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初恋をつらぬくということ

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言い終わってから、今日は、と強調するように言ったことを後悔する。
波風をたてかねないことを、今、左兵衛が病に伏しているときに、あえて口にするべきではなかった。
だが、ついそうしてしまったのは、この件に関してはどうしても自分はむきになってしまって、それはつまり、自分が未熟だということなのだろう。
「そうか」
左兵衛はあっさりとした相づちを打った。
その視線が桂からそらされ、天井へと向けられる。
もうこの話は終わりなのだろうか。
そう桂は思い、少し安堵する。
襖のほうを向こうとした。
そのとき。
「小太郎」
ふたたび、名前を呼ばれた。
桂は左兵衛を見る。
左兵衛は先ほどと同じように眼を天井のほうに向けている。
そして、桂を見ないまま、言う。
「もし私が亡くなったら、おまえがこの桂家の当主となり、この家を背負っていくことになるのだぞ」
淡々とした口調だった。
しかし、その左兵衛の言葉は、桂にずしりと重くのしかかってきた。
これまでは左兵衛が当主としてこの家を背負ってきた。
もちろん、今も、そしてこれからも、そうだ。
だが、左兵衛にもしものことがあれば、自分が跡目を継ぎ、この家を背負うことになる。
今、感じているのは、その責任の重さだ。
「……そのような縁起でもないことを仰らないでください」
そう返事し、桂は眼を伏せた。
左兵衛は黙っている。
影の落ちる静かな部屋に、雨音がひときわ響き渡る。
桂はまた襖のほうを向いた。
歩きだす。
今度は、呼び止められない。
けれども、さっきの左兵衛の言葉が、まだ心に重しのようにあるのを感じた。

空はよく晴れている。
しばらく雨の日が続いていたので、こうして晴天の下にいると心まで明るくなる気がする。
だが、午まえであるのに、ひどく暑い。
天頂を目指してじわりじわりと昇っている太陽の光が、銀時の肌を焼く。
汗がふきだしてくる。
作品名:初恋をつらぬくということ 作家名:hujio