【リリなの】Nameless Ghost
「このように系を安定させるには3という数字が重要になってくるというのは分かるかな? ベルカ式魔法も発動の魔法陣は基本三角形をしているのもベルカが3というものを重要視していたということの証明とも言われているんだ。実際それが本当なのかは諸説あるけどね。ちなみにミッドチルダの魔法陣が円形なのは、円というものが完璧な図形だという概念かららしい。安定を求めるベルカ、完璧を求めるミッドチルダ。数秘学的、象徴学的にもこれはとても面白いよ」
アリシアは学者が浮かべる悪戯っぽい笑みを頬に宿しながら手を膝の上に戻し、話しを続けた。
「その最初の倍数である6もその次ぐらいに神聖な数字なんだ。そして、その6の数字が3つ。666。特にこの数字はセイクリッド・ナンバーと言われていて、特に聖王陛下関連の象徴図にはそれを連想させるものが数多く含まれている。それどころか、古代ベルカでは666の数字は聖王陛下もしくはそれに近しいものを表記する以外では使用してはいけないっていう不文律のようなものまで存在していたから。闇の書のページ数、666ページというのはとても意味深なんだ。ひょっとすれば、元々は古代ベルカ、特に聖王陛下にちなんだアーティファクトなんじゃないかってね。ごめん、話しを続けて?」
つい長く話しすぎたとアリシアは反省し、クロノに話しの続きを促した。
「いや、とても有意義だったよアリシア。闇の書に関しては実際はこれくらいなんだ。むしろ、アリシアの話しは管理局もつかんでいないような新事実かもしれない。ともかく、闇の書はとても危険なもので下手をすれば、世界一つを滅ぼすだけの力を持つということ。今後は、闇の書の騎士達が主と呼んでいる人物の捜査と騎士達の蒐集の妨害。主にはこの二つ。フェイト、なのは、ユーノには特に騎士達の妨害と逮捕をメインに動いて貰うことになる。それで良いんだな、三人とも」
クロノは少し言葉を鋭角に研ぎ澄まし、横一列に並ぶ三人にサッと視線を這わせた。
「うん。今更後には引けないよ、クロノ」
フェイト、
「私も、あの人達がどうしてあんな事をするのか知りたい。知った上で止めたい、と思う」
なのは、
「僕も二人と同意見だよ。それに、ヴィータは決着を付けたがってた。僕もそうしたいと思う」
ユーノ。三人の決意表明にクロノは「ふう」と肩を落とした。
「まあ、君たちが下りないことは予想していたよ。分かった、だけど絶対に無茶はするな。そして、絶対に僕たちの指示に従うこと。この二つが最低限守れなかったらその場ですぐに下りて貰うからな。半年前の洋上のようには行かないから注意しろ。特になのは、ユーノ。独断専行は二度とゴメンだ」
本来なら民間人が捜査に協力することは非常に厄介な問題を孕む。基本的に民間人は法執行機関の指揮下には入れない、故にもしも彼らが勝手な行動により負傷をしたり命を落とすことがあっても組織はそれに責任が持てないのだ。
それでも、責任あるものが責任を取るのは世の当然であり、場合によっては不要な足枷を背負わなければならない場合もある。
つまり、管理局にとって民間人を戦闘に徴用することは殆ど最終手段に近いものであるということだ。それでもクロノとリンディ、件の責任者である二人はそれを背負い込むことを覚悟した。
フェイト達三人はまだその重みを理解できていないだろう。しかし、アリシアは心の内にクロノ達に感謝と謝罪を述べ、そっと頭を垂らした。
「さてと、話しはこれくらいかしらね」
リンディは面々の方向性が定まったことを見計らいそう言いつつ時計を見上げた。
「あ、もうこんな時間なんだ。そろそろ帰らないと」
その時計の針が深夜にさしかかっている事を確認したユーノは少し慌てて帰り支度に取りかかろうとするが、リンディがやんわりとそれを征した。
「これから帰るっていってももう遅いわ。この国の治安は冗談みたいに良いらしいけど。それでも夜道は危ないから、今日は家で止まっていきなさいなユーノ君。なのはさんも今日はお泊まりだし、ちょうど良いんじゃないかしら?」
「え? でも、寝室は埋まってるんじゃ?」
ユーノはそう言って遠慮しようとする。実際ハラオウン邸には来客用の客間があるのだが、家族と同居人達の寝床を確保するために、その部屋の調整を後回しにしてしまい、未だベッドさえ置かれていない状態なのだ。確かに寝袋なり毛布があれば寝られないこともないが、それでは気を遣わせてしまうのではないかとユーノは思う。
「ああ、それなら私の部屋を使えばいいよ。あのベッドは私一人では大きすぎるから、二人で寝ればちょうど良いよ」
ほんの数時間前には一緒に風呂に入ったんだから、同衾/添い寝ぐらいは問題ないだろうとアリシアは判断した。
「だめーー!! それだけは、絶対に、駄目、なの!!」
アリシアとユーノがベッドを共にすると耳にしたなのはは条件反射よろしく叫びまくり、思わずその場にいた面々全員が耳をふさいだ。ちなみに、至近距離でそれを喰らったフェイトは呆然として目を白黒させている。
「だけどね、なのは。ユーノを床で寝させるわけには行かないでしょう。ただでさえ部屋が足りないんだから、我が儘は言わない方が良いよ」
端から見れば、5歳児に説得されている9歳児という何ともシュールな光景なのだが、どういう訳かアリシアがそれをしている様子はなんの違和感もないのが不思議だった。
(アリシアちゃんって、生粋のお姉ちゃんだねぇ)
アリシアの事情を聞かされていないエイミィはそうほっこりと思いながら、リンディと今後の打ち合わせをするために共にリビングを後にして電算室へ姿を消した。
「だったら、私がユーノ君と一緒に寝る! アリシアちゃんはフェイトちゃんと一緒に寝て! ほら、姉妹水入らずで夜通し語り合えるよ。とっても良いんじゃないかな!?」
「なのは。貴女はその年で親御さんに孫の顔を見させるつもり? 子供は我が儘を言わず大人しく寝てなさい」
「アリシアちゃんも子供でしょう!?」
「少なくとも貴女より大人だよ」
収集が付かなくなった状況を眺め、ユーノは横目でクロノに目をやった。
クロノは「仕方がない」とため息を吐き、二人のいがみ合いに割り込みをかける。
「そこまでだ、二人とも。どうせお互い納得出来ないなら、いっそのこと全員一緒に寝たらどうだ?」
「え? それって、お姉ちゃんとなのはとユーノ三人一緒って事?」
それって何かおかしくないかと思いながらフェイトはクロノにそう聞き返すが、クロノは面を振って否定した。
「全員といったらフェイト、お前も入るに決まってる。ちょうどアリシアの部屋のベッドはちょっとした手違いでダブルサイズのベッドだから、ちょうど良いだろう」
つまり、クロノはアリシア達に川の字どころか冊の字になって寝ろとそう言っているのだ。
クロノのあまりにも意外すぎる提案にアリシア、フェイト、ユーノは一瞬沈黙してしまうが、なのはは手を叩いてそれを絶賛した。
「それ、いい! クロノ君、良いよそれ、四人一緒なんて最高! そうしよう、ね?」
作品名:【リリなの】Nameless Ghost 作家名:柳沢紀雪