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【リリなの】Nameless Ghost

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《Yes , Your Highness. Load cartridge》

 ガシャンとマガジンからカートリッジがチェンバーへ送り込まれる音が静かな書庫に響き、アリシアの体中を自分と異なる異質な魔力が道行く。
 アリシアは、慣れないその感触に僅かに眉をひそめ不快感を露わにしながら、ユーノがアリシアに会わせてくみ上げた検索魔法と読書魔法をゆっくりとロードさせていく。

 ミッドチルダ式の魔法を使うのは初めてだ。アーク式魔術の様式とは明らかに異なる。そもそも使用する魔力という概念が異なる。

 全身の細胞を活性化させるような熱がこみ上げてくる。アリシアは、その感触を目を閉じて制御しながら、「ひょっとして」と思うことがあり、同時にアーク式魔術の魔術神経を活性化させてみた。

(やっぱりか……違和感はあるけど……馴染む……)

 アリシアは徐々にカートリッジよりの魔力が魔力神経を浸食する感触を「粘っこい」と称した。

(だけど、応用は出来る……試してみよう)

 ”粘っこい”魔力を焦らずゆっくりと神経へと通していく。その感触は、水を吸うストローできわめて粘性の高い油を吸い込むような感覚だった。どこか詰まる感触がするが、吸引する力……つまりは魔力を流し込む圧力……を増してやればズルズルと引きずるようにだが確実に魔力が神経に通っていくことが分かった。

《Now , Loading the Spel. Start the searching》(術式のロードを確認。検索開始します)

 アリシアはじっとりとにじみ出る汗をぬぐいながらホッと一息吐いた。

 ものすごくリソースを消費する。リンカーコアへの負担は極小に済ませる事が出来たが、魔力神経に対する負担が半端ではない。
 しかし、魔力神経を使用できることが分かれば先は明るいとアリシアは思う。
 何せ、この身体はミッドチルダ、ベルカ式の魔法に対する適性は皆無ではあるが、アーク式魔術への適性、才能と呼ばれるモノはまさに100年に一人の逸材。
 アリシア・テスタロッサは、ミッド式魔法に関して100年に一人と呼ばれる高町なのはやフェイト・テスタロッサのような天才と同じように、一つの天才と呼ばれる身体なのだ。

『検索領域拡大。カートリッジロード』

 アリシアはプレシードにさらに一発のカートリッジをロードさせ、術式を発現させるために消費したカートリッジ一発分の魔力を補充させた。

『領域拡大を確認。術式保持。プレシード、カートリッジロード』

《Yes,cartridge load》

 術式を発動させるのにカートリッジを一発消費し、その効果を広げるためにさらに一発。そして術式を保持するためにさらに一発。

 この一連の作業。通常の魔導師ならば、なんのコストもなくごく自然に行えるものだろうが、アリシアは都合3発のカートリッジを消費してようやく成し遂げられたことだった。

 しかし、それまで魔法に対して全くの適性も才能もないと言われていた人物が、こうして多少高度な部類に入る魔法を発動させそれを保持するに至ったのだ。

「なんか……あたしら歴史の転換点に立ち会ったんじゃない? アリア」

 それを側で眺めていたリーゼロッテは、アリシアが行ったことが魔導師的に考えればかなり信じられない光景だと言うことを理解し、言葉を失った。

「コストの問題が何とかなれば……ひょっとすれば……ね」

 リーゼアリアはそれが何かとは口にしなかった。しかし、それが何か大変な事を成し遂げるだろうと言うことは何となく想像が出来たのだ。

「アリシア、そろそろあたし達仕事があるから、帰っても良いかな?」

 ここにいると時間の間隔が喪失してしまうとリーゼロッテは感じる。二人は次の用事のために移動を開始しなければならない時間だと気がついた。

『うん、分かったよ。お疲れ様』

 目を閉じ、身の丈のおよそ二倍はあるかというデバイスにしがみつくように中空に漂うアリシアは念話で二人に返事をした。
 もしかしたら、喋る余裕が無いのかもしれないとリーゼ姉妹は少し心配してアリシアを見上げるが、アリシアの表情は、穏やかとは言い難いが、何かを耐えるような苦痛の色でもなかった。

『安心して、良いのかな』

 リーゼロッテはアリシアに聞こえないようにそっとリーゼアリアに念話を飛ばすが、リーゼアリアは「分からない」と面を振り、

「無茶はしないで。暇なときはなるべく来るから、そのときは頼って」

 そう言い残し、彼女はリーゼロッテの手を引いて無限書庫を後にする。

(行ったか)

 アリシアはそう思い、ふうとため息を吐いた。

 平気なフリをするのはとても疲れる。アリシアは一度術式の発動を停止し、思いっきり肺に溜まった空気をはき出した。

(発動には成功したけど……リソースが圧倒的に足りないなあ。やっぱり、この身体が邪魔なんだ)

 この身体ではすべてが制限されてしまう。意識が身体に残る故に、捜査領域の拡大が限定的になり、距離が僅かに離れればその精度や密度が圧倒的に低くなる。
 アリシアは消費したカートリッジを予備から三発引っ張ってきて、マガジンにそれを装填した。

(それを解決する方法は、ある)

 アリシアはそれを決意し、再び術式の構成のため目を閉じる。

 術式の発動と同時にアリシアは自らの意識を拡大させる。
 それは、まるで眠りにつくような、意識そのものが身体を抜け出して中空へと漂うように。まるで自分自身が世界にとけ込むような感触だ。
 そうすることで、意識の効果範囲を押し広げ検索範囲を底上げする奥の手。

 それは、非常に危険な手段ではあったが、アリシアは戻ってこれるギリギリを認識しながら眠りにつく。

 空中に漂い、眠りにつく少女。その意識に入ってくるモノは夢と現実の区別のつかない情報体そのもの。
 夢の領域まで意識を拡大させ、自我が肉体を超えて拡大していく。

 しかし、その感触はアリシアにとってまるでゆりかごに寝かされた幼子のように感じられていた。

 彼女の手に握られているバルディッシュ・プレシードは主よりもたらされる膨大な情報を一つずつ確実に取得し、処理を開始した。

 夜の闇の深淵のような書庫の空間に、プレシードの放つ光の明滅だけがただ無機質に繰り返されていた。