POPO 作家名:スサ