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【リリなの】Nameless Ghost

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「また会おう、母よ」

 ベルディナはそういい残し、光に包まれた。

****

 アースラの艦内はまるでクーデターのような動乱の渦中にあった。

「すぐに回収作業を。武装隊を転送ポートに配備、直ちに客人を保護して」

 リンディはひっきりなしに舞い込む戦場の情報をマルチ思考を駆使して処理しつつ、これから訪れる稀人の受け入れ準備を進めていた。

「艦長! 客人の相手は僕が」

 小柄で黒い髪の少年がそう言って艦橋を出ようとする。

「クロノ。ええ、そうねお願い。丁重に、すぐに医務室へ」

「了解」

 クロノと呼ばれた少年は、駆け足で艦橋を後にした。

「フェイトちゃん」

 その側、糸が切れた人形のように倒れ込む少女、フェイトを背中から支えながら声を掛ける白い少女は、その動乱の最中にいても動け無くいた。

「なのは。医務室に運ぼう。ここは邪魔になる」

 ユーノは白い少女、なのはに対してそういうと、フェイトの腕を肩に回し運びだそうとした。

「ねえ、ユーノ君」

 なのははその反対側の腕を支えながら、細い声でユーノに声を掛けた。

「あの子。アリシアちゃんって言ってた子。どうして動けるのかな?」

「それは、分からない。ジュエルシードの影響だと考えるしか」

「だけど怒ってた、それに」

 なのはは視線をユーノに向け、彼の目と合わせた。

「あの子、ユーノ君の名前を呼んでた」

「そうか、空耳じゃなかったんだね」

「どうしてだか、分かる?」

「分からないよ、アリシアはずいぶん前に死んだはずだから、僕とは面識がないはずだし……」

「他人のそら似かな?」

「だとおもう。けど、アリシアは僕を見て、生きていて何よりだって言った」

「つまり、ユーノ君が事故に遭ったことも知ってるって事?」

「たぶん、だとしたら、彼のことも知ってるかもしれない」

「ベルディナさん、だよね」

「うん。確かめてみよう」

************

「時空管理局、クロノ・ハラオウン執務官だ、保護といっておいて悪いが君を一時拘束させて貰う」

 ベルディナがアースラの転送室に姿を現してすぐ、クロノは彼女に対してそう告げた。

(まあ、それが妥当だろうな)

 とベルディナは溜息をつくと、大人しく両手を差し出し、

「あまり乱暴にはしないでくれよ。これでも経験は薄いんでね」

 はっきり言ってジョークを言っていられる精神状態でも無ければ身体の状態でもなかった。しかし、こういった態度は交渉を有利に進める材料となる事は彼の経験から明らかだった。
 案の定、クロノと名乗った若い執務官は眉をひそめると、ベルディナに腕を下ろすように告げ、武装隊の一人、それも年若い女性の武装隊員にベルディナの運搬を命じた。

「ちょっと大人しくしててね」

 どうやら、彼らはベルディナを捕縛するつもりはないようだ。ならば、わざわざ拘束などという言葉を使わなければ良かったのではないかとベルディナは心の中で毒づく。

「医務室に運ぶ前に一つだけ確認しておきたいことがある。君は、アリシア・テスタロッサなのか?」

 ベルディナは少しだけ考え込み、そしてはっきりとした口調で答えた。

「たぶん、その通りなんだろうな。まあ、目が覚めたばかりで整理がつかないがね。アリシアと呼んでくれてもかまわない」

 抱え上げられた分身体を強化する必要が無くなり、ベルディナ、いやアリシアはは若干余裕を持って態度でクロノを見つめた。

「了解だ、アリシア。時間を取らせた、すぐに医務室に案内する」

「感謝するよ、執務官」

 アリシアは自分が少しばかりハイになっている事を自覚していた。おそらく、あまりもの状況に脳が無意識のうちに脳内麻薬を分泌し、様々な苦痛を感じないようにしているのだろう。
 実際の所、最悪な状況だったが動けるだけましと考え、アリシアはとにかく意識だけを保てるよう腕を握りしめた。

「アリシアちゃん、ごめんね。子供用のお洋服がないから、暫くその格好で我慢してね」

 アリシアを抱える女性隊員はまことに申し訳なさそうにそういうが、アリシアは一言、気にしないでくれと告げ医務室の前にたたずむ二人の少年少女を確認した。

「クロノ君! えっと、その子」

 なのはは心配そうな表情でアリシアを覗き込む、

「問題ない、衰弱しているだけだ」

 クロノの答えになのははホッとするが、その隣に立つユーノはそれだけでは安堵できなかったのか、視線はアリシアに向けつつクロノに問いかけた。

「この子は、本当にアリシアなのか?」

「信じられないことだが、状況と本人の確認からアリシア・テスタロッサと仮定した。後々調査は行っていくが、間違いはないはずだ」

 クロノはそのまま問答を切り、アリシアを医務室に誘いベッドに、抜け殻のように眠るフェイトの隣のベッドに静かに横たえた。

「すまないがここにおける人員は居ない。出来るかぎり大人しくしていてくれ。では」

 臨戦状態にある艦の執務官と武装員は極めて多忙だ。クロノを筆頭に武装員全員、アリシア達に軽い挨拶を交わしすぐさま廊下を駆け抜けていく。

「あんた、本当にアリシアなのかい?」

 フェイトの側でたたずんでいた紅髪の少女が、アリシアをにらみつけながら問いかける。

「どうやら、そうらしいね。実感はわかないが」

「あんたが、あんたが居たから……。プレシアがあんたを蘇らそうとしなけりゃ、フェイトもこんなにはならなかったのに!!」

 アリシアは改めて隣に横たわる少女、フェイトを見つめた。
 先程の一瞬、僅かな時に刻み込まれた自分自身の容貌とその少女の容貌はまさしく姉妹と言っても何の疑問も浮かばないほど似通っていた。

「その仮定に意味はないな。確かに原因は俺かも知れないが、その過程はプレシアのもので、そして結果はそこの君だ。責任とれってもどうやって責任を取ったものか。取る必要もないと思うが、困ったもんだ」

 アリシアのまるで他人事のような口調に、アルフは更に激昂し、今にも飛びかからんとする勢いで彼女のベッドを叩いた。

「フェイトは、フェイトはただプレシアに喜んで欲しかっただけなんだ。それなのにあの鬼婆は、それは全部踏みにじった。フェイトの思いをたたき壊したんだ! その原因になったんなら、せめて責任取れ! プレシアを何とかしてこい!!」

 アリシアは、呆れ混じりにただ一つ溜息をつき、再び全身に魔力を通した。

「言われなくても、そのつもりだよ」

 苦痛の表情を浮かべながら立ち上がるアリシアに、アルフは茫然と立ちつくした。そして、アリシアは着崩れたカーテンの切れ端をもう一と身体に巻き付けると、横たわるフェイトに目を向けた。

「君の事情は私には分からないし、分かろうとも思わないよ。状況も今知ったばかりで、正直あやふやなところも多い。だがね、フェイトとやら。君は、いつまで人形をやってるつもりだ? 今でもあれが母だと思ってるんなら、自分でケリをつけな。私は先に行く」