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【リリなの】Nameless Ghost

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 何も持たない自分に何かが出来るとは思えない。しかし、アリシアはそれでもこの事件の当事者として、自分を娘と呼ぶプレシアと何らかの決着をつけなければならないと感じていた。

「私は……人形?」

 儚い、儚い声だった。しかし、その声は静かな病室に響き渡り、アルフはようやく声を発した自らの主人の手をつかみ取った。

「フェイト、フェイトは人形なんかじゃないよ。フェイトはフェイトさ、あたしの大切なご主人様だよ」

「アルフ……」

「ふん、そんななりでは確かに人形と言えないな、肉塊。今の君はモノだ、自ら価値を否定し、ただそこに居座るだけの塊に過ぎない。せいぜい、あがいて人形程度にはなれるよう精進するといい」

 アリシアはアルフの殺気の込められた視線の槍を軽く受け流すと病室を後にした。

「では、後ほど」

 まるでパーティーに行くほどの気軽さで後ろ手に手を振るアリシアの背中を最後に、その姿は閉じたスライドドアの向こう側へと消えていった。

(存在理由を傷つけられた病人に言う言葉じゃねぇな。だが、どうにも感情のコントロールが出来ねぇなまったく。後で土下座でもしておくか)

 ベルディナはその飄々とした口調を蓑として常に平静に冷静に物事を観察する術を身に付けていた、これはアリシアとなった事の反動なのか、しかし、確実に言える事は今のアリシアはハラワタどころか五臓六腑肉の隅々から神経の端々、そして脳天の全てにたるまで沸騰しそうなほど怒っていた。
 そう、彼女は気に入らなかった。今の状況の全てが、これなら死んでおいた方がましだと言わんばかりに気に入らなかった。そして、プレシアの狂気に対して殺意すら抱いていた。

(あの阿婆擦れだけは我慢ならんな。こんな糞巫山戯た状況を作り出した報いは絶対に受けて貰う。アークの魔術士の名にかけてな)

 そして、彼女は戦場へと向かっていった。その鬼気たる眼から発せられる暴風に立ちふさがる人間は誰もいなかった。

 そして、アースラと呼ばれた巡洋艦から姿を消す直後、アリシアはふと思った。

(いつの間にか一人称が俺から私に変わっていたな。こりゃあ、精神は身体に依存するっていう説も馬鹿にできないもんだ)

 ベルディナは戦場に向かうにもかかわらず、その口元には冷徹で邪悪な笑みを浮かび上がっていた。