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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第十四話 引かれたトリガーの行方はどこへ



 アリシア、リーゼ姉妹と別れ次の仕事を処理するため本局の廊下を歩くクロノとエイミィに、リーゼ姉妹から『アリシアが無事に無限書庫の業務に就いた』と知らされ、二人はひとまずホッと一息吐いた。

「ちょっと心配だった?」

 本局の空気は地球とは違う。風の流れは空調の流れ。完璧に人の手によって制御され、あらゆる不純物を取り除いて流される空虚な風だとクロノは感じた。

「アリシアの優秀さは僕がよく知っているからね。母さんほどは心配していなかったさ」

 クロノは今まで気にならなかったその感触に少し眉をひそめながら、そのまま表情をぶっきらぼうな様子にシフトしてエイミィに答えた。

「あー、結構心配性だもんね。特にあの二人のことに関しては」

 エイミィには苦笑いをしながら出かけしなにリンディが浮かべていた表情を思い出していた。
 クロノのことに関しては割と放任主義的なリンディではあるが、それが事フェイトやアリシアのことになるとそれはまるで過保護な母親のような様子に一変してしまうのだ。

 それはおそらく、手のかからない(ようにしてしまった)クロノへの反動なのだろうとエイミィは推測しているが、やはり母親を知らない二人、特にフェイトに対してせめて親らしい事をしてあげたいという真摯な願いなのだろう。

(つい甘やかしたくなっちゃうのは分かるんだけどねぇ)

 とエイミィは思うが、彼女としてはその矛先がアリシアにも向かうことがどうにも理解が出来ない。
 アリシアはエイミィにとって守るべき対象と言うよりは、越えるべき壁としか感じられないのが現状だ。特に、アースラに逗留していた半年を含め、その後に受けたアリシアからの仕打ちを思えばそれも致し方がない。
 それでも、アリシアがいると楽しいと思えるのは彼女にしても不思議に思うところでもある。

「フェイトはともかく、アリシアに関しては一切心配する必要はないとは僕も言っているけどね。そのあたりは感情的な所なんだろう。実のところ、あまり理解は出来ないが」

「あっは、それ、同感。クロノ君ももうすぐお兄ちゃんになるんだから、やっぱり義妹の事は心配になっちゃう?」

「当たり前だ」

 エイミィはそう断言するクロノに「おっと」と二の足を踏むことになる。彼女の想定では、てっきり照れ屋よろしく「そんなことはない!」とムキになって反論するはずだった。
 しかし、それも仕方のないことなのかなとエイミィも思い直すことが出来た。

「うん、そうだね。クロノ君がお兄ちゃんだと、フェイトちゃんも安心だ」

 エイミィがあえてそこにアリシアの名前を出さないのは、どうしてもアリシアがクロノの義妹になる状況を思い浮かべることが出来ないのだ。

「アリシアちゃんは、どっちかというとお姉さんって感じだよねぇ。いつもはフワフワしてるけど、ここぞって時は有無を言わせない感じ? 不思議だよねぇ、あんなに小さな子なのに」

 フワフワしているというエイミィの例えをクロノは理解できないが、後半のことに関しては「当たり前だ」と声に出さす呟いた。
 エイミィはアリシアの事情を知らない。フェイトも、なのはもそうだ。
 アリシアが年相応ではない知識と思考能力を持っていることは、プレシアによって知識が与えられていたという説明にもなっていない説明でごまかしているが、それが今後の彼女に関する人間関係にどう影響してくるのかは予測が立たない。

 果たして、彼女が本来的に彼女自身ではないと言うことが明るみに出ればいったいどうなるか。

(アリシアなら、「そのときはそのときで、なるようになるだろう」と答えるだろうな)

 そう、クロノは口に笑みを宿した。

「さってと、午後からはなのはちゃん達も来るわけだし、お仕事頑張ろうか」

「仕事といっても、機能の作戦失敗の報告書と始末書に追われるだけのことだがな。ああ、司令部への弁明も入っていたか。全く、頭が痛くなるな」

 クロノはこの先に待っている煩わしい業務を思い額に手を当てた。

「あれは、ちょっときついよね。弁明の余地は無しか……」

 あれだけの作戦を構築し、人員を投入し、管理外世界での作戦行動というリスクまで背負ったのだ。作戦の目的である敵性勢力の捕縛、闇の書の拿捕、最低でも敵性勢力の逃避経路の割り出しと題打たれて行われたあの作戦。
 その結果が、そのすべてが果たされず終了では文字通り話しにならないのだ。例え、敵性勢力の戦力が未だ把握し切れていないことであっても、予期せぬ介入者の存在があったとしてもだ。

 グレアムの後ろ盾が無ければ、今頃自分たちはこの事件から下ろされていただろうとクロノ達は認識している。

(だけど、僕たちは無事で生還できた。かなわない相手じゃない)

 クロノはそう心に言い聞かせ、本局施設の一角にある執務室の扉をくぐった。

 なのは達が本局を訪れるまでおよそ6時間。そのときにはデバイスの調整を兼ねた戦闘訓練という密度の濃いスケジュールが待っているのだ。

「それまでにへばってしまわないように。エイミィにもデータ取りを頼むつもりだからね」

 クロノは一言エイミィにそう伝え、仕事に取りかかった。

*****

 夢を見ている。そう錯覚してしまいそうになる。
 いや、人の見る夢が記憶の整理を役割としているのなら、あながち今自分が見ているものも夢の一環に違いないとアリシアはふと思った。

 そして、その感情も流れてくる情報の奔流に流されて消えてしまった。

 まるで、今の自分はただの情報機器の端末のようだとアリシアは考える。
 広大な空間にひしめく膨大な情報。ただ無造作に垂れ流されるだけの情報の波を摘みとり、そしてその流れを整えるのに必要なもの。
 人間一人の機能ではとても足りず、それを何とか補うためにアリシアは自分自身の自意識の枠を広げ、自我を保てるギリギリまで発散させることで対応した。そして、それは同時に自信にはそぐわない両の魔力を制御する助けにもなっている。

 今のアリシアには、自分自身を定義づける身体というものが認識できず、自分の感覚や感情、理性といったものでさえ単なる情報の海の淀みとしか感じられない。

 こんな事が出来るのは、この身体と自分という意識が一度は死んでしまったモノだからなのだろうかとアリシアは考察をする。
 今ひとたび、自分が自分であると定義しているこの自意識を手放してしまえば、自分もこの海の中のただ一つの情報へと還元されてしまうかもしれない。
 ひょっとすれば、それこそが魂という情報体であり、それこそが死後の世界というものなのかもしれないとアリシアは考察するが、それを試す欲求は浮かんでこない。

 カートリッジより送られてくる魔力の固まりが、自身の構築する術式に供給された。アリシアの視界は外界を投影していないため、自分の周囲に広がる術式の構成式がどのような変化を遂げたのかは視認できない。しかし、その魔力は確実に自己の認識できる術式の強度を上げ、一瞬だけではあるが流れ込む情報の勢いが増したように感じられた。