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カイトとマスターの日常小話

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カイトの機嫌が何故だか悪い。





 カイトの機嫌が何故だか悪い。

 カイトが拗ねたり、一時的に不機嫌な顔をして見せることはあるが、もう既に二時間は顔に「僕は不機嫌です。怒ってます」と書いたままだ。作業用にBGMに歌わせる歌は耳が痛くなりそうなヘビメタな曲や暗い曲ばかりで、仕事が捗るどころか気が滅入ってきた。鉛筆と定規を置いて、お茶でも飲もうと立ち上がると、カイトはぴたりと歌うのを止め、俺を睨む。
(…不機嫌にさせるような…怒らせるようなことをした記憶はないが…)
朝、急に免許証が必要になって探すのに散らかしたのを怒ってるのか…結局、見つからなくて、保険証で代用したんだが…いやいや、そんなことは日常茶飯事だし、そんなことでカイトは一々、怒ったり…するが、半分、諦め入ってるからな。無言で圧力かけてきたりしないだろう。…だったら、何だ?…うーん、解らん。…取り敢えず居心地の悪い仕事場を出る。…後をカイトが付いて来た。
「…お茶、淹れるけどお前も飲むか?」
日頃、滅多にこんな顔を…いや、初めてカイトが怒っているのだから、知らない間に何かやってしまったんだろう。俺に非があるのは間違いない。…なるべく穏便に怒ってる理由を訊いて、謝ってしまおう。
「いいえ。結構です。マスター、お話があります。そこに座ってください」
ぴしゃり。容赦のない口調で、畳の上を叩いたカイトに俺は無言で従った。…温厚なヤツを怒らせると怖い。…カイトはきちっと正座をして、俺を見据えてくる。それに、自分ひとり足を崩すことも出来ず、正座してカイトと向き合う。カイトは眦をきっと上げ、俺を睨んだ。
「…僕が、どうして怒ってるのか解りますか?」
「…部屋を散らかしたからか?」
「違います。今更、それぐらいじゃ、怒りませんよ」
カイトはふうっと溜息を吐くと、目を半眼にして、すっと畳の上、何かを滑らせて置いた。
「お、免許証、どこにあった?」
「キッチンの引き出しの中です」
「…そっか。そこだったか」
見つかって良かった。
「ありがとう。助かった」
通帳を新しく切り替えるのに、必要だったんだが、これないと車の運転が出来ないしな。
「…助かった…じゃないですよ!!どうして、教えてくれなかったんですか!!」

ばんっ!!

畳の上、ふわりと薄っぺらいカードが浮かび、落ちる。呆気に取られてカイトを見やると、カイトは目一杯に涙を溜めて俺を睨んでいた。
「…教えてって、何を?」
隠し事はしてないし、隠さないといけないような後ろめたいことは一切ないので、さっぱり解らない。首を傾けると、カイトは白を切る気かとべしべしっと免許証を叩いた。免許証が何だ?さっぱり、解らん?
「マスターの誕生日、もう、終わっちゃってるじゃないですか!!何で、教えてくれなかったんですか!!」
免許証の生年月日は、12月22日…、年も明けて半月が経とうとしていた。…忘れてたぜ。俺、いつの間にか33になったのか…オモローな歳になっちまったなぁ。
「…すっかり忘れてたわ。クリスマス、近かったしな」
カイトに買ってやるクリスマスプレゼントと、晩餐のメニューで頭がいっぱいだったからな。そこに忘年会も入ったし。…って、言うか、カイトは誕生日を教えなかったことを怒ってたのか。
「忘れないでくださいよ。マスターが生まれた日ですよ」
「いや、でも、大仰に祝ってもらうような歳じゃねぇし」
「何、言ってるんですか!!マスターは僕のことを家族だって言ってくれたじゃないですか。僕がマスターの誕生日をお祝いするのは当然です」
「いや、知らなかったんだから、仕方ないだろ」
「仕方ないじゃないです!!僕にとっては何よりも大事な大切な日です!マスターが生まれてなかったら、僕はここにはいなかったんですよ!!」
蒼い瞳から頬を落ちる涙。その涙に伸ばした指を掴んで、カイトは俺を見上げて来た。
「マスターはただの歌うための機械にしか過ぎない僕を家族だと言ってくれた。だから、マスター、家族として僕にマスターが生まれた日をお祝いさせてください」




『僕にとっては大事な大切な日です!』




…か、自分の誕生日をそう言ってくれる奴がいるっていうのはいいもんだな。何だか、その言葉に何だか目の奥が熱くなるのは俺が年を食ったからか…それに何だか照れくささも混じる。俺はじっと潤んだ瞳で見つめてくるカイトの頭を撫でた。

「ありがとな」

いつの間に、こんなに愛おしく思えるようになったのか…。お前は、俺の中にそうやって柔らかくやさしく侵食していく。

 カイトは涙で濡れた頬を拭いもせずに、俺に抱きついてきた。その体重を受け止めて、ひと以上に心豊かになっていくカイトを嬉しく思った。





 その夜…。

 テーブルには何とも豪勢な料理が並んだ。遅ればせながらもお祝いのつもりらしい。
それを食べ終えると、カイトが冷蔵庫からいそいそと何かを出してきた。

「Happy birthday to you,
Happy birthday to you,
Happy birthday, dear, master
Happy birthday to you♪」

そんな歌と一緒に差し出されたのは、ハーゲンダッツ、ドルチェのガトーショコラ。先日、悩みに悩んで買ったカイトが楽しみにしていた高級アイスだ。
「お前、これ…」
カイトが自分の大事な大事なアイスを俺に差し出してくるとは、これは天変地異の前触れか…と思ったが違った。
「誕生日プレゼントです。マスター、いつも歌わせてくれてありがとうございます。お小遣いもありがとうございます。一緒にいてくれてありがとうございます。…えっと、えっーと、あ、」
言葉に詰まったカイトが、
「大好きです!!」
そう言って、ぱあっと花が咲いたように笑う。…恥ずかしいやら嬉しいやら…よく解らない複雑さで照れくさくて死にそうだ。取り敢えずカイトの頭を撫で回すことで誤魔化す。
「ううっ、マスター、痛いですよ!」
一月遅れの誕生日は一生、忘れられない思い出になった。カイト、お前といると本当に毎日が新しい発見と驚きで満ちてるよ。お前は俺の大事な家族だ。お前を買ったことが、俺にとっては自分自身への一番のプレゼントだったな。






「…カイト、あーん」
「あーん」

溶けないうちにどうぞとカイトが言うので、蓋を開けたのはいいが、その様をカイトがじっと見てくる。…食い辛い。結局、プレゼントのアイスは半分こにした。口を開けろと言うとカイトは遠慮しつつも誘惑に負けて、とろけるような顔をして口を開けた。
(…餌付けしてる気分になるな…)
最後の一口を口に入れてやる。カイトは空になったカップを名残惜しげに見つめ、それでもほわっと満足げな笑みを浮かべた。

 お前の誕生日には、高級アイスの詰め合わせを贈ってやろう。

 …そういや、カイトの誕生日って、いつだ?…ネットで調べとくか。そう思いつつ、そのカップを俺はゴミ箱に放りこんだ。