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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 15

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 相も変わらず頭の中には覚えのない記憶の断片が流れるだけで、正確なことは、殊に名前に関しては思い出せなかった。
「私は、ホノメ、なのか……?」
 ついには自分がホノメなのではないか、そう思い始めてきた。
「……ホノメ、今は朧気いい、家に帰ろう。そのうち記憶も戻るさ」
 少女は、ホノメは父親に自らの生家へと引き連れられていった。
    ※※※
 ホノメの生家だという家は、里から少し離れたところにあった。里で目にした小さな家と比べると、幾分立派な家であった。
「ホノメ、ここが私達の家だ。何か覚えてはいないか?」
 父親は一抹の期待を持って聞いてみた。しかし、娘の答えは相変わらずだった。
「そうか……、いや、いいんだ。家に連れてきただけで、そう都合良く記憶は戻らないだろう。気にしないでくれ」
 それから、父親は母に会わせてやる、とホノメを家に入れてやった。
 ホノメは、まだ自らをホノメだと認めたわけではないが、ここまで尽くしてくれるホノメの父親に悪いと思い、ホノメの名を語る事にした。
「ただいま、母さん! 聞いてくれ! 大変なことが起きたんだ!」
 父親は玄関を通るなり、大声で叫んだ。対してホノメは他人の家に上がるという気ぶんが抜けず、遠慮がちに戸を潜った。
「なんだい、また騒がしい……、お前さんはもう少し落ち着いていられないのかい……」
 ぶつぶつ文句を言いながら、奥から女、ホノメの母親が姿を現した。
「今日は本当に大変なんだ! こいつを見たらお前も腰を抜かすぞ!」
「どうせまたくだらない……」
 物を拾って、という女の言葉は余りの驚きに阻まれた。
「あんた……、まさか……!?」
 女はこれ以上開かないくらいに目を見開き、口を覆った。
「ホノメだ。私達の子供が帰ってきたんだ!」
 ホノメは軽く会釈程度に頭を下げると、突然抱きしめれた。
「ホノメ! よかったよ……、無事に帰ってきてくれて……!」
 母親は裸足のまま玄関へと下り、ホノメを固く抱き、嗚咽を洩らした。
 ホノメはここで人違いだと言ってしまうのは、母親を傷つける行為だと思い、彼女も母親を抱きしめ言った。
「ただいま、お母さん」
 それから少女は、ホノメとして家族と共に過ごした。
 記憶がないことは、父親に連れられたその日に母親にも伝えられた。
 両親によると、この家族は夫婦と子供が一人しかいない家庭であったという。ホノメとは、母親の体力があまりないせいか、何度も流産を繰り返した末、やっと無事出産できた子供だった。
 ホノメは二人から溢れ出んばかりの愛を受けて育てられてきた。しかし、少々甘やかし過ぎてしまったのか、十五になるころにはいつも親と衝突していた。これが家出の原因一つであった。
 もう一つ、ホノメに関する話が聞けた。
 ホノメには男がいたらしい。名をシン、と言った。聞くところによると、このシンという男はとてつもない性悪で、村ではいつも何か悪さをしては人々を困らせていたらしい。
 性悪同士どこか気が合うところがあったのだろうか、ホノメとシンは幼い頃から意気投合していた。最初は悪友として悪行の限りを尽くしていたが、次第にお互いに意識しあうようになっていった。
 先に想いを伝えたのはシンだった。ホノメも想いは同じで二人は将来結婚する事までも約束した。
 しかし、ある日、二人は些細な事から大喧嘩した。そしてそのまま喧嘩別れしてしまった。どうやらこれが家出のもう一つの原因らしかった。
 毎日、両親からは様々な話を聞いた。こうする事で何かをきっかけに記憶が戻るかもしれない、と両親の考えによるものだった。
 しかし、ホノメには、自分が本当にホノメであるという記憶は全く蘇らなかった。
 ここ数日の話の中から記憶に引っかかったのはシン、という青年の事だった。なぜだか非常に懐かしく感じた。話によれば恋仲だったというが、違う。どうしてか、そうは思えなかった。頭の中を泳ぐ記憶の欠片がシン、と言う名前にどうしてか引っかかる。こうなればする事は一つ、シンに会うことだ。
 ホノメの両親はシンについて快く思っていなかったので、村の者に訊ねることにした。
「おや、ホノメ。こんにちは」
「こんにちは、おばさん。今日はちょっとききたい事があるんだけど……」
「記憶を取り戻すため頑張っているみたいね。でもあせったらだめだよ」
「ありがとう。それで、聞きたいことなんだけど、シンについて知らない?」
 シンという名を聞いたとたん、村の女から笑みが消えた。
「どうしたの、おばさん?」
「ホノメ、確かにシンは結婚の約束までしたらしいけど、あいつのことは忘れたままにした方がいい。他にいい男はたくさんいるんだ、シンの事は止めときな」
 シン、という人物はそれほどまでに人に嫌われているのだろうか。しかし、ホノメも引き下がるわけにはいかず、他を当たることにした。
「やめときな、思い出したら後悔するぞ」
「悪いことは言わない、あいつとは縁を切りな」
「絶対不幸になる、奴には近づかない方がいい」
 訊ねた者全てが、シンという人物に会うことを止めた。そんな忠告をよそに、ホノメはいよいよ、シンに会わなければならないような気がした。
 うっすらと残る記憶が、やはり彼の名前を聞く度に反応したのだ。
 しかし、ホノメには、シンを探す方法は尽きてしまった。村人のほとんどに訊ねてしまい、後は彼の素性を知る者は父母だけとなっていた。
 両親がシンの事を話してくれる可能性は皆無だった。しかし、村人と違って、実の親である父母ならば、追求すれば折れてくれるかもしれない。思いながらホノメは家路についた。
 帰り道、人気の少ない河原で、岩の上に座り、川の流れを眺めている人物がいた。
 その人物は流れるように艶めく、腰まで届きそうな黒髪を持ち、灰色の着物に、藍染の袴を身に付けていた。後ろ姿からでは性別の判断が難しかったが、ホノメは男と判断した。
 男の座る岩には刀が立て掛けられていた。鍔の付いていない、黒塗りの刀であった。
 ホノメはその刀を見ると、頭の中で記憶が揺さぶられるような感じがした。どこかで見たことがあるような、どうしても初見であるように思えなかった。
 ホノメは導かれるように男の元へ歩み寄った。
「あの……」
「シンを探してるんだってな? アンタ」
 声をかけようとしたとたん、男の方から話しかけてきた。ホノメは面食らって、言葉がでなくなった。
「どうしてそれを……?」
 ホノメは何とか言葉を紡いだ。
「村じゃ、アンタの事は有名だぜ。記憶をなくして帰ってきた家出娘、だってな」
 確かにあまり大きな村ではない、ホノメのようなかな訳ありの人物は、すぐに知られてしまうことだろう。
「あなたは、一体……?」
「名乗る筋合いはないね。まあ、アンタが記憶を取り戻せばオレの事も分かるだろう」
 男はずっと川の方を向いており、一度もホノメに顔を向けていない。向けられない、または向けたくない理由があるのか。あるとすれば、この人物こそが探していたシンなのではないか。
「もしかして、あなたがシン?」
 男の肩が揺れた。同時に含んだ笑い声が上がった。