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美少女オタクと鏡音レン

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パラダイス



「みんなでお出かけしませんか?」
 ミクとリンが二人でやってきたと思ったら、そんなことを言い出した。この間の一件もあるし、また、なにか企んでいるのか。
「そんな暇がどこにある」
「マスター、いつも暇そうじゃない」
 言い返したら、言い返された。もっともな言い分である。
「別に何も企んでたりしませんよ? ただ単に、私たちもいつも家の中じゃつまらないですから、楽しい場所に行きたいだけなんです」
「それに、マスターだってたまには外出しないと体に毒だよ」
 そう言って、二人は笑う。だが、その笑顔が怖いのだなど、口が裂けても言えない。
「だがなぁ……」
 渋っていると、二人が顔を見合わせた。リンが襟首つかんで引っ張り出してきたのは、レンだった
「ほら、レンも行きたいって」
「いや、俺は別に歌わせてもらえれば……」
「行きたいわよね!」
 反射的にレンがうなずいた。そのとき、リンの顔がすごいことになったような気がして、マスターは背筋に悪寒を覚えた。
「というわけですので、マスター。遊園地に連れて行ってください」
 これはもはや脅迫だろう。そうに違いない。
 マスターは、ミクとリンに押し切られる形で、渋々承諾していた。



 というわけで、遊園地である。
 真冬の平日。しかも、田舎の遊園地と来れば、人出もなく、閑散としていた。それでも、ミクとリンは貸切みたいだとはしゃぎまわる。
 まあ、息抜きだと思えば仕方ないだろうか。
「ほら、チケットやるからお前ら」
 適当に遊んで来い、と言おうとしたのに、その前に2枚のチケットはもぎ取られた。
「じゃ、マスター! 私たち二人で遊んできますのでそちらはそちらで!」
「別行動別行動!」
 止める間もなく、ミクとリンは駆け出し、あっという間に見えなくなった。おいていかれたのは、マスターと、レン。
 マスターは恐る恐るレンを見た。まさかとは思うが、こうくるとは。腐女子恐るべし。
「お前は、どう、するんだ?」
「俺はいいよ。この年になってまで遊園地でなんて遊んでられねーし」
 お年頃の少年の見本みたいな返事だった。
 レンがマスターを見上げる。だがその目は、言葉とは裏腹に、素直だった。
 マスターはため息をついた。やれやれ。大人ぶっても、まだまだコイツは子供なのだと思い知らされる。
「なんか、乗るか?」
「マスターが乗るって言うなら、付き合ってやらないでもない」
 まったく素直じゃない。
 耳まで真っ赤にして、うなずく姿がとてもかわいらしくて仕方なかった。そんなことを本人に言ったら、真っ赤になって反論するのだろうが。
「よっしゃ、まずはジェットコースターだな!」
 マスターはレンの手を引いて駆け出した。
 ジェットコースターにゴーカート。次々乗り物を乗りまくって、気がつけばもう夕方。
 ベンチでぐったりとするレンに、マスターはソフトクリームをおごってやった。
「ありがと、マスター」
 ほっとして、おいしそうにソフトクリームを舐める。その姿が夕方の朱に染まって、どきっとした。思わず目をそらして、自分の分にがっついた。
「マスター、ほっぺたにくっついてるよ」
 レンが頬をさして笑った。慌ててぬぐおうとして、その手を止められた。レンの顔が間近にあった。
 ぺろりとマスターの頬についたソフトクリームを舐めとって、何事もなかったようにまたおいしそうにレンは自分のソフトクリームを食べ始める。
 マスターはそんなレンの隣で、硬直していた。激しく打ち鳴らす自分の心臓の音しか聞こえなかった。
「どうかした? マスター?」
 レンが首をかしげるので我に返った。
「い、いやなんでもない!」
 あまりの恥ずかしさにレンの顔が見れなかった。だが、ソフトクリームはもうなくなっていた。手持ち無沙汰に、ポケットに手を入れた。そのとき、ふとあるものに気がついた。
 ポケットに入ったメモリースティック。そこに、入っているものの事を思い出したのだ。
「レン、そういや、お前にやるものがあるんだった」
 ごそごそと取り出したそれを、レンの手に乗せる。なんだろうと、レンが見上げてくるのをまともに見れず、咳払いでごまかした。
「お前の歌のデータ。そこに、入ってる」
 レンが目を見開いた。自分の手の中にあるメモリースティックを見て、そしてもう一度マスターを見る。その目の輝きが、今までで一番だった。
「あ、ありがとうマスター!」
「おわっ!」
 いきなりレンに飛びつかれた。ぎゅっと抱きしめられ、血圧が急激に高くなる。レンのまだ幼い体に、変なところが反応しそうだ。
「レ、レン、ちょ、離れろ」
 しかし、レンは離れない。よくよく見れば、そのまますやすやと眠っているではないか。
 疲れたのだろう。しかし、これはいったいどうすればいい。
 マスターは自分の忍耐の限界に挑戦し、硬直していた。
 それをミクとリンがこっそり観察しながら、なぜ手を出さないのかとやきもきしていたのは、また別の話。
作品名:美少女オタクと鏡音レン 作家名:日々夜