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【リリなの】Nameless Ghost

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 言いよどむアリシアにクロノが食事の手を止めて目を向けた。

「そろそろ私にも何か仕事を貰えませんか? 雑用でも何でも。何かしていないと精神が持ちません。堕落してしまいそうです」

 仕事がないのならないで、アリシアは時間を使う知識を持っている。しかし、ベルディナが日課にしていた鍛錬は許可されてないどころか、この身体でそんなことをしてしまえば一瞬で崩壊してしまうだろう。
 また、ベルディナの趣味である酒、煙草、ギャンブルは行うには相当のリスクを覚悟しなければならない。
 その上、殆どライフワークにもなっていた読書も艦内に保管されてある読み物が殆ど航海や事件資料等ばかりだとなればそれも諦めるしかない。

 アリシアに渡されている雀の涙のような小遣い(同年代の少年少女にしてみれば些か額は多いが)では週に何冊も書籍を購入することも出来ないのだ。
 ここまで封殺されてしまってはそろそろ保護者に対して何らかの娯楽か仕事の提供を要求したくなることも無理な話ではない。

「そうねぇ、こちらとしてもいろいろ考えてはいるのだけど」

 リンディもそれは尤(もっと)もなことだと頷く。アリシアは姿形こそ5歳児ではあるが、その精神は300年の時を生きた魔術士なのだ。
 当然ながら、それを普通の五歳児と同じ扱いをするわけにはいかず、かといって今のアリシアに出来ることは少ない。
 力仕事はダメ、艦の業務に携わることにはふれてほしくない、機密情報の取り扱いなど言語道断。
 何よりもアリシアは局員ではなく、正規のクルーでもない。さすがに優秀であれば年齢は問わないと宣言する実力社会のミッドチルダであってもアリシアほどの幼子に仕事を任すことはないのが現状だ。

 むしろそんな状況になったら謹んで辞表を書くと思えるほどだ。
 かといって、自分たちも僅か九歳の少女に嘱託魔導師をやらせようとしているのだから同じ穴の狢だと感じてはいるのだが。

「翻訳作業などはどうでしょう?」

 リンディの隣でこれまた彼女と同じような表情でうつむいていたクロノが、そっと呟いた。

「翻訳?」

 リンディはクロノの口から聞き慣れない言葉が出てきたことに面を上げた。

「はい、ベルディナは確か古代ベルカ出身でしたよね?」

「ええ、報告ではそうなっているけれど……」

 リンディはそっとアリシアの表情を確かめるが、アリシアは素知らぬ顔をして珈琲をすすっている。

「古代ベルカだけではなく、彼は多くの次元世界を渡り歩いていたはずです。なら、様々な言語に精通しているのではないでしょうか? 実際、この艦にも翻訳不能な事件資料もそれなりにあります。そもそも翻訳不能ですので機密条項にはふれないと思います」

「そうねぇ。悪くないかもしれないわね……」

 リンディが唸るのも無理はない。時空管理局の次元航行部隊が主に取り扱う事件とはロストロギアに関するものがほとんどだ。
 ロストロギアとはその名の通り、遙か過去に滅びた文明の遺物だ。
 それはつまり、現在では解析は出来ても復元は不可能というものが殆どであり、かつての大戦でそれらに関する情報は殆ど失われている。
 現在残っているそれらもまた解読がきわめて困難な古代文字で記されているものがかなりの割合含まれており、現実的に次元航行部隊の局員は舞い込んできた要件に対して殆どその場の判断で対応せざるを得ないのだ。
 もしもそれら、重要な情報がかかれた書物が正確に翻訳されていればとリンディは何度も歯ぎしりをした経験もあることから、クロノの提案は非常に魅力的に思えた。

「そうね、アリシアさんさえよければ任せてしまっても良いかしら?」

「ええ、問題ありません。むしろ感謝しますよ、リンディ艦長」

 アリシアはこれでようやく退屈な日々から解放されると胸をなで下ろし、実に朗らかな笑みでリンディに了承を伝えた。

「なら、後で僕の執務室に来てくれ。ひとまずあまり重要でないものから任せたいと思う。その先は、追々決めていこう」

 ひとまずは何らかの結果を出せということかとアリシアはクロノの言葉からそう類推すると、

「分かりました執務官。何とか有益を証明して見せますよ」

 もとより本を読むことはライフワークとなっているアリシアにとってその程度のことは何の苦痛にもならない。ただ、読む書物がおもしろみのないものばかりだということだ。しかし、それも仕事だと割り切れば我慢できるし、そのうちやりがいも見つかるだろうと楽観視した。

「あっ、そうそう! 忘れるところだったわ」

 アリシアがようやく落ち着いて食後の珈琲を口にしようとしていた矢先にリンディはアリシアでも思わず驚いて珈琲を吹き出してしまう程の声を上げた。

「アリシアさんにね、渡しておきたいものがあったの」

 何とか珈琲を吹き出さないように堪えたせいで気管に入ってしまいそうになって悶絶するアリシアに、リンディは黒色に光るプレートのようなものを差し出した。

「こほっ! こほ! こ、これは?」

 何度か咳払いを繰り返し、ようやく喉が落ち着いたアリシアは差し出されたものを手に取りそれをじっと眺めた。
 それはアリシアには見覚えのないものだった。しかし、よくよく確認してみると、それは色彩が異なるがフェイトのデバイスであるバルディッシュと形がそっくりだった。

「時の庭園の残留物に紛れ込んでいたのよ。フェイトさんのバルディッシュによく似ていたからひょっとしたらと思ったんだけど……そうね、見覚えがあるわけがないか……」

 アリシアはそれに頷いた。残念ながらアリシアには亡くなる前の5年間未満の記憶があるばかりで、そこから空白となっている26年間のことは覚えていない。というより、記憶そのものがない。よって、このデバイスらしきものがどういったものなのか、何を目的にして誰が(おそらくプレシアだろうが)作成したものなのか分からない。

「一応検査は終了して、それは証拠物にならないことは確認済みだ。それがプレシアのものだということは確かだから、君が持っておくといい」

 クロノの言葉にアリシアは頷き、黒光りするプレートの表面をそっと撫でた。

《…………》

 それは、一瞬何らかの反応を示したように思えたが、その一瞬以降は何の変化も現さなかった。

「おかしいわね。修理は終わっているときいていたけれど」

 リンディは、エイミィの報告を思い出し首をかしげた。

「ひょっとすれば、私のリンカーコアの性能が悪すぎるせいなのかもしれませんね」

 アリシアは苦笑を浮かべそれをスカートのポケットに入れた。
 アリシアのアーク式魔術の才能はたいしたものだ。ベルディナが十数年かけてようやく手に入れることが出来た魔術神経の基礎構造を、アリシアの身体は生まれながらにして持ち合わせているようなものだった。
 しかし、その代わりというべきかは分からないがアリシアのミッドチルダ式の魔法適性は無いといっていいほど低い。

 本来ベルカの出身者はミッドチルダの人間に比べるとリンカーコアが小さいといわれており、必然的にベルカの民はミッドチルダの国民に比べると魔力が少なく、魔法適性も低いとされている。