美少女オタクと鏡音レン
覚醒!
マスターはぐったりしていた。なぜなら、鏡音リンレンを買ってからというもの、ろくな目にあっていないから。
期待していたリンの調整は思ったよりも困難で、その上おまけだと思っていたレンには反抗され、しかもレンを歌わせないなら自分も歌わないと、ミクとリンにストライキを起こされてしまったのである。仕方ないからレンをリンのバックコーラスとして起用してみたものの、これがリン以上の難物だった。
「だから何度言ったらわかんだ、このガキャー!! そこはそうじゃねーだろおおお!!」
「そう言われたって、このパラメータじゃこうとしか歌えないんだって! あんたの入力がおかしいんだろ!」
ああ言えばこう言う。ぶちっと、マスターの中で何かがぶちきれた。
「もういい! 今日はしまいだっ。俺は風呂に入る!」
もう、こんな奴に付き合ってられるかと、マスターは匙を投げ出した。明日からはやっぱりレンは使わないことにしよう。いくら声が良かろうが、使えない男ボーカロイドを使うほど、マスターは懐の大きい人間ではなかった。
そう、風呂に入りながら決意をして、風呂から上がった後。
濡れた髪をタオルで拭きながら、缶ビールでもと冷蔵庫に手を伸ばしたときだった。ソファの上に人影を見つけた。レンだった。
ふてくされて寝てしまったのか、ソファの上で彼は体を丸めていた。
また、苛立ってきた。
こいつさえ居なければ、今頃ミクとリンと三人でうはうはのはずだったのに。こいつのせいで台無しだ。
ふと思い立って、マスターはレンの頭を小突いた。これだけ厄介なのだから、少し小突きまわしてやらんことには気も晴れない。
うーんとレンがうなりをあげた。しかし、ちょうど、深い眠りに落ちてしまったのか、目も覚めないらしい。ますます、マスターは調子に乗った。
「けっ、お前さえ、居なけりゃぁこんな面倒もなかったってのによ。うりゃうりゃ」
「マスター、許して……。俺、もっとがんばるからぁ……」
ぐすっとレンがすすり上げた。
ズキューン!
何かがマスターの心臓を狙い撃ちにした。
マスターは固まっていた。
どきどきと、心臓が早鐘を打ち鳴らす。
「マスタ……ぁ」
まるで身悶えのようにレンが寝返りを打つ。
ちらりと、そのとき裾から覗いた脇腹、襟から覗く鎖骨。無防備にさらけ出されたうなじ。それが突然目に入ってきて、くらくらとめまいがした。
『ま、待て俺、こいつは男だ、男だろう!』
もう一度見る。確かに、胸はない。けれど、レンは14歳設定。体型だって双子のリンとさほど変わらない。それに今頃気がつくと、頭の中は大変なことになりつつあった。
「ぎゃーーー! 俺は変態じゃねーーー!!」
いや、ロリコンという時点ですでに変態だと思うが、それはおいて置こう。
「ん……? ますたー、また練習か?」
そのとき、叫び声に気がついたのか、レンが起きだした。寝起きのとろんとした目元、けだるげな腕。寝乱れた服。
ぶはっと噴出したものを抑えつつ、マスターは叫んだ。
「今日はしまいだっつったろ! ガキは早く寝ろ!」
それだけ言い残すと、マスターは自分の部屋に駆け込み、頭から布団をかぶった。
果たして、マスターの明日はどうなるのか。
ちなみに、こっそり、別の部屋から二人の腐女子が覗いていたことは、内緒。
作品名:美少女オタクと鏡音レン 作家名:日々夜