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暴走王子と散々な影武者

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旅立ちは永遠の別れ?



※グッドエンディング後。北の大陸に役者修業に行ったはずのロイの話


 ロイは船の上から、遠く彼方に消えていくファレナの大地を、もう一度見つめた。
 緑豊かで、温暖な、優しい国。陰謀と戦乱が絶えない国ではあったが、これからの彼の国は幼くも利発な女王と、心優しく、勇ましいその兄とでより一層豊かな国となるだろう。
 ……。というのは、一般の民衆が信じている今後のファレナ女王国像である。
「どーこーがー、心優しいんだ、あの変態王子がぁぁっっ!!」
 海に向かい、ロイは叫んでいた。
 甲板にいた何人かがその突然の絶叫にぎょっとして振り返り、海を泳ぎまわっていた魚達さえも驚いて飛び跳ねる。
 ぜいはぁと切れ切れに肩で息をするロイは、しかし周りのその光景などどうでもよかった。
 生まれてから十六年。順風満帆とは言えなかったし、時にはそれこそ言葉にできないほど散々なこともあった。特に、今回の戦で王子ファルーシュの軍に入ったのは、ロイの人生最大の間違いだったと言っても過言ではない。いや、確かに王子のふりをして山賊行為を働いていたと言うのに、王子の影武者をすることでその罪をちゃらにしてくれた恩には感謝しよう。他の仲間たちも、変なヤツも多かったが、いいヤツばかりだったし楽しくもあった。
 だが一つだけ、たった一つだけ、ロイには我慢ならないところがあった。ソレのせいで、何度「あの乱陵山で、なぜ自分を切り捨ててはくれなかったのか!」と嘆いたことだろう。
 ロイが我慢ならなかったこと。それは唯一つ。軍主でありファレナ女王国王子であったファルーシュ・ファレナスの性癖だった。
「あぁぁぁ、思い出すだけで鳥肌たつぅぅぅっっ!!」
 脳裏によみがえった様々な恐怖に、一瞬で全身にさぶいぼが走り、ロイは己の身体をかき抱いた。
 ロイがどこに行くにも付きまとってきて、巻いて逃げればみつけるまで城中を探し回り、他の誰かといようものなら恐ろしい形相で突進してくる。
 人目のあるところだろうがなんだろうが、かまわずべたべたしてくるし、隙を見せようものならあっというまにひん剥かれ、夜には気がつけばロイの寝台に潜り込んでくる始末で、おちおち眠ることも出来やしない。そしてしまいにはロイが嫌というのにあんなことやこんなこと……。
「うわぁ〜〜〜〜っっ!!」
 ついそのときのことを思い出してしまって、とっさに手すりの下に頭を抱えてうずくまってしまうロイだった。
 いけない、違うことを考えなければ。違うこと、違うこと、違うこと!
 しかし、ぽっと浮かんでくるのはなぜかファルーシュの顔だった。ロイと一緒にいるときはほとんど変態野郎同然だったが、それ以外のときのファルーシュは、少しおとなしいくらいの普通の人間で、そして何より軍主だった。
 兵士達の前に立てば、きりりと表情を引き締め、兵士達をひきつけて止まない威勢で軍を率いる。戦場で敵と交われば誰よりも勇ましく敵を屠っていく。その姿は、確かに誰もが憧れ、慕ってやまない軍主の姿だった。
 そして、私生活では確かにいつもにこにこと、皆に笑顔を振りまくのを絶やさないそんな心優しい一人の少年だった。
 だのに。なぜ、ロイの前になるとにっこり笑顔で腹の底では何を考えているのかわからないほど真っ黒で、そして頭の中ではありえないくらいに妖しい映像満載の、変態になってしまうのか……。
 きりきりと痛む胃をロイは押さえた。
 だが、今はもうファレナの大地は遠くに去り、周りは青い海しか広がらない希望への道の真っ只中。ここまでくればもうさすがのファルーシュも追ってはこれまい。
 そう思えば、心が希望の光で満ち溢れ、未来へ向かってガッツポーズもとれるというもの。
 ここに至るまで、どれほど苦労したことか。
 わざわざファルーシュが出席する戦勝記念式典の真っ最中に出航する船を選び、他の誰にも知られないように真夜中荷物を運んで、今までずっと共に生きてきたフェイロン、フェイレンの二人にすら何も言わず出てきたのだ。それもこれもあのファルーシュの魔の手から逃れるためとはいえ、さすがに親しかった彼らにすら別れも告げられなかったことは、心が痛む。それ以外にも、あの軍で知り合った多くの者たちともうほとんど会うこともできないのだと思うと、やはり寂しかった。
 いつか、自分が舞台役者になるという夢を叶えることができたら。ロイはもはや見えない大地を心に見ながら、思った。
 いつか自分が舞台で花形の役者になってファレナに戻ることが出来たなら、そのときはまた、かつての仲間と楽しい刻を過ごすことができるかもしれない。それが、今のささやかな夢。
 それに、その頃にはあの王子だってちゃんとまともに恋愛して、自分のことなどすっかり忘れていてくれるかもしれないし。いや、むしろそうに決まっている。あれはきっと、王子だから同年代の友人がいなくて、過剰反応してしまった若気の至りなのだ。
 多分にロイの願望どおりではないだろうことをロイは気づきながらも、気づかないふりをして一人頷いた。
「けど、ほんっと、あいつも普通にしてりゃいいやつなんだけどな……」
 ぽんと、また脳裏に浮かんできたのは、無邪気とすら言える様なファルーシュの笑顔と、戦場に立ったときの真剣な顔。影武者をしていたロイはそんなファルーシュの表情の一つ一つをすべて目に焼き付けていた。
 そしてそんな様々な表情を思い出すと、じんわりと胸の奥の辺りが熱くなる。気がつくと、頬に熱い一筋。
「あ、なんで、オレ……」
 手のひらに滴り落ちた涙に、自分で驚いた。大嫌いだと思っていた相手を思い出して、なぜ涙がこぼれるのだろう。
 ぬぐってもぬぐっても止まらない涙。しかも、そんなロイの隣に誰かが客室から出てきて、ロイは急に恥ずかしくなって慌てて船内に戻った。
 自室に戻る廊下を歩いている間中、ずっと涙は止まることが無くて、顔を上げることができなかった。
 そんなに、自分はあの王子と別れるのが辛かったのだろうか。嫌だいやだと思いながらも、それほどあの王子を好いていたというのだろうか。
 離れてみなければわからない想いもあると誰かが言っていたけれど、もしかしたら、そうなのかもしれない。それに気づかずにファルーシュにはいろいろひどいこともしてしまった。もう少し、ファルーシュの気持ちになって考えてみればよかっただろうかとか。あんな台詞、言わなければよかったとか。いろいろ思い出すにつれ、一層涙は止まらなくなる。
 でも、もうファルーシュは遠く彼方の大地の上で、自分はこのちっぽけな船の中。どうすることも出来なくて、たまらずロイは部屋の中に飛び込んだ。ベッドで泣きはらせば少しは落ち着くかと思って。
 だが、しかし。ロイは部屋に飛び込むと、落ち着くどころかすべての思考を停止させていた。
 一瞬、夢かと思ったほどだった。
 誰もいないはずの小さな自分の船室にあった人影。しかも、誰なのか知らない人物ではなく、むしろ良く知る相手で。
 そしてその相手は、入ってきたロイに気づくなり、破顔した。
「ロイ、お帰り〜〜〜っっ!!」
 直後ロイに襲い掛かったのは熱烈な抱擁と、その勢いに抗うことが出来なかった頭と壁の激突による激痛。
作品名:暴走王子と散々な影武者 作家名:日々夜