初恋をつらぬくということ
銀時は乱暴な口のききかたをしたり、怠け癖があったりする。
けれども、だれかを護るためであれば危険な場所にも飛びこんでいく。しかも、恩を着せるようなことは一切しない。
本人は否定するだろうが、その心は刀のように真っ直ぐで、潔く、そして、優しい。
外見ではなく、その心で、判断してほしい。
「銀時は義に厚く、自分の身よりも他人の身を護ろうとします。仲間だけではなく、たとえ自分に害をなす者であっても助けることがあります」
その心を、わかってほしい。
強く、そう思う。
桂は切々と訴えるように話す。
「もちろん、この国のことも考えています。この国を護るためなら、その命をも賭けるでしょう」
「おまえは」
左兵衛は言う。
「だまされているのではないか」
冷静な声だった。
桂はあっけに取られた。
あまりにも予想外のことを言われた。
いや、予想外というより、的外れだ。
次の瞬間、桂の頭はカッと熱くなった。
「違います」
そんなこと、ありえない。
銀時が周囲をだましているなんて、ありえない。
「絶対に、違います」
「たとえそうであったとしても、この御時世だ、おまえはあの者との関わりを絶ったほうがいい。吉田松陽の塾にも行かぬほうがいい」
そう左兵衛は強い口調で告げた。
どうして。
伝わらないのか。
一瞬、気が遠くなった。
桂は口を開く。
「松陽先生の塾にはこれからも通い続けます。銀時との縁を切るつもりもありません」
胸の中でなにかが煮えたっているように感じる。
それが心を激しく揺らす。
「この件については、どうしても譲れません」
座っていられない。
畳を蹴るようにして立ちあがった。
「小太郎」
左兵衛の厳しい声が飛んでくる。
「おまえはこの桂家の跡取りだ。その責任の重さがどうしてわからない。好き嫌いで物事を判断してはならんのだ」
「私は」
言い返す。
「好き嫌いで判断しているわけではなく、正しいかどうかで判断しているのです……!」
苛立ちが全身を駆け抜ける。
じっとしていられない。
歩きだす。
「小太郎!」
左兵衛が引き留めるように名を呼んだ。
けれども、桂はそれを背中で受けるだけで返事せず、立ち止まることもなく、部屋を出た。
作品名:初恋をつらぬくということ 作家名:hujio