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【リリなの】Nameless Ghost

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 それ以外に自分の望むものはない。そのはずだった。

「どうした? ヴィータ。何か、浮かない様子だが?」

 野太い男の声。それでいて落ち着きを持ち、激昂した自分自身を時には苛立たせ、そして冷静にさせてくれる彼の声がヴィータの耳朶を打つ。

「っと、ザフィーラ。何かよう?」

 奥深い砂原。照りつける三つ子の太陽にさらされ、騎士甲冑(バリア・ジャケット)に包まれているにも関わらず額にじんわりと浮かび上がる汗雫をさっと拭いながらヴィータは背後を振り向き、無表情にたたずむ大柄の男、ザフィーラに表を向けた。

「いや、なにやら動きが止まっていた様子だったのでな。何か問題があったのかと思ったのだが」

 ヴィータは少し強力な敵を蒐集した刹那の思案に浸っていたものかと思っていたが、それは思いの外長い間だったようだと気がついた。

 ヴィータは少し面白くなさげに鼻を鳴らしながら手持ちの大槌、グラーフ・アイゼンを一振りしてそれにこびりついた血色の汚れを振り払うとそれを一時的に首飾りの形へと戻した。

「余韻に浸ってただけだよ。問題ない」

 ヴィータの相変わらずのぶっきらぼうないいざまにザフィーラは少し安心を覚えた。

「そうか、ならばいい。シャマルより次のターゲットの指定だ。いけるか?」

 シャマルまで出張ってきているのかとヴィータは思いながら、ザフィーラに対して了承の意志を示す。

 八神はやてが倒れた。

 ヴィータはそれを思いやり拳をギュッと握りしめた。

 それは、先日と言うには少し前のことになる。
 彼女たちが時空管理局の警戒網に捕まり、強装結界の内部に閉じこめられた数日後、八神はやて――彼女たちが主として添い慕う少女――はある日突然、夕食の準備の最中に倒れた。

 心臓を押さえて苦しそうに笑う彼女の表情は絶対に忘れられない。それはすべて自分たちの不手際によって生じたことだった。

 せめて、後20頁あればとヴィータは思う。

 あのとき、白い少女、イージスと称した少年、黒金の少女、橙の狼と出会ったとき、当初の目的の通りその中で最高位の魔力を持つ彼女を蒐集できていたら、この事態は避けることが出来たはずなのだ。

「ヴィータ、もしも負傷したのなら……」

 いったん帰投してもいいのだぞと言いかけたザフィーラをヴィータはグラーフ・アイゼンを起動してそれを制した。

「はやてのためだから、あたしはいくらでも行けるよ。それで、次は?」

 焦っている。その自覚はヴォルケンリッターの全員が持ち合わせている感情だった。
 入院した主、八神はやてが家にいないために今となってはヴォルケンリッター全員がこうして日中でも外に出ることが出来る。
 故に蒐集の効率が上がっていると思いたいが、それでも管理局の監視下において活動するについては制限が多すぎるのも事実だ。

 無理は承知。無理に無茶を重ねて至った今でも主の病状は思わしくない。

 軽く様子を伺っただけで不調を察する事の出来るヴィータを止められないほどにザフィーラも現状を焦っていたのだ。

「そうか……、シグナムのいる世界にとりわけリンカーコアの強い生物がいるようだ。サンドワームといったか。それを蒐集してくるとのことだ」

 サンドワーム。その名を聞いてヴィータはにわかに背筋を奮い立たせた。

 砂原を縄張りとする胴長の砂中生物。その大きさはまるで砂漠の中を進む要塞のごとくと言い伝えられている。

 砂の中の王。それによって壊滅した集落は後を絶たず、時には鉄壁を誇る都でさえ僅か数体の群れを成すそれらに滅ぼされた記録さえある。

 それらが数を成して生息する世界。

 嫌が負うにも奮い立たされざるを得ない。

「うちの参謀も容赦がないね。了解したよザフィーラ。座標をお願い」

 ザフィーラは「うむ」と肯きながら彼等の参謀、シャマルより預かったカートリッジの半ダースほどをヴィータへと譲渡し転送のための座標を彼女に告げた。

「じゃあ、行ってくるよ」

 転送の光に包まれながらヴィータは「ふう」と息を吐きながら呟いた。

「抜かるなよ。油断をしていい相手ではない」

 後を追うといってザフィーラも指の骨を鳴らしながら次第に輪郭を曖昧にしていくヴィータにエールを送った。

「心配性だね、ザフィーラは。じゃあ、後で」

 そう言ってヴィータは転送時固有の意識が引っ張られる感触に逆らわず目を閉じてそれに感覚をゆだねた。

(もし、イージスが今のあたしを見たら……やっぱり止めてくれるよね……会いたいよ……イージス……)

 ヴィータの脳裏に浮かぶ翡翠色の彼の姿。蒐集をするたびに、主のためと誓い、罪もない原生生物を狩るたびにその脳裏に浮かぶ彼の姿。

 会えるのではないか、今度こそ決着を付けられるのではないか。
 期待する自分を自覚するたびに彼女は自己嫌悪に陥る。

 自分は主のためだけにあるはずだ。それ以外のものなど単なる障害、ノイズとして処理するべきだと彼女の理性は告げる。
 しかし、自分では制御しきれない感情の部分がいつも告げている。あいつと決着を付けろ、あいつを求めて戦え、あいつを手に入れろ。

 ヴィータは、自身が振り回される不快であり何処か心地よく感じられるその感情に名前を付けることが出来ないでいた。