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【リリなの】Nameless Ghost

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 問題は、許可されていない人間でも入るだけなら出来ることなのだが。

『そうだね。ユーノもそうしようって言ってるし。じゃあ、先に行くね』

「ん、後で」

 その言葉を最後に、フェイトは携帯電話の通信を切り、アリシアの眼前のモニターも消滅した。

「プレシード。今までのデータをサーバーに移して休憩にしよう」

《Yes》(了解)

 休憩から戻ったら、一度蒐集した情報のまとめをしないといけないなとアリシアは後のスケジュールを何となく決め、プレシードの本体に残っていたカートリッジからの魔力を拡散させた。
 予備の弾倉はそのまま本体に装填せず、そのまま腰のあいたパウチに差し込んでおくことにした。
 まだ、管理局ではカートリッジの安全規則は定められていない。しかし、戦闘時以外に実装されたカートリッジを装填したまま持ち歩くのは何かと体裁が悪かろうとアリシアは思い、プレシードの排莢スライドもオープンにしておくことにした。

 そして、アリシアは腰のポーチに入れてあったフックショットを取り出し、それを最も近い出口付近に狙いを付け太さ三ミリ程度のワイアーが取り付けられたフックを射出した。
 フックとってもその先端に取り付けられているのは0.5テスラほどの強力な電磁石で出口付近に設えられた鉄を基調とした軟磁性体によって捕らえられるようになっている。
 また、射出速度もゆっくりに設定できるため万が一それが書架に衝突しても書物を傷めることはほとんど無く、出入り口付近の書架にはそれほど重要な書物も置かれていないため特に気を張る必要もない。
 先端の磁石と接合されているワイヤもカーボン・ナノチューブ拵えであるため、強度も完璧だ。この細いワイヤ数百本あればL級時空航行艦一隻が係留できるというのだからたいしたものだろう。
 魔法技術全盛のこのミッドチルダであっても、こういったアナログな装置は単純で信頼性があるのでなかなか重宝されており、研究も現在でも盛んに行われているのだ。

 十メートルも離れていない出入り口のキャッチャーに上手くフックが固定され、アリシアは念のため何回か引っ張ってそれを確認すると、手元の装置のボタンを押して最低速でワイアーを巻き上げた。

 歩く程度の速さでふわふわと移動し、アリシアは無重力空間と通常重力空間の境目である書庫の隔壁にたどり着き何とか浮き上がる身体を支え、地面に脚を付いた。

「プレシード、転送装置にコネクト。戻ろう」

《Yes , Your Highness. Conect open》(了解。接続開始)

 無限書庫は本局内の施設ではあるが、それには少しだけ語弊がある。無限書庫はその空間の特殊性から直接本局と空間を繋いではいない。それは、同一平面上に異なる重力場を形成することを禁止した物理法則のせいだろうとアリシアは考察するが、それも確かな情報ではない。
 ともかく、無限書庫と管理局本局は転送という手段を用いてでしか行き来が出来ないのだ。その転送に必要なエネルギーは管理局本局の動力と無限書庫が保有する独自の動力でまかなわれているため、転移者が魔力を消費する必要はない。
 アリシアは、次第に活性化する転送魔法陣に慌ててサングラスをかけ目を閉じた。
 流石に二の舞はゴメンだ。次やったら確実に失明すると医者の太鼓判を押されてしまえば従うしかない。

「……っ!」

 サングラスをかけ、きつく目を押し閉じても僅かに光が差し込むほど転送の光は強い。いっそのこと、30°ごとに六層になった偏光板で作られたグラスでも購入しようかとアリシアは考える。光を一切遮断してしまえば、こうして光に恐怖する必要もない。

 しかし、眼球に痛みが来ないのはまだマシであることは確かだ。
 アリシアは消える光を前にため息を吐き、突如襲いかかった強い加重に思わずプレシードを取り落とし、そのまま姿勢を保つことも出来ず頭から地面に倒れ込んでしまった。

「痛っっ!」

 思わず出してしまった手の平が床にあたり、じんわりとした熱い感触が痛みと共に腕を昇ってくる。そして、その腕もその勢いを殺しきれず、アリシアはそのままばったりと床に突っ伏してしまう。

「あーーー、重力って重い」

 何となく矛盾しているような言葉を吐いているなとアリシアは自覚しながらも、床に倒れ込んだままサングラスを外し、落としてしまったプレシードを何とかたぐり寄せ、「よいこらしょ」とかけ声を上げながらプレシードを杖について何とか立ち上がった。

 立ち上がってぱんぱんと服に付いた埃を払いながら、アリシアはもう一度ため息を吐いた。

「次は、座るか寝転がってから転送しよう……」

 まだ体重が軽いおかげで骨にも関節にも異常はなかったが、もしもこれが背の高い人や肥満体質の人だったら、下手をすれば脚の骨を折るかもしれないとアリシアはブルッと背筋を震わせた。

(ついでに言うと、お腹すいた)

 無重力空間では色々と身体的な代謝機能に異常が走る。やはり、人は重力がないと上手く生きていけないようだ。無限書庫ではカスの飛ぶものは口に出来ないし、水分も取りにくい。さらに言えば、ものを食べても上手く食堂を通過してくれないし、三半規管にも異常が走って何もしなくても車酔いのような症状が訪れる。
 ついでに言えば、食欲も減衰するし喉の渇きも感じにくくなるのだ。

 あんな空間に一週間もいたらそれだけで身体を壊しそうだとアリシアは思い、震える膝に鞭を打ちながら本局の廊下を歩き始めた。

 途中でプレシードを杖代わりにしながらアリシアは何とか本局の展望台付近のラウンジに顔を出した。

 来る途中、何かと難儀そうに杖を突くアリシアを怪訝な顔で見る局員も何人かいてアリシアは少し居心地の悪さを感じていた。ついでに言えば、20メートル歩くたびに駆け寄ってくる親切な局員もいて、託児所に連れて行かれないよう対処するのにも骨が折れた。
 迷子のアナウンスが本局中に流れるなどしゃれにもならない。今度所属を示すネームタグを作ってもらおうとアリシアは堅く心に誓い、既に到着して自分を待っていた馴染みの三人の姿を探した。

 今の時間帯はこれから残業を迎える局員が束の間の休憩を取っている様子だ。就業中にはまばらなラウンジも、今の時間帯が昼休みと同じぐらいに忙しいらしく、厨房や給仕をするウェイター、ウェイトレスが忙しそうにフロアを駆け回っている。
 少し割高だが軽食もここで出されるため、夕食代わりに食事を取っているグループも多数確認できる。

(少しだけ何か食べようかな)

 アリシアはそう思いながら、ラウンジの奥喧噪からは少しだけ離れた場所に目的の三人を見つけた。三人はそれぞれ好みの飲み物を口にしながら仲良く会話を楽しんでいる様子だった。

 アリシアは身長よりも長いプレシードを引きずるようにして奥の席へと向かっていく。途中、すれ違った人からは『こんなところでデバイスを出しっぱなしにするとは』といった視線を貰うが、そのあたりは身体の都合と言うことで許して欲しいとアリシアは思う。