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『掌に絆つないで』第三章

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Act.13 [飛影] 2019年10月1日更新


幽助たちが亜空間へ向かった頃、飛影は雪菜と氷菜とともに霊界獣の背に乗り、雷禅の塔を目指していた。
氷菜を連れて霊界の追っ手から逃げること、彼女を自分自身の手で殺めること。もはやそのどちらも、なんの意味もなさないのだと気づかされた飛影。また安穏な世界を持続させるために、霊界の指示に従うことを決めた。なにより、氷菜は自分自身の運命を受けて入れている。氷河の国を滅ぼす気はおろか、世界を冥界に手渡す気も彼女にはない。霊界に従うことが自然の流れといえた。
なぜ蘇らせてしまったのだろうか。
飛影は身に覚えのない後悔を抱く。見えるはずもない潜在意識が呼んだ母との対面は、お互いの傷をえぐり合うだけに終わった。
こんなことなら、氷河の国で対面したときに……。
そこまで考えて、飛影は思考を閉ざした。出来るものなら、そうしていた。それが出来なかったから、招いた現状なのだ。考える時間だけ無駄になる。
少し冷たい朝の風が、飛影の髪を掬い上げ、額の目にしみた。
まだ通常見える距離にない雷禅の塔も、邪眼の視界には納められていた。その塔に近づいているのか離れているのか、そんなことすら、もうどうでもいい気分。彼は黙って、ただ霊界獣の尾にもたれかかっていた。

ふと、雷禅の塔の近辺に人影を発見した。
コエンマが案内人二人を引き連れて、慌てた様子で塔を離れていった。途中、幽助と思われる人物と合流すると、多少もたついた後、再び駆け出した。
四人の行く先を目で追っていると、亜空間の入り口に到達し、躊躇も見せずに彼らは飛び込んで行くのだった。
人間界ではなく、冥界を目指しているのだろうことはすぐに見当がついた。
しばらく目を閉じていた飛影は、そのあと霊界獣の首元へ移動すると、霊界獣に指示を出した。
「オレだけ置いて、二人を雷禅の塔へ送ってやれ」
プーは一声啼くと、ゆっくりと降下した。
「お兄さん、どこへ?」
雪菜の問いかけに、飛影は出来る限り優しく答えた。
「霊界のやつらは亜空間に向かったようだ。様子を見に行ってくる」
霊界獣が低空飛行を始めたところで、飛影はその背から飛び降りた。