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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 15

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 シンとリョウカを囲む仲間達によって、兄妹は円の中心にいた。
「リョウカ! 聞こえるか? オレの声が!」
「兄様……だね? 聞こえ……るよ。真っ暗……だけど、兄様のこと…………、わかるよ……」
 リョウカの命はまさに、風前の灯火であった。視覚はなくなり、体は指一本たりとも動く気配がなかった。全身の機能はほぼ全て停止し、彼女に残る感覚はもう、僅かな触覚と聴覚だけであった。
「兄様……、また……泣い…………てるの……? みんなも……ここに……いるん……だよね? みんなの……前では……泣かないでって、言ったのに…………。兄様の……嘘つき……」
 シンは顔中を濡らす涙を乱暴にぬぐい去った。それでも溢れてくる涙はものともせず、無理矢理笑顔を作った。
「バカ! オレは泣いてなんかいねえよ! ただ……、その、なんだ、ちょっと風邪こじらせただけだ! ちと寒いからな……」
 シンは最大の虚勢を張った。しかし、どんなに強がっても、歪な笑い顔を浮かべても、その声は完全に涙が支配していた。
「兄様……、わたし、そろそろ……兄様と…………お別れ、しなきゃいけないみたい……」
 残ったリョウカの感覚も次第に停止していく。
「バカなこと言ってんじゃねえ! しっかりしろ! お前はこんな所で死ぬような奴じゃねえだろ!?」
 シンの叫びはもう、リョウカには届いていなかった。しかし、ついに音も消えた世界で、リョウカはシンから伝わる振動で彼の意思を悟っていた。
「ごめんなさい……、にい……さ……ま。もう……、声も……、何も聞こえないよ……」
 果たして頭に浮かんだ言葉は言葉としてシンへと伝わったのか、聴力も失ったリョウカには自分の声さえ自信がなかった。
 そして、リョウカは最期の言葉を発する。
「さようなら……、大好きな、兄様……」
 言葉を言い切るか否かの所で、リョウカは口から大量の血を吐き出した。体中の血が全て出て行ってしまった、そう思えるほどの大喀血であった。
 あまりの出血を見て、シバは固く目を閉ざして顔をそらし、メアリィは気を失いそうになった。他の皆も驚きのあまり言葉を失い、何かに緊縛されたかのように、なんの動きも
とれずにいた。
 血は、リョウカの体を埋め尽くせるほどの血だまりとなった。
 シンは顔に少し血を受けたまま、血だまりが自らの膝を浸食するのにも意識を向けず、目の前で起きたことがまるで信じられない様子であった。
 血を全て吐き出したか、そう思われる頃、リョウカは人形の様に目を見開いたまま、脱力した。
「は、はは……」
 シンは狂ったような笑い声を上げた。
「嘘だろ? こんなこと、あるはずがない……」
 まだ僅かに温もりを残したリョウカの体を揺する
「おい! 悪ふざけは止めろよ! リョウカ、目を覚ましてくれ!」
 何をしてもリョウカの表情は変わらない。
「リョウカぁぁぁぁ!」
 シンの泣き叫ぶ声だけが木霊した。
    ※※※
 見渡す限り緑の草原に、真紅の髪を持つ少女が立っていた。
 少女は白い小袖の着物に、漆黒の袴という出で立ちであった。少しつり上がりぎみの目は、少女に凛々しい雰囲気を与えていた。
ーーここは、どこだろう……?ーー
 少女は辺りを見回した。辺りには何もない、緑がどこまでも続いていた。
 何かに導かれる様に、少女は歩き出した。
 照りつける太陽は程良い温もりを与え、時折頬を撫でる風はとても心地よい。鳥がさえずり青空を飛んでいく。なんの争いもないまさに平和な世界であった。
 少女は草を踏みしめ歩き続けていた。そして同時に、考え事をしていた。
 少女には一切の記憶がなかった。いや、実際にはまるで覚えはないものの、様々な記憶の断片らしきものが頭の中を泳いでいた。
ーー……だめだ、私が誰なのかも思い出せない……ーー
 赤毛の少女は自分の名前さえも覚えていなかった。しかし、完全に忘れているのかといえば、そういう事でもない。
 僅かに、ほんの僅かながら自分の名前らしき言葉が頭の片隅にあった。
 赤毛の少女はさらに歩みを進めた。緑が続くだけであった草原の先に集落を見つけた。
ーーここがどんな所なのか、あの村にいけば分かるかもーー
 赤毛の少女は足早に集落を目指して歩みを進めた。
 集落へはあっと言う間にたどり着いた。誰かがいるだろうと思っていたが、村の中は恐ろしく静まり返っていた。
 誰もいない廃村か、ふと脳裏を過ぎったが、それにしてはきれいすぎる。廃村であれば、戦に巻き込まれ焼き落とされた、目も当てられない殺伐とした風景が広がっていそうなものだ。
 しかし、目の前に広がる村は焼けた建物は愚か、壊れた物が転がっていることもなかった。
 川は澄んでおり、人が今まさに生活していそうな村である。風化した建物もない辺りからも民がいなくなり、長い年月を経て廃村になった、ということも考えられなかった。
ーーどうして誰もいないんだろう……?ーー
 少女は思案に耽っていた。
「うん? お前、まさかっ!?」
 突然、背後で男が驚きの声を上げた。
 少女は特に驚く様子もなく振り返った。
 よかった、人がいた。これでここがどこなのか分かる。
 思いながら、後ろにいた男の顔をのぞき込むと、男は何か、この世の理から外れたものでも目の当たりにしているかのように、驚愕していた。
 一体何にそこまで驚いているのか、訝しみながら少女が言葉を発しようとすると、その前に男の方が叫び声を上げた。
「お前、まさか、ホノメか!?」
 男は人の名前のようなものを訊ねてきた。
「ホノメ? すまないが、人違い……」
「何? ホノメだって!?」
「まあまあ、ついに帰ってきたのね……」
「よかったな、親父さん! ホノメが帰ってきて」
「おお……、しばらく見んうちにずいぶん綺麗になって……。じゃが、親に心配はかけるもんではないぞ」
 男の言葉を皮切りに、いつのまにやら辺りは人でごった返した。これまで人の気配はまるでなかったというのに、不意に現れた。しかしまるで彼らは最初からここにいたかのような素振りである。
「会いたかった、ホノメ。家を出るといって一年間、私達はずっと心配していたんだぞ」
 さあ、家へ帰ろう、とホノメの父親らしき男は手を握ってきた。
「ちょっと待ってくれ! 私はホノメではない、人違いだ。私は偶然この近くを通りすがっただけで、ここがどこなのかこの村の人に訊ねようとしただけだ」
 赤毛の少女は事のあらましを分かりやすく、簡単に説明した。
 しかし、説明を聞いた少女の父を名乗る男、並びに村人達は納得せず、むしろ哀れみの視線を向けた。
「ホノメ、お前はきっと家出の途中で記憶が飛んでしまったんだろうさ。それでもここへ帰ってきた。記憶の片隅には、自分の故郷があった。だから帰ってこられたんだろう」
 何を言っても人違いだと認めてくれそうになかった。ならば、と少女は自分が何者なのか名乗ろうとした。
「いいかげんにしてくれ、私はホノメではない。私の名前は……」
 名前を言おうとした瞬間、少女の頭の中が真っ白になった。何も覚えていない、いや、記憶に名前がないのである。