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そして、それから先は誰も知らない

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「なあ、本当に俺で良かったのか?」
 君が酔うと後が大変だからね。そうアメリカが言って足を向けたのは、ここ数日イギリス達参加国が寝泊まりしているホテルだった。
 格式あるこのホテルは、確かにサービスも入っている店も一流で、文句の付けようがない。後始末も簡単だ。従業員を呼んでルームキーと幾らかのチップを渡せば、労せずしてイギリスをベッドに送り届けることが出来るだろう。参加者達は殆ど市街の店に向かっただろうから、つまらない諍いを起こして追い出される心配も少ない。
 だがしかし、大変残念なことに、まだホテルのバーは店を開けていなかった。夜景を売りにしている店でもあったから、少なくとも日が完全に落ちるまで待たなくてはならないだろう。かと言って、一旦自分達の部屋に戻ってしまえば、そこで今回の話が有耶無耶になるのは目に見えている。
 だからイギリスはアメリカに言ったのだ。折角だから、これからディナーを一緒に食べないか……と。
 今にして思えば、何と浅はかで愚かな考えだったのかと、自分を責めずにはいられない。
 アメリカには、日本というれっきとした素晴らしい恋人が居るというのに。これでは浮気だ。否、それが自分の考え過ぎであるということは、十分に分かってはいるのだけれど。
 けれど、理性と感情は、やはり全くの別問題で。
「君、またその質問かい? いい加減しつこいよ」
「だって、お前、日本……」
 本当は、日本と一緒が良かったんだろう。
「……君、さっきからずっと日本日本って煩いな。俺じゃなくて日本と一緒が良いなら今直ぐ彼を呼ぼうか? 彼なら電話すれば直ぐに来るぞ」
「い、いい……そんなことしなくて。迷惑、掛けるだろ」
 そんな、二人の仲と絆を見せ付けられる行為なんて御免だ。それに日本が来たら、今こうしてアメリカと過ごす理由が無くなってしまう。
「あ、ほら、もういい加減にバーも開いてる時間だろ。上に行こうぜ。俺、実はずっとお前と一緒に酒を飲みたいって思ってたんだ」
 アメリカが喋る隙を与えないように強引に話を進め、アメリカを制して会計を済ませると、イギリスはそそくさと腰を上げた。
「な、良いだろ」
 長い付き合いだ。アメリカの機嫌が急降下していることくらい、手に取るようにイギリスには分かっていた。
 それでも、イギリスは笑った。敢えて空気を読まないで。アメリカの神経を逆撫ですることも承知の上で。
 少しでも長く、アメリカの側に居たかったから。



「本っ当に君って人はどうしようもないな! 自分の年齢、社会的地位ってやつを考えなよ。それが出来ないんなら、今直ぐに『紳士』の称号を捨てることだね!」
「うるひゃ……いッ」
 部屋までの道程は遠かった。
 アルコールに侵されてまともに歩くことさえ出来ないイギリスを、アメリカが何とか肩を貸して支えているのだ。背負うという選択肢だって勿論あったが、それはイギリスが頑なに拒否した。酔っ払いのくせにだ。
 どんなに成長しようとも、かつて面倒を見た相手に背負われるのは、元兄のプライドが許さないらしい。実に下らないプライドだが。
 そんな風に言語機能も思考回路も可笑しくなっているイギリスを運ぶのは、如何にアメリカと言えども容易ではない。何せ、悲しいくらいに貧弱とは言え、イギリスも一応これでも立派な成人男性なのだから。
 そういう訳で、まともに支えきれる訳も無くフラフラと酔っ払いの千鳥足のように歩きながらやっと辿り着いた時には、二人共すっかり疲れきっていた。
 アメリカが自身のポケットを探り、ルームキーを取り出す。差し込むだけのそれは、一瞬で解錠を終えた。
「ほら、着いたぞ」
 声に促されてイギリスがゆっくりと目を開けると、何だか様子が変だった。足元は覚束ないくらいにフワフワしているし、視界も揺れているが、それでも、これは違う。
「……此処、何処だ」
「俺の部屋だよ。何処かの忘れ物キングが、ルームキーを部屋の中にも忘れてきたらしいんでね」
 パタパタとポケットを叩いて中身を確かめたが、ハンカチしか入っていなかった。摩訶不思議である。
 変だな。そうイギリスが首を傾げていると、深い溜め息が耳に届いた。今この部屋にはイギリスとアメリカしか居ないのだから、イギリスでないとすれば、それは必然的にアメリカのものになる。
「もう良いよ、泊まっていきなよ。どうせ明日は会食だけだし、朝になったら従業員に事情を話して鍵を開けて貰えば良いだろう?」
「……そうか? 悪いな」
 日本に対する後ろめたさが一瞬イギリスの脳裏を過ぎるが、既に疲労と眠気は限界値に達しようとしていて、それはソファーに何とか横たわった瞬間、あっけなくラインを超えてしまった。