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【リリなの】Nameless Ghost

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 どうも、プレシードは正規起動させる際もカートリッジを消費しているらしく、一度待機状態に戻してしまえばセットアップにも余計な労力を使うことになるのだ。

「お待たせ」

 ずりずりという斧杖の石突きを引きずる音と共に顔を見せたアリシアに、三人は少し驚き一瞬会話が止まってしまった。
 しかし、お互いに視線を交差させて、アリシアのことだ何か理由があるのだろうとお互いに納得した上で三人はアリシアを歓迎した。

「お疲れ……みたいだね、アリシアちゃん」

 お疲れ様と通例通りの挨拶をしようとしたのだろうが、なのははアリシアの心底疲れた様子を見て苦笑いと共にアリシアを労った。

「そんなに疲れた顔してる?」

「してるよ、アリシア。無限書庫ってそんなに大変なんだ」

 そう答えるユーノに、「快適だけど疲れるのは確かだね」という返答に困るような答えを返しつつアリシアはプレシードを床に置いて席に着き、近くを通りかかった給仕に「アールグレイをホットで」と頼んだ。
 ふと、ここで『りんでぃ・すぺしゃる』を頼んだら給仕はどのような対応をするのだろうかという悪戯心が湧いたが、本当にそれが運ばれてきた時のことを考えるとぞっとしないので挑戦するのはよっぽど頭が狂った時だけにしようと心に誓った。

(いや、それ以前にこの子達が止めてくれるか)

 どういった経緯かは恐ろしくて聞けないが、リンディの”アレ”を経験済みの三人なら顔を真っ青にして

「お姉ちゃん、お仕事ご苦労様」

 と、アリシアの隣に座るフェイトはそう言って彼女の側に砂糖の容器を差し出した。

「うん、ありがとうフェイト」

 アリシアは早速砂糖をスプーンですくい、この混雑の割には早く運ばれてきたアールグレイに適量振りかけるとごくりと一口飲んだ。

 身体的な疲労はそれほどもでもないが、やはり脳が随分と酷使されていたらしく、砂糖の甘みがことのほか美味に感じられた。
 アリシアは時折周囲から流れ込んでくる「何で、こんな所に子供が?」「親はどうしたのかしら」という何となく無粋に感じられる視線を無視してひとときのティータイムを堪能した。

「おいしい? お姉ちゃん」

 アリシアがあまりにもくつろいだ様子で紅茶をすするので、フェイトはよっぽどその味が満足のいくものだと思った。

「いや、実に適当な味だね。出来合のものか、インスタントのどちらかだろうね」

「そりゃあ仕方がないよ。アリシアの舌を満足させられるものなんて、それなりのティーハウスでもないと」

 こんな大衆向けのラウンジで何を言っているのかとユーノは苦笑してコーヒーを口にする。

「こういう所だからこそ最高のものを出さないと思うんだけどね。局員の憩いをその程度に見られているなんて少し残念だな」

 安い葉っぱでもそれなりに気を遣えば美味に入れられるのだ。それをしないのは、ラウンジのマスターの怠慢かそれが出来る人員を投入しなかった人事部の無精だろうとアリシアは断じる。

「こういう細かいところを充実させれば、自動的に局員のモチベーションが高まって、結果的に仕事の効率が上がって事件の解決率にも貢献すると思うんだけどね。時航艦の食事が陸とか空に比べると比較的味が良いのも閉鎖された空間でのストレス解消の意味合いが強いし。食が人に及ぼす影響って言うのはかなり大きいと思うよ?」

 アリシアは紅茶のマグカップでユーノを指しながら風が吹けば桶屋が儲かるような理論を展開した。

 アリシアの横ではフェイトがしきりに頷いている。それが果たして理解して納得していることなのか。それとも「アリシアの言うことには間違いはない」という盲目的な信頼のなせるものなのか。
 ユーノはおそらく後者だろうと判断しつつアリシアに反論を返す。

「じゃあ、例えばアリシアの言うと入りになったとして、本局のラウンジや食堂の質が向上したとするよ? それにかかるコストがどれくらいになるのかな? たぶん、多くの局員の人は――僕が判断するのは失礼かもしれないけど――それに予算を割くぐらいならもっと他に掛けるものがあるって思うだろうね。それに、そうなったとしたら食事の値段がどうしても高くなっちゃう。それは、局員の人にとってはかえって負担にならないかな?」

「その負担に勝るだけの改善が出来ればなんの問題もないだろう」

「だったら、初めからそんなコトしなくてもプラマイ・ゼロって事じゃないか」

「味が良くなった上で±0なら言うことなしじゃないか!」

「それは! 食事だけのことだろう!? その予算を他に回せば良いんじゃないかって言ってるんだよ! 僕は」

 決闘で打ち合う剣のごとくマグカップを当て合う二人に、それまで防戦としていたなのはとフェイトは慌てて二人を止めにかかる。

「ユーノ君、アリシアちゃん! こんなところで喧嘩しないで。特にアリシアちゃん!」

 普段は優しくて、誰とも喧嘩などしそうにもないユーノがどうしてことアリシアに関してはこうけんか腰になってしまうのだろうか。なのはは、どこか釈然としない感情が胸にざわめかせるのを感じながら、レイジングハートに助言を求めようとする。
 しかし、肝心のレイジングハートは訓練後の調整のためメンテナンス・ルームに拉致されているためそれも不可能だった。
 肝心なときに役に立たないとなのはは思いそうになるが、この場にレイジングハートがあれば、火に油を注ぐ事になっていたかもしれないと思いつき、少しだけ背筋を震わせた。

 レイジングハートがいなくて良かった。と、主にさえこのような感情を持たれるデバイスとは実にあっぱれである。

「お姉ちゃん、ちょっと冷静になって。ユーノもあんまりお姉ちゃんを困らせちゃダメだよ」

 この半年で重度のシスコンになってしまった親友を眺め、ユーノはため息を吐きながら、今にも接吻をかましそうになるほど近づけていた上体を引いた。

「この続きは今度だね。アリシア」

「受けて立つよ、ユーノ」

 二人はお互い威嚇するような笑みでにらみ合い、この場を終わらせた。

(最も、半日もすれば綺麗さっぱり忘れるだろうけどね)

 と二人とも同時にそう考えていたのは、今更確認し合うまでもないことだ。
 実際、ユーノとアリシアにとってはこういった議論のぶつけ合いはそれほど珍しいことではなく、これは一種の暇つぶしであり、趣味の一環のようなものになっている。これらはベルディナの生前にはよく行われていたものであり、二人をよく知るものにとっては放置しておいても問題のないことと認識されている。
 どれだけ後に引いても最長で半日。それだけあれば、二人ともケロッとしていつもの調子に戻ってしまうのだ。

「そ、そう言えば、今日の訓練は凄かったよね!」

 どことなく悪くなってしまった空気を払拭するようにフェイトはにこやかに、少し頬に汗を浮かべながら話題を転換しようとする。

「う、うん! クロノ君があんなに強かったなんて知らなかった」

 なのははフェイトの配慮を正確に理解し、彼女の話題に乗った。

「確かにクロノは執務官だから、並大抵じゃないだろうね。私は直接は知らないけど、そんなに強かった?」