初恋をつらぬくということ
思わず、桂は立ち止まった。
銀時のほうを見る。
眼が合った。
心臓が、また、強く大きく打つ。
にらみつけているような鋭い眼差しに、射抜かれた気がした。
いつもは怠惰な様子なのに、今は真剣そのもので、その迫力に圧倒されそうになる。
精悍な顔立ち。
こんなふうにしていれば、充分、男前の部類に入ることがわかる。
体格もいい。
銀時のことを異性として強く意識している女子が何人もいることを、桂は知っている。
いつのまに、こんなに大きくなったのか。
こんなに男らしくなったのか。
「好きだ」
ふたたび、銀時は告げる。
「言っとくが、友情じゃねェ。そういうのじゃなくて、オメーのことが好きだ」
断言した。
退路を断たれたように感じた。
友人としてという逃げ道はなくなった。
そして、これまでのような関係では居続けられなくなった。
銀時が距離をわずかに詰めてきた。
「俺はオメーと一緒にいてェ。オメーと話をしてェ。話をしなくてもいいから、オメーにそばにいてほしい」
矢継ぎ早に、想いをぶつけてくる。
「オメーに触れてェ。この腕に、抱きてェ」
もしも雨が降っていて傘をさしているのでなければ、銀時はその手を伸ばしてきたかもしれない。
今ごろ、その手につかまえられて、その腕に抱かれていたかもしれない。
そして、自分はその腕から逃げなかったかもしれない。
そう桂は思う。
銀時の想いは知っていた。
触れたがっているのにも、気づいていた。
あの蛍を一緒に見た夜に、それをいっそう強く感じた。
けれども、意識しないようにしていた。
わからないふりをしていた。
自分だって、焦れていたのに。
銀時に見つめられて、その眼差しに熱を感じて、その熱が身体の中にたまって、その身体の中の熱を銀時にぶつけたくなっていたのに。
胸の中で、感情が嵐の日の海のように荒れて、大きく波打っている。
激しい感情が身体の中でうねり、そればかりになる。
好きだと告げられて、嬉しいと思った。
それを否定することはできない。
けれども。
同時に。
「それを聞いて、俺にどうしろと言うんだ」
口がいつのまにか動いていた。
「そんなことを言われたって、俺が応えられるわけがないだろう……!?」
好きだと告げられて、嬉しいと思った、けれども、どうしようもないと、どうにもならないと思った。
作品名:初恋をつらぬくということ 作家名:hujio