【リリなの】Nameless Ghost
そして三ヶ月、それも土日祝日を除けば殆ど毎日眠い眼を擦りながらなのはは頑張って訓練を重ねた。
今となっては【Divine Shooter】の一発をここまで高速に精密に制御できるようになり、そのおかげもありデバイスを持った際、魔法制御に対する余裕が出てくるようになったのだ。
《Ninety-Nine,One-Handred……Last One!》
弾頭が飛翔体を叩く回数が100に至ったところで、なのははようやく制御の力を抜き、ターゲットである空き缶はそのまま重力に従い徐々に速度を増しながら落下する。
なのはは再び腕を掲げ、墜ちてくる空き缶を逃すまいと睨み付けタイミングを見計らう。
「ラスト!」
そのかけ声と共に空中に待機していた【Divine Shooter】は再び滑空を始め、なのはの脇を通りそこに至っていた空き缶を正確に捉え、遙か前方へとそれをはじき飛ばした。
カーンという軽快な音を立てて放物線を描く空き缶はそのままその先に設置された金網状のくずかごにホール・イン・ワン、と行きたいところだったが、それは果たされず籠の縁に着弾したままそのまま外へとはじき出されてしまった。
「ありゃぁ……」
再び甲高い音を立てて地面に落ちる空き缶になのはは情け無い声を漏らして落胆した。
《Never mined, Master. It is just perfect if the end was good》(マスター、お気になさらずに。終わりよければすべてよしです)
「あはは、ありがとうレイジングハート……って、終わりがダメだったら問題外ってことじゃない!」
《It is your ability. You must take pride》(それがマスターの実力ですよ、胸を張りなさい)
「それって慰めてるのか貶してるのか、どっちなのかなぁ? レイジングハート?」
《Hum……, I can't understand your words》(さて、何のことやら)
「後でお仕置き」
《………I hope that, Ma'am》(楽しみにしておきます)
―――――――なのはとレイジングハートはまるでにらみ合うように互いに口を噤んだ。
そして、その緊張は突然わき上がったなのはの笑い声で終了を迎えることとなった。
「とまあ………」
一通り笑い終えたなのはは一息ついた。
《Let's do a joke beforehand by here.》(冗談はここまでにしておきましょうか)
とレイジングハートも穏やかに光を明滅させる。
「そうだね。お疲れさまレイジングハート」
《Your welcome , Master. You became able to operete the shooting control. but I feel sorry that you had been broken concentration at last》(どういたしまして、マスター。随分射撃制御がうまくなりましたね。ですが、最後の最後で集中力を切らしてしまったのが残念でした)
「やっぱり詰めが甘いなぁ。つい安心しちゃうんだよね」
《It is not good tendency. Let's improve from now》(良くない傾向ですね。これから改善していきましょう)
「そうだね、これからもよろしくねレイジングハート」
《Me too, Master》
ようやく東の空高くに登り始めた太陽を背にして一人と一つは、まるで家族のようなうち解けた雰囲気で言葉を交わしつつ、山道をゆっくりと下っていった。
『そういえば、今日はフェイトちゃんからDVDが届く日だったね』
帰り道、まばらではあるが人通りのある道路でなのははそうレイジングハートに念話を向けた。
『《It becomes the schedule. Is it pleasant for you, master?》(その予定になっています。楽しみですか、マスター)』
『うん、とっても楽しみだよ』
『《It is good for you, Master》(良かったですね、マスター)』
地球に住むなのはは、遙か時空間の彼方に去っていったフェイトとお互いにDVDを用いて交流を続けている。それが始まった切っ掛けは、確かユーノの提案だったと思うが、それを実行段階まで持って行けたのはクロノとリンディの尽力の賜物だと人づてに聞いていた。
なのはは月の初めの日にユーノ、アリサ、すずかと共にフェイトに対するメッセージを動画で収録し、その様子をDVDに編集したものをフェイト宛に送っている。
その送り先は、イングランドの少し田舎の方の住所だとなのはの代わりにエアメールを出す父士郎が言っていた。
どうしてイングランドに送ったエアメールが時空管理局の方に届くのだろうかとなのはは不思議に思っていたが、結局今になってもその謎は解けずじまいだった。
ひょっとすれば、イングランドの方に時空管理局が密かに設立している支部があるのか、そこにどこかの世界への中継点となるトランスポートがあるのか。おそらくそんなところだろうとなのはは想像していた。
ともかく、そのレターによればフェイトは問題なく元気にしているらしい。また、裁判の方も殆ど無罪の判決が出るだろうと時々DVDに登場するクロノやリンディ、本当のたまにしか姿を見せないアリシアから聞いている。そのためなのははフェイトの裁判に関しては全くと言っていいほど心配はしていない。
ただ一つあれば、直接会えないのが寂しいということだけだった。
「おはよう、なのは」
部屋で朝の身だしなみを整え、フェイトから貰った黒い髪紐(リボン)を結んだなのはは朝食のためにリビングに姿を見せた。
「おはよー、おにーちゃん。おとーさんも、おかーさんも、おねーちゃんもおはよー」
なのはは兄恭也からの挨拶に朗らかな笑みでおはようと返した。
「おう、おはようなのは」
「おはよー、なのは」
「おはよう、なのは」
父、姉、母からも同様の返事を貰いなのはは家族がそろっていることの幸福をかみしめながら既に朝食の用意されているテーブルの席に腰を下ろした。
少し前まで、兄の恭也と姉の美由紀はイギリスに住んでいる世界的な歌手の娘のボディーガードの仕事のためにしばらく家を留守にしていた。どうやら、その歌手は父士郎の代から交流がありその娘は恭也や美由紀のお姉さんのような存在だとなのはは聞いていた。
その娘もまた歌手の卵として世界各国を回ってコンサートを開き、今回日本において難民支援チャリティーコンサートを開いているらしい。
兄と姉は強い剣士だと言うことを知っていたなのはは、家にいない二人をそこまで心配はしなかった。しかし、家族がそろっていないことに不安を感じていたことも確かだった。
さらにここ一月ほどはユーノがいないという寂しさも相まって少し気分が落ち込んだ期間だったようだ。
「あ、そうだ、なのは。エアメールが来てるぞ。差出人フェイト・テスタロッサ」
「フェイトちゃんから!?」
作品名:【リリなの】Nameless Ghost 作家名:柳沢紀雪