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みとなんこ@紺
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One Wish

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「もう一人のボク・・・怒って…る?」
ケホ、と小さく咳き込みながら、遊戯は肩まで引き上げた布団の隙間からおど、と上目遣いに窺うように見上げた。
先程からずっとむっつりと黙り込んでしまった、常にはあまり表情を動かさない彼がはっきりと眉間に刻んだ皺が怖い。
聞こえているのか、いないのか。応えてくれない事も。

だが同時に、心の部屋に帰らずに彼がここにいてくれる事に、少しほっとした。
今日は何の変哲もない平日だ。普段なら学校に行って、皆と授業を受けているような時間帯。だが、風邪でダウンした遊戯は皆出払って誰もいない部屋に一人残される所だったのだから。
今は何だか普段より人恋しい。そんな気持ちが通じているのか、彼はずっと側にいてくれている。
だからこそ余計に気になった。
風邪だと宣言され、母親に今日一日外出禁止を言い渡された時に、彼の視線が少しきつくなった事。

先程飲んだ解熱剤が効いてきたのか、徐々ににじり寄ってくるような逆らいがたい眠気に攫われる前に、ここはちゃんと謝っておいた方がいい。そう思って遊戯は身体を起こそうとした。
「もう一人のボク…っ」
あのね、と続けようとした矢先、不意に目前に伸びてきた掌に、言葉を押しとどめられる。
無言のまま目の前に翳された掌に質感はない。ただ、有無を言わせずに動きを止めさせるものは十二分にあった。
『何も言わなくて良い。・・・話は後にしよう』
「だけど・・・っ」
『大丈夫だ』
促されるままにもう一度ベッドに逆戻りさせられる。
それから、そんな必死な表情をしていたんだろうか。
見上げた先で、もう一人の自分は口元を緩ませると、今度は仕方なさそうな苦笑じみた笑みを浮かべた。

『…オレは怒ってるわけじゃないんだ、相棒』

もう一人の遊戯はゆっくりと、諭すように言葉を紡ぐ。
その意味を問い返すより先に、いつの間にか定位置になってしまったベッドの縁に腰掛けて、彼は深い瞳でじっと見つめてきた。すいと細められた綺麗な紅い瞳に、今は自分だけが映っている。
遊戯はひゅ、と息を吸い込んだまま目を瞠った。
すい、と伸びてきた掌が額に当てられる。
確かな感触があるわけじゃない。だが確かにそこにある。
そう思って力を抜いたと同時に、押し寄せてくる眠気にゆっくりと目を閉じれば、心の部屋の中でいつも触れ合える、彼の掌の温度を思い出した。
細くて長い、きれいな指。てのひらはほんの少し自分より温度が低くて。
…傍にあると思うだけで、安心する。
『あとでな。・・・おやすみ』

すい、と耳元で囁き落とされた声に誘われるままに、遊戯の意識は闇に融けた。



見下ろす遊戯の呼吸が穏やかに深くなるのを見守って、彼は深く息を付いた。
僅かに苦しげだった呼吸も落ち着いたのを確かめて、漸く安堵する。
・・・よかった。
まだ熱は引かないようだけれど、薬も飲んでいた事だし、少なくともこれ以上悪化するような事はないだろう。
よかった、と彼はもう一度息を付いた。
安らいだ表情で眠り込んだ半身に、僅かに気配を緩ませた。
途切れなく襲ってくる重苦しい気配が晴れたわけじゃないけれど。
・・・気付いてやれなかった。
相棒に告げた言葉は嘘じゃない。隠そうとしていた相棒に怒った訳じゃない。
確かにそんなになるまで黙っていた相棒には一言といわず言いたいことはあったけれど。
今、怒っているように見えたのなら、それはこんなに傍にいたのに気付いてやれなかった自分に対してだ。

遊戯に折り重なるように頭を垂れ、静かに額を合わせる。
こんな時でも鎖から手は離さなかった、傍らに置かれた千年パズルの眼が微かな光を放つ。
緩やかな光が消えていくのに合わせて、彼の姿もまた光に融けてその場から消え、あとには時を刻む時計の微かな音と、窓越しに伝わる日常の、喧噪。
そして穏やかな寝息だけを置き去りに。

作品名:One Wish 作家名:みとなんこ@紺