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【リリなの】Nameless Ghost

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 ようやくスープの味付けに満足したのか、ユーノも鉄の椀を二つ取り出しスープを注ぎ込んだ。

《e tquturi qinohend》(私は改名を提案します)

 その名前が気にくわなかったのか、レイジングハートは益体もない提案をし、二人はそれを却下した。

「それじゃあ、食べよう」

 無神論者の多いスクライアらしく、ユーノは特に何の祈りも捧げずに黒パンにベーコンを挟み込み小さな口でそれを頬張った。

「だな、聖王陛下に感謝を」

 ベルディナは略式とはいえ、聖王教会の祈りの言葉を口にするとまずはスープを口に含み、いい味だと賞賛の笑みを浮かべた。

《Isn't a meal for me prepared?》(私の分はないのですか?)

「食えるもんなら食ってみやがれ石コロ」

 ベルディナは元々の所有者として、レイジングハートの教育を間違えたかもしれんと嘆きながらパンをスープに浸した。

***

 その祭壇は、それを内包する規模に比べれば実に簡素な造りをしていた。
 大きな岩をくりぬき、中を加工し装飾を加えその外周も見事な造形を生み出していたが、古代遺産としては比較的ありきたりなものではないかとベルディナは感じた。

「ブツを運び出した後か?」

 祭壇の内部は石造りのテーブルが設えられており、その中央には小さなくぼみが見受けられる。おそらくそこに大小なりの球が置かれていたと推測できるが、今は既に空白となっている。

「スクライアの保管庫にあるよ。古い時代の記憶装置のようなものだったらしい。解析には随分時間がかかるらしいけど、解析がすんだらこの文明の歴史が大きく書き換わるかも知れないね。今から楽しみだよ」

 考古学者にとって最大のプライズは、物的価値よりそれに込められた情報だということはよく聞く言葉だ。おそらく、ユーノや大抵のスクライアにとっては情報そのものの遺物は極上の料理や莫大な財宝以上の価値があるのだろう。
 しかし、所詮学者とはまるで縁のないベルディナにとっては拍子抜けもいいところだと言わざるを得ない。

「てっきり、時価数千万ミッドガルドの財宝が眠ってると思ったんだけどな」

「そんな都合のいい夢なんて、陽子の崩壊を観測するようなものだよ」

 つまり、期待して見つけられるものではないということだ。
 ユーノは、らしいと言えばらしいベルディナの言葉に肩をすくませた。
 確かに、それほどの価値のあるものがポコポコ発掘されるのなら、今頃スクライアは発掘のためのスポンサー探しに腐心する必要はないだろう。

「考古学は金にならねぇ学問か。フィールドワークに何十万ミッドガルドもかかるってのは笑えねぇ冗談だ」

 情報化社会であり、情報には万金を詰めと教えられるこの世界においても、重宝されるものは未来に関する情報のみで、既に忘れられ埃をかぶってカビを生やした過去の情報など、誰が金を出すというのか。
 未来へと向かう情報は手に入れる以上の莫大な利益をもたらす。
 社会が求めるものは知識ではなく利益であり、考古学者が必要とするものは、利益ではなく知識なのだ。

「世知辛い世の中だ」

 思わず即物的な思想に走ってしまった自分の感情を恥じるように、ベルディナはそう呟いた。

「発掘できるだけましだよ」

《I want to have priority over a profit more than a pleasure. 》(私は快楽よりも利益を優先したい)

 二人はレイジングハートの戯言を華麗に無視すると、祭壇の事後調査に入った。

「とりあえず、僕達のすることはどこか調査が不足しているところはないか、不審な箇所や残しておくと危険な物は無いかを確かめることです。ベルディナ大導師は周囲を魔力走査。僕は、周辺を視覚で調査します。いいですか?」

「ああ、だが、捜索魔法はお前の方が得意だろう。役割を交代した方が良いと思うが?」

《It is cold. 》(つれないですね)

 ユーノの首にかけられた赤い石コロが何かを呟いたが、二人は<ruby><rb>空耳<rt>ノイズ</ruby>として処理し、打ち合わせを続けた。

「確かに、僕の方が得意ですけど、この辺りは仲間があらかた調べ尽くしていますから。系統の違う術者が行う方が新たな発見になると思います。これでいかがですか、ベルディナ大導師」

「了解だ、現場主任。さっさと終わらせて上に戻ろう。どうもここは寒気がする」

「同感です。じゃあ、レイジングハート。いつも通り補助とログ取りをお願い」

《It is a turn at last. Please leave it 》(ようやく出番ですか、お任せください)

 ホッとしたようなレイジングハートの声に肯き、ユーノは慎重な目つきでまずは床を眺め回しながら決して狭くないフロアを練り歩き始めた。

(生真面目なやつだな)

 とベルディナは思いながら、自分の仕事をするべく、感覚を鋭くとぎすまし身体に流れる魔力の渦に意識を移した。
 身体の全体を駆けめぐる神経をイメージし、極めて高性能に高効率に最適化された回路を感じる。
 ユーノ達が普段扱う魔法、ミッドチルダ式と呼ばれる魔法は、体内に存在するとされる疑似器官であるリンカーコアにより魔力を生み出す。そして、生み出された魔力をレイジングハートといった外部の装置(デバイス)に流し込むことでそこにプログラムされた効果付随させるのがミッドチルダの運用方式だ。
 時折、ユーノのようなデバイスを用いることなく高度な魔力制御を行う者もいるが、その体系は一切変わらない。
 個人認証にも使用される魔法を発動させる際に発光する魔力光、足下に現れる演算陣。この二つがミッドチルダ式魔法の大きな特徴となる。
 しかし、ベルディナが感じ取る魔力の動力源はリンカーコアではなく、それを幾ら練り上げたところで燐光を発する円陣が足下に現れることはない。
 ベルディナは目を閉じ、体内で組み上げられた方式を外部へと発動させるべく弁を開いた。

(構造は、シリコンを基調とする通常の岩石。視覚との齟齬は見受けられない。内部のスキャニング開始)

 周囲の情報が神経を通して脳へと流れ込んでくる。それに意識的なフィルターを掛け、必要な情報のみを拾い集めていく。彼が行っていることは、魔力を照射してその反射波を読み取る作業ではなく、周囲の環境が自ら発生させる情報を読み取ることでスキャンを行うという作業だ。
 アクティブではなくパッシブ。殆ど無意識のうちに採用しているこの方式は、自ら魔力を外部に放つことなく走査することで隠密性を高める。その代わり、得られる情報は莫大となり、その取捨選択を誤れば必要とする情報が得られないどころか、膨大な情報量の前に意識を失う危険性もまた存在する。

(内部構造も変わらず。データシートと比較。問題な……ん?)

 ベルディナは目を開いた。

「なあ、ユーノ。あの祭壇の向こう側には何かあるのか?」

 ベルディナは、スキャンを続行しつつ、床にはいつくばるようにそこを調べ回るユーノに一言声を掛けた。

「祭壇の向こう?」