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カイトとマスターの日常小話

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ウィンター・ワンダーランド








 町はいつの間にか赤と緑と何だかほわっとするイルミネーションで彩られ、12月の歌がいっぱい流れていた。





 冷凍庫のアイスがなくなってしまったので、アイスを買いにコンビニに言ってきますと、製図台と睨めっこしてるマスターに声を掛けると、マスターは唸り声を上げて、僕を見やった。
「…プリン買って来てくれ。それといつものガムをボトルで」
マスターは財布から千円札を取り出した。
「お釣りは駄賃だ。お前にやる」
「わー、マスター、ありがとう!!」
マスターからお金を受け取って、いそいそとマスターが買ってくれたがま口のお財布にお金を直して、ジャケットとマフラーを羽織る。
「転ぶなよ。車に気をつけろよ。後、知らないひとからアイスあげるから一緒においでって言われてもついていくなよ」
「むう…。マスター、僕、子どもじゃないですよ」
僕がそう言うと、マスターは胡乱な眼差しを向けてきた。…むう。アイスにはちょっと釣られちゃうかもしれないけど、流石に付いてはいかないと思う。
「ま、気をつけていって来い」
「はーい。行ってきます」
マスターに見送られて、僕は外に出た。朝はどんよりと暗かったけれど、今は青空が広がっている。僕は足早に歩いて10分の通いなれたコンビニに向かう。コンビニのドアを開くと、すっかり顔見知りなお姉さんが僕に声を掛ける。
「いらっしゃいませ。こんにちは」
「こんにちは」
僕は挨拶を返して先に、マスターのプリンとガムをカゴに入れた。…マスター、本当にプリン好きだよね。…今度、ネットでレシピ検索して作ってみようかな?喜んでくれるかな?…そんなことを思いながら、僕はアイスボックスに向かう。今日の分と明日の分、明後日の分を買おう。マスターがお釣りをくれるっていったから、ダッツ買っちゃおうかな…。うーん。どうしよう?いつものように迷っていると、隣で雑誌の整理を始めたお姉さんが僕に話しかけてきた。
「もうすぐ、クリスマスだね」
「クリスマス?」
クリスマスって何だろ?…そう言えば、カレンダーにも書いてあった。何かのイベントかな?マスターに何の日なのか帰ったら聞いてみよう。
「クリスマスって言ったら、…恋人同士、ホテルでディナーして、プレゼントもらったり、あげたり、ラブラブいちゃいちゃに過ごす日だよねぇ」
お姉さんが溜息を吐きながらそう言った。クリスマスって、そういう日なのか。…僕とマスターには関係ないなぁ。
「今年も寂しく、私はケーキを一人で食べることになりそうだけど、お兄さんはマスターさんとクリスマス過ごすの?」
「…えっーと、…多分」
いつも通りだと思う。そう答えると、お姉さんは何だかとっても嬉しそうな顔をした。
「そっか。ねぇ、ケーキ、予約した?」
お姉さんは雑誌の整理を終え、立ち上がると僕ににっこりと微笑んだ。
「ケーキ?」
「クリスマスにはケーキを食べるものだから。…まあ、お菓子の会社の陰謀だけど。そうそう、アイスのケーキもあるのよ」
「アイスのケーキ?!」
その魅力的な言葉に僕は湧き出る涎を何とかして飲み込んだ。
「パンフレット、あげる。持って帰って、マスターさんにおねだりしてみたら?」
「そうします。ありがとうございます」
ちゃんと忘れずにアイスもカゴに入れて、お会計を済ませて、お姉さんからケーキのパンフレット受け取った。
「美味しそうですね」
パンフレットの表紙を飾る苺の沢山のったケーキはとても美味しそうだ。
「どれにしようか迷っちゃうよね。あ、予約の締め切り、明後日までだから申し込みはお早めにお願いしますね」
「はい。じゃあ、また来ますね!」
「はい。お待ちしてます。ありがとうございました」
ばいばいと手を振るお姉さんに見送られ、僕はコンビニを後にした。







「マスター、これ見てください!!」
取り合えず、アイスとプリンを冷蔵庫にしまって、仕事部屋に向かう。マスターは相変わらず製図台に向かっていた。その背中に抱きついて、貰ってきたパンフレットを見せる。
「カイト、ただいまは?」
マスターは衝撃に僅かに顔を顰め、それから僕のマフラーを引っ張った。
「ただいま、です」
マスターはこういうのに細かい。でも、嫌じゃない。
「ん。お帰り。…で、何だ?」
頭を撫でてくれるから。マスターにお帰りって言われると、ここが僕の居場所なんだって、ほっとする。
「ケーキのパンフレットです♪」
「ケーキ?…ああ。もうそんな時期か…」
マスターはカレンダーを見やり呟くと、パンフレットを広げた。
「苺のやつ、美味そうだな」
「僕はアイスケーキが食べたいです!」
全部、アイス。想像しただけで涎が出そう。
「毎日、食ってるもんを何で食いたがるだ。お前は…。お、この、ダブルショコラムースとか美味そうだな。ティラミスも捨てがたいな。チーズケーキも…」
マスターの視線が迷うように移動する。
「美味しそうですけど、アイスがいいです!!アイス!!」
「やっぱ、オーソドックスに生クリームの苺のデコも捨てがたいな」
「アイスケーキがいいです!!バニラ、チョコレート、ストロベリー、マンゴタンゴ、サンフランシスコチョコ、キャラメルマキアート、パナ・パ・コ、クッキークリーム、紅イモ、サトウキビ、ビクトリアンチョコスワール、バナナナッツ……12種類のフレーバーが全部、入ってるんですよ!!それがいっぺんに味わえるなんて幸せ…」
うっとり…する僕に呆れたようにマスターが溜息を吐いた。
「…ったく、お前の頭ん中はどれだけアイスで占められてんだよ。…買ってやればいいんだろ?解ったよ。クリスマスだしな。プレゼント代わりにそれにしてやる。後、ツインケーキ、予約しとけ」
「あーい♪」
やった!!明日、早速、予約に行こう!!…そうだ、マスターにクリスマスがなんなのか、訊かないと!!
「マスター」
「何?」
マスターは僕に抱きつかれたまま、顔を上げた。
「クリスマスって、恋人といちゃいちゃしながら過ごす日なんですか?それとも、寂しくケーキを食べる日?」
「はァ?」
マスターは訝しげに眉を寄せた。
「コンビニのお姉さんが言ってました」
「…ま、間違いじゃねぇけど。クリスマスってのはイエス・キリストの降誕(誕生)を祝うキリスト教の記念日・祭日だ。…まあ、ウチは仏教ってか、俺が無神論者だからあんまり、関係ないけどな」
「神様の生まれた日?…何ですか?」
「…少し違うが、まあそんなもんだ。まあ、外国じゃ色々やるらしいが、日本じゃ恋人同士のイベントだなぁ」
「じゃあ、僕とマスターは恋人同士じゃないから、寂しくケーキ、食べないといけないんですか?」
「何でそうなるんだ?」
「だって、お姉さんが」
「…あの姉さん、結構可愛いのにって…いや、余計なお世話か。…でも、俺らが別に寂しくケーキ食べる必要ないだろう?」
「そうですね。その日は僕がマスターの恋人になればいいんですよね!」
「はァ?」
マスターは思い切り目を見開き、固まった。
「そしたら、僕もマスターも寂しくケーキ、食べなくていいし」
「……カイト、お前、意味解って言ってんのか?」
マスターが訊いてくる。