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White Night Nightingale

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 離れた瞬間、悔しかったので言ってやった。息が上がって声が震えている気がしたが、やられっぱなしは性に合わない。だが、ロイときたらしらっとした顔でこう答えたのだ。
「知らなかったのか?」
「…ほんと、そういう奴だよな、あんた」
「ありがたく、褒め言葉として頂戴しておくよ」
 芝居がかった調子で言って、ロイは、エドワードの腰を抱き寄せた。引き寄せられながら、エドワードは口を尖らせる。
「…オレが嫌いって言ったらとか考えないのかよ?」
 とっておきのつもりだったのだが、思ったより感銘を与えることは出来なかったらしい。ロイは意地の悪い表情で口角を上げて覗き込んできたので、きっとそういうことなのだろう。
「ばかだね。嫌いな相手の家に上がってくるわけがないじゃないか」
 まして、とロイは言葉を接いだ。
「――君は私の腕から逃げもしないじゃないか」
「…どっちみち、オレがあんたを誘ったみたいなところもあるわけか」
 エドワードは反論しようとして、それが意味のないことだと気づいた。そして、司令部で自分がなんと言ったかを思い出す。
「…なあ、大佐」
「なんだい」
 エドワードはほんの少し目を細めて、まるで甘えるように問いかけた。
「たとえオレが何を望んだんだとしても、あんたひとりが責められることになるよ。それでもいいの」
 ロイは瞬きをして、それから苦笑した。
「手厳しいね」
「本当のことだろ。…そこまでのリスクを犯しても、触りたいものかな。オレは林檎みたいに甘くはないと思うけど」
 そこでエドワードは言葉を切った。ロイもまた、金色の目をじっと見返す。しかし沈黙は、重いものではなかった。濃いものではあったかもしれないが。
「…詩的な言葉で言うのなら」
 ロイは静かに紡いだ。
「罪より甘いものはこの世にないよ。きっと」
「…へぇ」
「だがもっと正直に、言うのならね」
 ロイは両手でエドワードの頬を捕まえた。そうして、口づけられるほど近くに顔を近づける。
「ただ君が好きだ。だから君がほしい。それだけだ」
 エドワードはじっとロイを見つめていたが、不意に目を閉じると、唇を突き出してキスを強請った。その仕種と切り替えにロイも瞬きしたけれど、応じないなどありえない。
 二度目のキスの後、エドワードが言った。
 オレはリアリストだから、あんたの言葉の方が好きだな、と。屈託なく笑いながら。

 ロイ曰く居心地の良いらしい寝室は、クリーニングから返ってきたままのワイシャツや軍服が無造作に椅子に折って掛けてあったり、ベッドサイドすぐに置かれた電話のあたりにメモ用紙が散らばっていたりとお世辞にもきれいな状態とはいえなかったが、しかし、シーツは清潔だったし、毛布の手触りも申し分なかった。エドワードには確かめることが出来なかったが、この分ならきっと枕だって沈み具合は上出来に違いない。
 ――枕の使い心地が確かめられなかったのは、そんなものを堪能するタイミングがなかったから、それに尽きる。


 外の雪は勢いを増しているようだった。だが部屋の中は温かくて、そんなことは気にもならなかった。時折吹雪のような風の音が聞こえてきてもだ。
 こういうのって自分から脱ぐのか、と尋ねたら、別に決まりはないが、やらせてくれたら私は楽しいかな、とロイは冗談めかして答えてきた。じゃあ寝てればいいのか、と今度はごろんと仰向けに横になったら、それはちょっと…と苦笑された。なんだか面白くなって、じゃあこんなのは、とうつぶせになったり横になったりしていたら、ロイもとうとう笑い出して、そのまま覆い被さってきた。体がくっついたのを幸い、子供のようにくすぐりあってじゃれていたら、根負けしたのはエドワードの方だった。ロイはあまりくすぐったがりではないらしい。
「…エドワード」
 名前で呼ばれたのは初めてだったかもしれない。銘を授かる前だって、君とか、そんな風にしか呼ばれたことしかなかった気がする。驚いていたら、困ったような顔をして前髪を梳かれた。その感触が気持ちよくて目を細めたら、ちゅ、と額にキスを贈られる。うすらと目を開けるが早いか、キスは目尻に鼻の頭にと続いた。啄ばむように触れられるのがくすぐったくて、そしてひどく嬉しくて、エドワードは小さな子供のようにふふっと笑った。めったにない無防備な表情だった。だから今度は目を瞠ったのはロイだ。
「…、」
 ここで愛しているなんていうのは陳腐以前に卑怯な気がして、ロイは言葉を飲み込んだ。どうしたら胸の中を伝えられるだろうなんて、清純な乙女のようなことを一瞬でも考えた自分に呆れてしまう。
「…たいさ?」
 大きな手で髪を梳いて、空いた額に頬に触れれば、嬉しそうな顔をする。そういった触れ合いは彼にはきっと絶えて久しいのだろうことは想像に難くない。
 ロイは言葉を飲み込んで、目を閉じた。そうしてキスを繰り返しながら、掌で宥めるように触れながら少しずつ肌に触れていく。
 こうして温めているはずなのにやはり右肩は冷えていて、これでは痛いだろうにと思わず手を止めてしまった。だが、温めたくて唇を寄せれば、小柄がびくりと跳ねて小さく声をあげたので、どうやら温まる以上の効果がそこには秘められているようだった。
 小さく吸って、甘く噛んで。うわ、と上がる声はまだ驚きのそれだけれど、少なくとも嫌悪は含んでいないことに安堵する。触れたい気持ちがただの一方通行ではさすがに寂しい。
「…ぅ、あっ…?」
 上着をすっかりとはだけてしまって、かちゃりとベルトを抜けば、腹筋の要領でエドワードが上半身を浮かせた。無意識のような反応だった。ロイはそれに口角を上げて、片手を握って抑えるように詩ながら顔を斜めに寄せる。口付けながらゆっくりとベッドに沈めれば、エドワードは大人しくキスに応じた。いや、夢中になって、といってもそれはうぬぼれではないだろうとロイは思った。翻弄されているような舌の動きはロイをも夢中にさせたけれど、それ以上に少年がその仕種に取り込まれていることを感じさせた。つまりは気持ちがいいのだろう。
 それならばいいと思った。気持ちよくなってもらいたいのは当たり前の欲求だ。その方が自分だって気持ちがいい。
「…まったく、」
 キスの合間に鼻の頭をこすりつけて囁けば、ぼんやりと潤んだ瞳が向けられて幸せな気持ちになった。気持ちを告げてすぐなんてまるで洗練されていない、しかもこんな散らかった部屋で、使い慣れたベッドの上でなんて、洒落も何もありはしない。ひどく即物的で、だがこんなにも我慢できないことに反面興奮してもいるのだから度し難いものだ。
「食べてしまいたい、本当に」
 冗談めかして頬に噛み付けば、痛い、ともがくように手が上げられたから、今度はその手を捕まえて手首に唇を寄せた。痕がつく方、左手を思うさまむさぼりながら、ロイは思いついたまま口走っていた。
「…君、早く右手も生身に戻してくれ」
「…言われなくても、」
 当たり前だろう、という気持ちと、なぜ、という気持ちが入り混じった瞳にロイは口付けた。そうして、熱っぽく囁く。
「鋼では痕がつけられない」
「……バカなやつ」
 実に呆れた調子で口にされても、ロイはただ笑った。
作品名:White Night Nightingale 作家名:スサ