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初恋をつらぬくということ

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もっと近づきたい。
今でも近くにいるが、もっと近づきたい。
身体を寄せて、桂の身体に触れたい。
そう求める気持ちが、胸の中に湧きあがってきた。
桂のほうを向く。
そして。
「桂」
名を呼ぶ。
桂は顔を向けた。
「なんだ」
そう問いかけてきた。
しかし、銀時は答えない。
ただ、じっと、桂を見る。
桂は戸惑うように瞳を揺らした。
その唇がわずかに開かれ、けれども、すぐに閉じられる。
黙って、じっと、銀時を見ている。
見つめ合う。
桂の眼差しを受け止め、その眼差しが胸に焼きつくのを感じる。
心が動き、感情が高まる。
好きだ。
そう思った。
おまえのことが好きなんだ。
そう伝えたくなった。
口をひらく。
けれども、さっきの桂と同じように、口を閉じた。
伝えることを、ためらった。
自分の中の桂に対する想いが友情ではないことに気づいたのは、今だ。
だから、ためらってしまった。
銀時は眼をそらす。
ふたたび、水田のほうを見る。
しかし、眼は蛍の放つ光を追っていても、心はそれに追いつかない。
落ち着かない。
「……帰ェるか」
立ちあがる。
「ああ」
隣で、桂も立ちあがった。
銀時は身体の向きを変え、歩き始める。
うしろで桂も歩きだしたのを、背中で感じる。
あぜ道を歩く。
虫や蛙の鳴く声があたりに響き渡っている。
何気なく見た足元の草の上で、蛍が儚い光を放っていた。

雨が降っている。
空は灰色がかった白に塗りつぶされ、道は絶え間なく天から打ちつけてくるたくさんの雨粒が跳ねて白く見えた。
桂のさしている傘も雨に打たれている。
足袋は雨を吸って、すっかり濡れてしまっている。
藩校からの帰りだ。
武家屋敷が両側に建ち並ぶ道を歩いている。
やがて、自分の家へと入っていった。
作品名:初恋をつらぬくということ 作家名:hujio