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暴走王子と散々な影武者

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幸と不幸と





「……」
 オレは、白い天井を見上げていた。
 それがどうしたって?
 確かに、それだけだったら何の変哲もないとある日の朝で済んだだろう。
 そう、それだけで済まないから悪いのだ。しかも、その状況は、ありったけの脳みそを使って何十回とシュミレートした中でも、最悪の状況としか言えなかった。
「……」
「おはよう、ロイ」
 耳元にはファルーシュの甘ったるい猫なで声。
 男がんな声出すんじゃねぇ、気色悪い!! と、いつもなら叫んで逃げ出すところなのに、それさえもどうでも良く感じられるほど。いや、そもそもなんでオレの部屋のオレのベッドの、オレが寝ている隣で、上半身裸のファルーシュがベッドに寝そべってあまつさえオレの頭に腕枕なんぞしてるのか、なんてこともどうでもいい。
「昨日はかわいかったよ、ロイ。もう、僕がP〜〜して、P〜〜して、P〜〜〜〜〜〜してあげてたときのロイの顔、なんて色っぽくってかわいかったんだろう……っ!」
 そして、上機嫌でファルーシュがなにやら妖しい独り言をおっぱじめるのも、本当にもはや聞く余裕すらないほどに、どうでも良かった。
「……王子さんよ」
「なぁに? ロイ」
 ロイの耳に唇が触れるくらいの距離からうっとりと、ファルーシュはささやく。
「……なんで、オレは裸なんだ?」
 そう。なぜかオレも半身どころか、シーツの感触からして、全裸に剥かれ、ベッドの上に転がされていた。
「だって、裸にしないとやることできないでしょ」
 これまた脳内ピンクなファルーシュの、うわ言。更になにやら妖しい単語を(しかも、王子がどこで覚えてきたんだと思うような単語を)ほざき始めたが、ロイは耳をふさぐことができない。聞くことを間違えたと思いつつも、しかし更に問わずにはいられない。
「じゃあ、なんで、オレは縛られてんだ?」
「だって、そうでもしないとロイ逃げちゃうでしょ?」
 にっこりと、至上の天使の微笑がファルーシュの顔に花開く。これが他の兵士や女の子に向けられたなら士気も大きく跳ね上がり、女の子の黄色い奇声が増大するだろうに。
「……」
 だが逆に、ぴくぴくとロイの頬肉は引きつった。
「ふ、ふざけんじゃねぇっ、この変態王子〜〜〜!!!」
「変態はひどいなぁ……」
「変態じゃなかったら、何だってんだこの状況でっ!! って、寄るな! 乗るな! なでるな〜〜〜っっ!!」
「え、やだ」
 きっぱりと笑顔で言い切り、ロイに王子はのしかかる。しかしベッドに縛り付けられ、身動きの取れないロイは、哀れ、真っ青になって必死で足だけの抵抗を試みるしかない。
 しかし、蹴られ、踏まれ、突き飛ばされるほどに、逆に王子は嬉しげ……。
「ロイ〜。そんなに、ぼくを焦らしたいんだね〜」
「ちが〜〜うっ!! もう嫌だっ!! こんなヤツの影武者なんて絶対やめてやる!! 今すぐレインウォールに帰ってやる〜〜っっ!!」
 散々な目にあわされ、これ以上どうしてこんな王子の側に居れるだろうかっ! そんなロイの心からの叫びだったのだが、それが思いがけずファルーシュの動きをまったく止めてしまった。
 逆に、いきなり何も抵抗しなくなったファルーシュに、ロイのほうが驚いてしまう。
「お、王子、さん……?」
 恐る恐る声をかけるも、王子は糸の切れた人形のようにうつむき、肩を落としたまま。
 ちょいちょい、と足の先でつついてみても反応はほとんどない。
「……」
「……ごめん」
 ひぃっとロイは思わず身をすくませた。
 その声が、さっきまでの王子とは打って変わって弱々しく、そして押し殺した声だったから。
「そう、だよね……。ぼくが悪かった。こんなの、変で当たり前だよね……。あ、ルクレティアには言っておくから、大丈夫だよ。今まで、ありがとう……。ほんと、ごめん……」
 つ、とうつむいた頬を伝う一滴。伝い落ちてきたそれが、ロイの胸を濡らす。
「王子、さん……。あ、いや、俺も、言い方悪かった。影武者辞めるなんて、ほら、なんだ冗談だよ冗談っ」
 だから泣くなって、と笑って見せても王子の涙は止まらない。
 ぽたぽたとシーツの上に滴るその雫に、おろおろとロイは縛られたままで右往左往。
「あ〜〜……。だから、泣くなって……。えっと……次からは、逃げないし、あー……その……こんな状況とかじゃなければ……その……」
 だ、抱かれてやらんでも、ない……。
 だから泣き止め、と、真っ赤な顔になって言い終わってから、再度ファルーシュの顔を見上げてロイは愕然とした。
「その言葉、本当?」
 まるで先ほどの涙なんて嘘だったかのように、いつにも増してその笑顔を輝かせるファルーシュである。
「……うわぁ、夢見たい、ロイからそんなこと言ってくれるなんて〜」
 きゃっきゃきゃっきゃとまるでうら若い乙女のようにはしゃぐファルーシュの傍らで真っ青を通り越して蒼白な顔でロイは唇を戦慄かせた。
「ぜ、前言撤回〜〜〜っっ!!」
「ロイ、男に二言はなしだよ〜〜〜」
 そして今日も王子の幸福と引き換えに、ロイの悲鳴はレイクファレナ城に響き渡る。
 彼の未来に光はあるのか。
 いや、ない……。かもしれない。
 
作品名:暴走王子と散々な影武者 作家名:日々夜