GANTZ Paradise Lost 野球星人篇
「・・・・・グァアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッ」
その静寂を破ったのは、野球星人の咆哮だった。
野球星人は刃のように鋭く尖った腕を振りかざし、そのまま俺の方へ愚直なまでに突進して来た。
「うあっ・・・」
俺はそれをギリギリでかわし、けん制のつもりで腹に蹴りを入れる。
すると・・・
・・・・キュュュゥゥゥゥーーーーン
着ていたスーツの左足部分で飛行機のエンジン起動音に似た音と共に筋肉が締め付けられるような感覚が訪れ、スーツの至る部位の器具が発光し始めた。
次の瞬間、野球星人の腹には蹴りが入っていた。
それも、ただの蹴りじゃない、言うなれば、筋肉番付に出ているようなアスリートの放つキックだ。
その証拠に、野球星人はそのまま2mほど吹き飛ばされ、近くの民家の壁に激突した。
「・・・・っはぁ、っはぁ・・・・・」
俺はこのスーツを着ていなければ確実に死んでいた事を再認識する。
左足部分には先ほどのような締め付けられる感覚は無くなっていた。
「・・・・な・・・何だよ・・・・これ・・・・」
最初は恐怖心だったが、次第にそれは妙な高揚へと変わりつつあった。
「こ、このスーツ、すっげえ・・・・」
とてつもない得物を得たような気分に浸る。
すると・・・
「・・・・ギええええええええええええエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッ」
野球星人の低い呻き声が聞こえる。
何事かと俺は野球星人の元へ向かう。
そこには・・・
ワイヤーの様な透明の糸で身体の自由を拘束された野球星人がいた。
「・・・え、だ、誰がこんな事を・・・?」
「・・・俺だよ、俺」
背後で声がする。
振り向くが誰も居ない。
「え・・・どこにいんだよ・・・?」
「ここ、ここ」
すると、突然・・・
・・・・バチィッ、バチッ、バチッ・・・・
空気中に放電が走る。
その放電は徐々に人型を作り出していく。
そこから現れたのは・・・・
「いや~、お見事、お見事。新人にしちゃあ、割とやるじゃん?」
あの部屋にいた厨二病っぽい少年だった。
たしか、名前は西丈一郎、だったか?
「正直、アンタ、タダ物じャねェとは思ッてたけど、やっぱそうだったらしいな・・・」
丈一郎は小さく拍手をしながらこちらへ近づいてくる。
うわ・・・何かムカつくぜ・・・
「つーわけだ、今回は点数やるよ・・・まあ、マージン程度にしかならねェけど・・・」
そう言って丈一郎は俺にハンドガンを渡した。
「ほれ、撃ちな。」
俺はそのまま野球星人の顔面に銃口を向けた。
それと同時に砲身がⅩ字型に展開する。
―――いや、ちょっと待てよ・・・・―――
俺はふと思った。
―――もし、ここで俺がコイツを殺したら・・・俺は人を殺したのと同じ事をしたワケで・・・―――
そう思うと、とてつもない背徳感が俺を襲う。
銃を持つ手が震える。
「?どうした?早く撃ッちゃいなよ・・・アイツら、コイツにブッ殺されたんだぜ?」
丈一郎は側に転がっている生首を見て言う。
確かに、コイツの言う事は間違ってはいない。
だが、生かす殺す以前に俺の中の罪悪感が銃の引き金を引かせまいとしていた。
「良いねェ、その眼・・・まるでラグナロクで神を喰らうフェンリルのようだ・・・・」
丈一郎が横から何か言っているが、俺には聞こえなかった。
俺の中で罪悪感とポリシーが戦って、罪悪感が圧勝する。
・・・結局俺は銃を下ろしていた。
「はァ?・・・マジガッカリ・・・」
そのまま丈一郎は俺からハンドガンを奪い野球星人の眉間に照準を合わせる。
・・・・ギョーン・・・・
間抜けな銃声が響く。
「甘ェんだよ・・・そんなんじゃ、次はガチで死ぬぞ・・・」
丈一郎は野球星人から離れる。
「・・ウ・・・ウ・・・・ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」
野球星人はまるで泣くように表情を歪めて低く呻いた。
そして・・・
・・・・チュドーーーーーーーーーーン・・・・(ビチャ、ビチャ・・・)
野球星人は、無残に爆死した。
俺は飛び散る血飛沫にまみれる。
作品名:GANTZ Paradise Lost 野球星人篇 作家名:プラスチッカー