【リリなの】Nameless Ghost
まるでワンピースの水着の上におざなり程度の装飾を施しただけのバリアジャケットは、ふくらはぎから太もも、うなじ、二の腕に至るまでまるっきり外にさらけ出してしまっている。
下着とか裸とかが|見られる《・・・・》のは別段どうということはない。まだまだ羞恥心を感じるほどこの身は成熟していないのだから。
しかし、|見せる《・・・》となると話は別だ。自分はたいした人間であるとは思わないが、そこまでするほど安いとも感じていない。
何ともちぐはぐな感性だとは理解しているが、それが今のアリシアの素直な考えだった。
《I hear "Dont't worry about it"》(そのあたりはご安心をと聞いております)
「本当に?」
《Trust me》(信用を)
「まあ、信じよう。じゃあ、プレシード・セットアップ」
《Stand by ready . Get set》
こいつ、レイジングハートとバルディッシュのまねをしやがったとアリシアは密かに思いながら全身からわき出るように展開される魔法人陣と灰色じみた白のな光に慌てて彼女は目を閉じた。この間の二の舞はゴメンだと、閉じた目の上からさらに手の平も当ててその光を極力眼球に入れないようにする。
(私の魔力光は灰白か。黒にも白にも染まらない中途半端。ぴったりといえばピッタリね)
そして、外部より視覚的に遮断された光の中でアリシアの服は肌着や下着と共に微粒子へと還元され一瞬真っ白な素肌を晒す。
色素が薄いため普段より光から遮断している肌は不健康に思えるほど白い。そして、全く起伏というものが存在しない身体をプレシードから伸びる黒い線が包み込み、それは徐々に衣服の形を取り始める。
そして、光が晴れ閉じていた目を開き、アリシアは自分の姿を見下ろし「ほお」とため息を吐いた。
その身体は袖のない上着とそこから下に伸びる無地のロングスカートに包まれ、さらには随分長い薄手のロンググローブによって二の腕も覆われている。若干肩と背中のほんの一部が出ているだけで全体の露出度はほとんど無いといっても良いぐらいだった。
色彩はものの見事な黒。まるでこれは、フェイトのバリアジャケットの逆を狙ったような感じだとアリシアは思う。黒いシックな普段着に使用してもそれほど違和感のないロングスカートドレス。
もしも、この間であった赤毛の少女のような真っ赤なゴシック調のドレスのようなヒラヒラした形であれば、一瞬でジャケットパージを敢行してやろうと考えていたが、シンプルで嫌味のない、カジュアルにもフォーマルにもどちらでも対応出来そうなこのバリアジャケットは「悪くない」という感想を下した。
《Dou you like it? It is the best masterpiece of Chief.Atenza. And this Jacket have a function to cut the UV lay. I hope you are better before》(如何でしょうか? アテンザ主任の最高傑作だそうです。なお、このバリアジャケットはUV光を軽減する機能があるらしく、今までよりも随分楽になったと思うのですが?)
フリフリと首を回して全身を見回すアリシアに、彼女の身の丈を超える長柄の戦斧となったプレシードはそう声を掛けた。
それを聞いて、アリシアは「確かに」と感じた。今までに比べれば身体が軽くなったような感触もある。
しかし、彼女は無限書庫の薄暗い光源をじっと見つめ「やっぱり駄目だ」と声に出してそれから目を背けた。
「眼球から入る分はそれほど軽減されていないみたい。残念だけどね」
確かに、視界や視野を変えずに眼球を守れるのならそれに越したことはないのだが、それを魔法的に行うにはアリシアの魔力は不足している。
《Yes , Your Highness. I will report that there is more improvement》(了解しました。まだ改良の余地ありと報告しておきます)
ひとまず、正規起動させられただけでも実験は成功だろうとアリシアは思うが、プレシードにしろマリエルにしろそれだけでは満足できない拘りがあるようだ。
アリシアとしてはそれはそれはとても有り難いことなのだが、ひとまず本来の業務に差し障りのない程度にと釘を刺しておき、さらに「色々してもらっても私には支払えるモノがないから」と至極まっとうな事も言っておいた。
プレシードも金のことを言われてしまえば何も言えなくなる。主の懐事情を思いやるデバイスも奇妙なものだ。しかし、アリシアは民間協力者で本来なら事務系の雇用契約となっているので、デバイスに関しては完全に自費で行われていなければならないのだ。
今回のことに関しては、戦闘要員の嘱託魔導師のフェイトのデバイスを修繕するためのベースとされたため、このような事になってはいるが、これからとなるとどうしても私財を削るかマリエルに負担を強いることになってしまう。
マリエルとしては個人的な研究のためという動機があるのだが、アリシアとしてはなにやらマリエルに借りを作っているようで承伏できない部分がある。
人間関係は基本的にギブアンドテイク。一方的な善意は身内以外はノーサンキュー。特に金に関わることであれば身内相手でもはっきりとしておきたい。それがアリシアの基本原則である事は代わりのないことだ。
「そのデバイス、君の妹さんのとそっくりだよねぇ。バルディッシュって言ったかな?」
プレシードとの会話が一段落したところを見計らい、リーゼロッテは無重力空間にフヨフヨと遊泳しながらアリシアの側に近寄り、何となくそのデバイスを指でつついた。
「まあ、バルディッシュの姉妹機……兄弟機というべきか……だからそっくりなのは当たり前。唯一の違いは、カートリッジシステムがマガジン方式になってることかな」
そう言ってアリシアはプレシードの先端の方向、斧刃の取り付けられているヘッド部分より僅か下方のジョイント部分に目をやる。
「なるほど、予備の方を使ったと聞いた。これがそうか」
そこに設えられたバナナ状に歪曲した弾倉に排莢装填をサポートするスライドフレーム。そして、その内部にはカートリッジを激発させられるチェンバーが備えられている。
それに使用されているのは、フェイトやあの騎士達が使用するカートリッジより二回りほど口径の小さいものだ。アリシアにはあの大口径のカートリッジを扱うには負担が大きすぎる。故に、それより二段階ほど小さな口径のものを使い不可能を可能としている。
それ故、フェイトのシステムの装弾数が6に対してアリシアのものはそのほぼ1.5倍の9+1発という仕様になっている。
弾倉はダブルカアラムで若干太いがそれも特に気になることではない。
(問題は私が扱いこなせるかと言うことだね)
ミッド式とかベルカ式はあまり自身はないがやるしかないとアリシアは思い、捜索の開始を宣言した。
「それじゃあ、プレシード。一応ユーノから貰ってきた検索魔法と読書魔法を用意して。カートリッジ・ロード」
作品名:【リリなの】Nameless Ghost 作家名:柳沢紀雪