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【リリなの】Nameless Ghost

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「じゃあ、リンディさんがいいっていったら一緒に買いに行きましょう。これでOK?」

 やはりアリサには生粋のリーダーシップというよりも親分気質というものがあるとフェイトは感じた。授業の間の短い休み時間に、クラスメイトから取り囲まれ質問の嵐を被ったフェイトを助け、見事な手腕で人々をまとめ上げた彼女だ。その物言いは確かに聞くものが聞けば高慢だと感じるだろうが、どういう訳かフェイトにとってその雰囲気は不快はおろか好感を抱くものだった。

(ああ、そっか。何となくお姉ちゃんに似てるんだ)

 フェイトはそんな自分の考えに笑みを浮かべ、

「うん、分かったアリサ。そのときはよろしくね」

 と伝えた。

 フェイトの了承を得て、早速なのは達はフェイトに合う携帯電話の仕様を姦しく検討し合う。

「携帯なんて結局どれを選んでも同じなんだから、決め手は見た目のデザインよ」
「だけど、やっぱり操作性の良いのが一番だよ」
「機能が充実してるのが良いと思うなぁ。メモリーがいっぱいあった方が写真とか音楽とかいっぱい保存しておけるし」

 どことなくそれぞれの友人の個性を伺える会話を聞きながら、フェイトはふと澄み切った青空を見上げた。

(お姉ちゃんも、早く一緒に住めるようになったらいいのにな)

 眼前に広がる光景にアリシアが混じること。フェイトはそんなことを思い願いながらなのは達の会話に相づちを打ちながら食事を続けた。


*****


「ただいま……」

 初めての学校から帰ったフェイトは照れくさそうにそう言いながらハラオウン低、現在アースラの仮説駐屯所になっている住居の玄関をくぐった。
 リンディやクロノからは自分の家だと思ってくれて構わない、いや、むしろそう思って欲しいと言われているが、改めて「ただいま」と口にして出すのはとても恥ずかしくそして嬉しいものだとフェイトは実感した。

 しかし、フェイトが帰宅を告げたにも関わらず中からは誰からが出迎えに来ることも「お帰り」と言いに来ることもない。
 ここはアースラの駐屯所なのだから、いつでも誰かが詰めていなければ可笑しいのだが、皆忙しいのだろうか。
 フェイトはそんなことを思いながら日本家屋の伝統に従い履き物を脱ぎ、おろしたてのソックスを踏みしめながら廊下を歩いて広々としたリビングに顔を出した。

「君が言いたいことも分かる。確かに命に関することは一切の妥協をして欲しくはないが、こっちにもスケジュールがあるんだ。そろそろ具体的なタイムテーブルを示して貰わないと困るんだよ」

 リビングの中央、大人数が座れるソファに一人席について頭を抱えていたのはクロノだった。
 どうやら、誰かと通信をしていたらしく、背の低いテーブルの上に投影された空間モニターに映る少女となにか難しい会話をしているようだった。

『分かっているよ、クロノ執務官。だけど、レイジングハートは結構デリケートなんだよ。それに、なにぶん古いものだから今の最新技術とか制御理論でも使えないことが多すぎるんだ。だから、だからもう少しだけまって。何とか今日中にアウトラインを作れるようにするから』

 心底困ったという感情を表情一杯に浮かべながら、フェイトの姉アリシアはその通信機越しに何となくやつれた顔でクロノと応対している。

(ど、どうしよう……)

 フェイトはクロノに帰宅を告げようか少し迷ったが、どうやら二人はとても大切なことを話しているらしく、その間に割って入ることは出来ないようだった。
 実際、フェイトもアリシアと話しがしたかったし、彼女に今日起きたこと、まだ一日しか経っていないが異国での学園生活を報告したい。

 これがアリシアやアリサなら、ひとまず相手の会話を止めて挨拶だけでもするのだろうが、フェイトの奥ゆかしい性格がそれを阻害してしまう。
 何となく自分は性格で損をしていると思うフェイトだが、彼女の知人連中からしてみれば「それがフェイトの良さじゃないか」と言って笑うだろう。

 自分の良さとは自分では分からないものだ。

 声をかけようにもかけられない、かといって立ち去ることも出来ずフェイトはオドオドとリビングの入り口でたたずむが、それにようやく気がついたクロノがアリシアとの議論を一度打ち切りフェイトに目を向けた。

「いたのかフェイト。お帰り。気がつかなくて済まなかった」

『クロノ、貴方はもう少しトゲのない言い方を憶えた方が良いと思うよ。お帰りフェイト、学校はどうだった?』

 どこかぶっきらぼうに答えるクロノを諫め、アリシアは苦笑を微笑みに直し、だいたい一日半ぶりになる妹にお帰りの挨拶をした。

「あ、その。ただいまお姉ちゃん、クロノ。学校は、なんだか初めてのことが多すぎて。あんなに同い年の子と一緒にいるのも初めてだったから緊張したよ。だけど、なのはもいたし、新しい友達も出来たからとっても嬉しかった」

 それでね、それでねとしゃべり出したら止まらないフェイトの様子にクロノもアリシアも目を細める。
 おそらく、二人の考えは一致しているとお互いにそう感じていた。

(この子を見守るために生涯を使っても良いかもしれない)

 身振り手振り一生懸命に学校であったこと、嬉しく思ったこと、戸惑いに思ったこと、今度なのは達と携帯電話を買いに行こうという話しになったこと、それをリンディの許可を取りたいということ等々フェイトの口から次々と出される話しにクロノとアリシアは耳を傾け、ずっとこんなことが続けばいいのにと幻想を抱いた。

「それでね、リンディ提督には迷惑をかけることになると思うけど、私もみんなが携帯電話で連絡しあってるのを見ると羨ましいなって思うし……」

 暴走機関車のように止まらないフェイトの口にクロノは微笑ましく思いつつもいつまでも制服のままでいさせるわけにもいかないと考え、フェイトの話しを一旦打ち切らせた。

「話しはまた後で、食事の時にでも聞かせて貰うから。今は部屋で着替えておいで」

『そうだね、クロノの言う通りだ。私はまだやることがあるからこれで失礼するよ』

「あ、うん。分かった。それじゃあお姉ちゃん、あんまり無理しないでね。私で手伝えることがあったら手伝うからいつでも言って」

『うん、そのときはお願いするよ、フェイト。それじゃあ、また』

「うん。部屋に戻るね」

 フェイトはそう言って二人に手を振り、一度リビングを後にした。

「落ち着きがないな、フェイトは。おそらく、君がいるから舞い上がっているんだろう」

 クロノはパタパタと軽快な足音を立てて部屋へ引っ込むフェイトに肩をすくめながら改めてアリシアに向き直った。

『これでも少しは心苦しいんだよ。フェイトに本当のことを言っていないのは確かなんだからさ』

 アリシアは自分に関する真実をまだ話していない。自分が本当はベルディナと呼ばれる人間の生まれ変わりで、自分自身の意識が本来的なアリシアのものではないことをフェイトはまだ知らない。

「それは、僕と母さんが口止めしているからな。君が気に病むことはない」