美少女オタクと鏡音レン
コーラス - Side Rin
鏡音リンです。
私とレンがマスターの家にやってきてから、数日が過ぎた。私はといえば、毎日毎日いろんな曲を歌わせられてもう大変。でも、初音ミク先輩とも仲良くなったし、結構たのしくやってる。
でも、問題なのはレン。うちのマスターは典型的な美少女オタク。レンには見向きもしないの。おかげで、今日も私はミク先輩とセッションの練習だって言うのに、レンは一人隅っこで膝抱えてる。じっと私たちのほうを見て、歌いたそうにしているのを見ていると、かわいそう、というよりイライラしてきちゃう。そんな目で見てるくらいなら、自分から歌ってみせろっての。
と、言葉がすぎたかな。
でも、そう思ったのが通じたのか、私が歌ってると、レンが同じフレーズを歌い始めた。私とは違う、レンのボーイソプラノは、とても力強くて、きれいだった。
「そこ、雑音入れんな!」
なのに、マスターはぴしゃりとレンをそんな風にしかりつけた。
レンは反論した。当然よ。ボーカロイドなんですもの。でも、マスターには通じない。レンは泣きながら駆け出してしまった。
なんでマスターはレンの魅力がわからないのかしら。あんなにいいのに。
マスターはがしがしと頭をかきながら私たちの方に戻ってきた。放っておくつもり? なんて男なの。
「マスター。レン君出て行っちゃいましたよ」
ミク先輩も怒っていた。ここで放っておく男だったら、私だって黙っちゃいないわ。二人して、マスターを睨みつけた。
「何だよ、二人して。いいじゃねーか。出て行きたいんなら、出て行かせれば」
「よくありません。レン君泣いてたじゃないですか」
「そうよ、マスターひどい」
「いや、だって」
「だってもなにもありません。レン君迎えに行かないんだったら、私、これ以上歌いませんから」
ミク先輩のその一言がきいたのか、マスターは押し黙った。
「レンを歌わせないって言うなら、私も歌いません!」
私も一層力をこめた。そのとき握り締めていたマイクが、ばきっと嫌な音を立てたのに、さらに一層マスターが青くなった。
「わ、わかったよ、行きゃいいんだろ、行きゃ!」
「コートもお忘れなく、マスター」
ミク先輩がマスターにコートを投げつける。
逃げるように去っていったマスターを見送り、私たちは手をたたいて喜び合った。
「まずは一歩進んだわね」
「でもまだまだですよ。次に進めるなら作戦を練らないと」
「そうね。マスターとレン君にラブラブになってもらうためにもがんばらないとね」
「そうです。名づけて、マスレン計画」
ふふふ、考えただけで口元がにやけてきちゃう。
一人で考えていただけだと、ちょっと寂しかったけれど、二人ならもう、妄想も無限大。
ああ、いいお姉さまと出会えて本当に良かった。
私たちは、そうやって二人が帰ってくるまで、次の一手をたくらみあった。
作品名:美少女オタクと鏡音レン 作家名:日々夜