美少女オタクと鏡音レン
夢
「そう言えば、マスターはなんで俺たちを買ったんだ?」
ふと、そんなことを気になってレンは尋ねてみた。
聞くと、マスターは嫌そうな顔を見せて、茶をすすった。
「いきなり、なんだよ……」
「いや、気になったんだ。だって、普通は人間が歌ったほうが楽だし、リアルだろ?」
「別になんだっていいだろ……」
マスターがそっぽを向く。レンはむっとした。
「マスター、なんだよ教えてくれよ!」
だが、マスターは頑なに教えることを拒んだ。調度そこにミクとリンが入ってきた。
そうだ、ミクならば知っているかもしれない。
「ミク姉は知ってる? マスターが俺たちを買った理由」
「そりゃ、あんた決まってるわよ。ボーカロイドでイイコトしたかったんじゃないの?」
リンの台詞にお茶を飲んでいたマスターがぶほっとお茶を噴出した。すかさずレンは布巾を差し出した。
「誤解を与えるようなことを言うなリン!!」
「違うの? でも、レンとはイイコト、してるみたいじゃないのマスター」
にやにやとリンが笑う。レンはマスターと一緒に言葉に詰まった。確かに、自分はマスターといろいろあんなことやこんなこともやっている。確かにそれが、マスターの目的だったのかもしれない。
と、そこでレンは気がついた。リンの言葉の通りだとすれば、それってつまり、マスターはミクと?
レンは急にマスターが信用できなくなった。
「レン、誤解だ誤解!!」
「じゃあ、なんで買ったんだよ?」
うっと言葉に詰まるマスター。やっぱりそういうことなんでは?
まあ、確かにマスターはもともと美少女萌の人だし、ミクとそういうことがあったっておかしくない。それに、自分だって別にマスターを独占しようと思っているわけじゃないし。
と、自分で思ってレンはしょんぼりとした。やっぱりショックだった。
「ほらほら、マスター。レンが落ち込んじゃってるわよ。さっさと白状なさい」
リンがマスターをつつく。
ミクがその後ろで、笑っていた。やっぱり、ミクは知っているらしい。
ますます、レンは落ち込んだ。
「白状したらどうですか、マスター。別に隠すようなことでもないですよね」
ミクにそう言われて、マスターはがっくりと、肩を落とす。
「音痴なんだよ」
こほんと咳払いをして言ったのは、そんなこと。
それだけ?
あまりにありきたりな理由で、逆に拍子抜けした。
「なんだ、つまらないの」
「つまらないっていうな、これでも深刻に悩んだんだぞ!」
「そんなに深刻に悩むほどのこと?」
リンの突っ込みは正しい。普通なら、歌が下手だろうが、そんなに深刻な問題ではない。
「夢だったんだよ。歌手デビューするのがな」
「音痴なのに?」
「悪いか!」
マスターが真っ赤になっていじける。そんな姿に、思わずレンは噴出していた。
「だから、言うのが嫌だったんだ……」
笑い出したレンに、ますますマスターがいじけた。レンは腹を抱えて笑っていた。
「でも、だったらKAITOを買えばよかったんじゃないの? 男声ボーカルだし」
マスターが沈黙した。
それもそのはず。笑いがようやく止まって、レンはマスターを見上げた。マスターが目をそらした。
「やっぱり、イイコトしたかったんじゃ……」
マスターがだらだらと汗をかき始める。
「い、言っとくがミクには手出してないからな! レン信じてくれ!」
結局そうなんだ。ごまかしきれずにそんな言い訳を言い出したマスターに、レンは落ち込んだ。でも。
「今はお前が一番だ!!」
真っ赤になって訴えるマスターが、不謹慎だけどかわいかった。
ミクには手を出していないなら、まあ、いいか。
「わかったよ。マスター」
レンは、振り向きざまにキスをした。呆けるマスターがまたかわいらしい。こんなマスターも、いいかもしれない。
「ちょっと、ちょっと、そこのお二人さん、お熱いのもいいけど、あたしたちがいること忘れないでよね」
呆れたようにリンとミクが見ていた。
その事実に改めて気がついて、レンはマスターと二人で真っ赤になった。当分、このネタでからかわれそうな予感がした。
でも、そんなのもいいかもしれない。マスターは自分のものなのだから。
作品名:美少女オタクと鏡音レン 作家名:日々夜