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【リリなの】Nameless Ghost

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「機密に関することだから、あんまり大きな声では言えないんだけど。アースラにアルカンシェルを搭載することになっちゃって。そのために二人は本局の偉い人と話をしてるんだよ」

 アルカンシェルと聞いてユーノとフェイトは『うぇ』と声を漏らした。

「えーっと、アルカンシェルって、なに?」

 未だミッドチルダの固有名詞には慣れないなのはは、口をあんぐりと開ける二人に恐る恐る問いただした。

「次元反転消滅砲って言っても……分からないよね」

 エイミィの言葉に「うんうん」と肯くなのはに、彼女はどういえばいいのかと説明に困る。

「えーっと、その、なのはのスターライト・ブレイカーを何百倍……何千倍かな? ぐらいにした武器、かな?」

 なのはの世界の何を例に取ればいいのか分からないフェイトは、とりあえず彼女に想像しやすい表現を選ぶが、なのはは自分のスターライト・ブレイカーがどれほど物騒な魔法なのか自覚がないため、いまいちぴんと来なかったようだ。

「なのはの世界のヒロシマって所があるよね? 昔そこに落とされた爆弾の……100倍ぐらいかな……それぐらいの威力がある兵器だよ。もちろん、魔法技術で出来てるし、放射能とかそう言う毒性は無いんだけどね」

 最近自分は驚かされてばかりだとなのはは思う。しかし、自分が今首から提げているレイジングハートの魔導炉が持つ反陽子の総エネルギーがさらにそれの70倍を越えると言われれば、そう言うこともあるのかと思ってしまう。 もう自分はダメかもしれないとなのはは密かに心涙をこぼした。

「だけど、そうなると今はエイミィがクロノ達の代理?」

 指揮官と責任者が軒並み席を外している以上、この仮設駐屯所の式はそれに準ずるエイミィが執り行っているはずだとフェイトは思う。

 エイミィは正にそれこそが問題だと言わんばかりに溜息を吐き、

「そうなんだよねぇ。こんな時に敵が来たらって思うとお腹が痛いよ」

 アリシアが居ればおそらく、「貴様の胃液はアースラのバリアも融かすのか?」と言っていただろう。

 なのは達、三人もエイミィの様子から彼女がそれほど緊張しているようには感じられず、いつものようにおちゃらけて自分たちを安心させ用としているのだろうと判断した。

 エイミィ・リミエッタはリンディほどではないが、アースラのインテリジェンスと呼ばれる人物だ。その彼女のポーカーフェイスぶりは見事なものだった。

 だからこそ彼女は思う。自分ではクロノを変えることが出来なかった。彼と付き合って既に数年。
 小さいくせに大人顔負けの理想を持って士官学校に入り、年上から見ても過酷としか言い様のない鍛錬を続けて、最年少と言われる年齢で執務官にまで上り詰めた。
 彼が、それまでに犠牲にしたものは一体どれほどのものになるのだろうか。

 彼は、歪んでいる。初めて彼と目を合わせたとき、エイミィが感じたことはそれだった。

 自分より小さいくせに、何か思いものを背負って生きている様子。その時は彼が背負っているものが、単に名門ハラオウンであることだけだとエイミィは勘違いしていた。

 だが、それは違った。彼は命を背負っている。ある日突然失ってしまった父親。それからまるで火が消えたようになってしまった母親。彼は幼いなりにそれを理解できるほど聡明だったのだ。

 せめて、自分が彼の荷物を肩代わりできればと彼女は思った。
 何とかして、自分という存在が彼にとっての宿り木になれればと思った。
 慣れない冗談や、ひんしゅくを買うようなジョークを何度も口にしてそのたびに彼を呆れさせて。それでも側で笑っていてくれればいいと彼女は思った。

 だが、最近の彼を見ていると使命を帯びつつも肩の力が抜けている用に思える。
 それは、エイミィが成そうとして今まで出来なかったことだ。

(クロノ君を変えたのは、私じゃないんだ。クロノ君を変えたのは……アリシアちゃんなんだ!!)

 アリシアと向き合う中で、彼女は何度それを羨み、そしてその感情を笑顔の裏に押し込めただろうか。

 だから、今こそ。クロノがいない今こそ、自分が本当の意味で彼を支えることが出来れば、自分はクロノにふさわしい女になれるのではないか。
 そんな感情がエイミィ・リミエッタの脳裏を渦巻く。

 一週間分の食材をすべて保冷庫へと押し込み終えたエイミィは「ふう」と溜息を吐き汗もにじんでいない額を拭いながら三人とお茶をしようとソファへ向かおうとする。

 しかし、何故こういうときに限ってトラブルが舞い込んでくるのか。

 突然に証明が切り替わりリビングに彼等の眼前に出現する『緊急』を示すアラートの表示。

 警告を示す赤い照灯にその場にいた者達は全員身を堅くして何かを探し求めるように視線を天井へと向ける。

『近距離次元世界にて対象の活動を検知』

 機械的なアナウンスに何処か現実を置き忘れてきたような表情のまま、なのは、フェイト、ユーノはエイミィの表情を伺った。

「……!! 非常事態宣言。総員即応体制解除! コンソールにて状況確認を!」

 エイミィのその宣言を受けて、赤の証明が紫に切り替わる。|緊急の赤(クリムゾン)と|正常の青(グリーン)の中間。

 なのは、フェイト、ユーノはエイミィの力強宣言に応答し、しっかりと頷き返した。

 彼等に先行してコンソールルームへと向かうエイミィはその表情をきつく結び、その内心では自らを必死に落ち着かせるように叱咤しながら状況の想定に理性のリソースを振り分ける。

(大丈夫、私ならやれる。私は……クロノ君の補佐官なんだから!!)

 今まで何度も失態を繰り返してきた。結界の解析が遅れたためにアリシアを負傷させた。敵勢力の走査妨害のためにその追尾を失した。主席管制官としてそれぐらいしか出来ないくせにそれをし損なってきた。

 誰も彼も何も追求しない。全員が全員自分の失態だと言って自分を責めない。

 それがどうしようもなく悔しくて、今度こそ失敗しないように心がける。
 あのときの状況を想定して、それ以上の状況を仮想して、誰にも内緒で何度も何度も何度もシミュレーションを繰り返した。

(今度こそ失敗しない! 今度こそ、捕まえてみせる!!)

 多くの意志が交差し合う。
 絶対に譲れないもの。絶対に守りたいもの。それが譲れないからこそ人は争い合うのか。

 何故なのか、どうしてなのかと思ってしまう。それは、今は亡きベルディナが300年間もの間思い続けてきたことだった。

******

 優しい彼女。気丈に振る舞う主。朗らかな笑みに乗せて紡がれる言葉はすべてが祝福であり福音であり黙示録のように彼女には感じられた。

 それは、自分たちという家族がいるからこそ彼女の身からあふれ出す喜びという感情なのだろうと思う。

 しかし、彼女に喜びを与える自分たちの存在そのものが彼女自身の命を枯渇させるものだと分かったときには、いっそのこと自害してしまいたい感情にとらわれた。

 それでも今、自分はここにあり続ける。
 そんな自分が望むべきは、主の平穏、主の無事、主の健康、主の幸せ、主の笑顔、主の日常、主の心、主の命、主の……、主の……。