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カラの安らぎ、目覚めの行方

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 所詮、ボクは兄弟だなんていっても鉄の塊でしかないんだ。兄さんをあっためてあげることができないどころか、逆に兄さんから熱を奪うだけ。そして、兄さんのことを満足に看病することもできない。
 ボクはたまりかねて立ち上がった。
「何処へ行くつもりだ」
 大佐がボクを呼び止める。
 ボクは答える気にもならなくて、そのまま大佐の脇を通り過ぎた。これ以上、大佐と兄さんが共にいるところなんて、見たくなかった。
「兄さんのこと、よろしくお願いします」
 それだけ言って、ボクはドアノブに手をかけた。不自然に力のこめられたそれは、軋んで嫌な音を立てた。
 それを追うように大佐も立ち上がって、ボクの方へと足音を響かせる。
「待ちたまえ。彼が目覚めた時に君がいないのでは、彼がまた混乱するだろう」
「なんでですか? 貴方がいれば別に構わないでしょう!」
 つい、声を荒げてしまった。大佐は一瞬珍しいものを見たとばかりに両目を丸めて、それから軽く肩を竦める。
 ますますボクはいたたまれなくなって、ドアノブをひいた。
 だが、次に大佐が告げた一言が、ボクの心を引きとめた。
「なんで、彼がこんな状態で外に出たのか知りたくないのかね?」
 反射的に足は止まり、背後を振り返る。大佐はいつもの不敵な微笑を浮かべて、まあ座りなさいとボクに椅子を勧めた。それから大佐はボクに勧めた椅子とは別の椅子を奥から引っ張ってきて、よっこらせと年寄りじみた掛け声を呟いて椅子の背もたれに寄りかかる。
「座らないか?」
 更にそう勧められて、ボクは渋々座った。
 実際、なんで兄さんがあんな状態であんなところにいたのかは知りたかった。それを知るためなら別に出て行くのは後でもいいじゃないかと、自分を宥めてみる。
「さっき、下で女将に聞いたのだよ。女将はどうやら朝食を持っていくところだったらしい」
 そう言って、大佐は時々苦笑いを見せながら、事のあらましをボクに話してくれた。
 兄さんが、ボクを探して外に出たって言うこと。
 そしてそのときの様子が、切羽詰ったように必死だったことを。
「でも、どうして……?」
 何があって、兄さんはそんな不安にかられてしまったというのだろう。
「詳しいことは私もわからないが、一つだけはっきりしている」
「なんですか?」
 大佐がやれやれと肩を竦めた。
「君が、鋼のにとって最も重要な存在だということだよ」
 なぜと問えば、他の全てを放り出して君を探しに行く。その行為で既に証明済みだろう。と。
「羨ましいよ」
 そう、大佐は苦笑した。
 ボクが兄さんの中で最も重要な部分を占めている。本当なんだろうか?
 もしそれが本当だとしたら。
 ボクはなんだか恥ずかしくて、そして二人に申し訳なくて、顔を伏せた。
 兄さんがボクをそこまで思っていてくれたことがうれしいのと、そんなに切羽詰っていた兄さんに気付いてやれなかった上に、見当違いな感情を大佐にぶつけるはめになってしまったことが、申し訳なくて。
「ああ、しまったな。そろそろ時間だ」
 ちらりと時計を見やって、大佐は慌てて立ち上がった。
「これから人と会う予定があってね。それでここに寄っていたのだが……。まずいな、相手にどやされるぞ」
 忙しなく上着を羽織り、再び大佐は部屋の外へと出て行こうとする。
 ボクはその背中へ、呼びかけた。
「あの、大佐! 今日は本当にありがとうございました。そして、ごめんなさい」
 兄さんに適切な処置をしてくれた感謝の気持ちと、それから自分の歪んだ感情をぶつけてしまった謝罪と。
 呼び止められた大佐は。ボクの心の内を知ってか知らずか、
「彼を大事にしてやれ」
 そう言って、今度こそ本当に扉の向こうへ消えていった。