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　叫びだけでなく、巨大な何かの足音らしいものまで聞こえてきた。
「ギャアアアア！」
　叫びは一つではなかった。もう一つ、こちらは耳をつんざくような高い音であった。
「っ！？　危ない！」
　突然、ロビン達へ大火球が襲いかかった。二人は二方向へ分かれ火球をかわした。ロビン達を狙った火球は周囲の氷を粉々に砕いていく。
　氷が砕け、溶けた事で雄叫びの主が明らかとなった。
　橙色をした皮膚を持つ、二匹のドラゴンだった。一方はがっしりとした体型の大型のドラゴンであり、もう一方は、すらりとした体躯の、一回り小さなドラゴンだ。
「くそったれが！」
　シンの悪態に反応したのか、巨躯のドラゴンの方が、渦巻く炎を吹いた。
「ちっ！」
　シンは舌打ちしつつ、炎をかわした。後退し、背中のリョウカをロビンに預けると、漆黒と白銀の双剣を抜きはなった。
「ロビン、リョウカを頼む！　こいつらはオレが何とかする。お前はリョウカと一緒にできるだけはなれてろ！」
「で、でも……。相手はドラゴン二匹だぞ？　いくら何でもお前ひとりじゃ……」
「やかましい！　ここで引き下がっちゃいられねえんだよ！　さっさと行きやがれ！」
　シンは物凄い剣幕でロビンを怒鳴りつけた。心に余裕がない様子が手に取るように分かる。そんな状態でドラゴン二匹と渡り合えるか、結果は知れていた。
　ロビンはシンの怒鳴りに、二の句が出ずにいた。迷っている間に敵は再び攻めかかってきた。
「くそ！」
　シンはロビン達の前に出て、火球を双剣で受け止めた。分散した炎がシンの両肩を焼き焦がした。
「さっさとしろ！　お荷物抱えてじゃ、全員丸焦げだ。早く逃げろ！」
　シンはもう振り向こうともしない。
「くっ、すまない、シン！」
　ロビンはリョウカを抱えて戦いの場から離れた。
「ふん、最初からそうしろってんだ……」
　シンは去っていくロビン達を後目に、構え直した。
「さあ、時間がねえ、さっさと終わらせてやる。来やがれ、フレイムドラゴン！」
　炎を扱うのに長けていること、橙色の体をしている所から、シンは目の前のドラゴン二匹をフレイムドラゴン、と名付けた。
『颯の術・改！』
　シンの体が紫色のオーラに包まれた。その瞬間彼に空間を縦横無尽に飛び回る力が生まれる。
　瞬間的な動きと思いも寄らぬ方向からの接近で、フレイムドラゴンをすれ違いざまに斬りつけた。左の漆黒の刃が、ドラゴンに傷を付ける。
　まずは巨躯のフレイムドラゴンを倒す、これがシンの目的であった。地上、空中問わず攻めることによって、小躯の方からの援護も防いでいる。
　一対多の戦いを得意とするシンであったが、さすがにドラゴン二体も相手にするには、シンの一撃は軽すぎた。
　フレイムドラゴンはドラゴンらしく強靭な体をしており、小手先の攻撃では有効打とならない。縦横無尽に飛び回っても、撹乱させるのが限界だった。
　ならば的確に急所を付く、これが一番効果的な攻撃であるが、フレイムドラゴンの懐まで飛び込むのはかなりの危険が伴った。
　巨躯のフレイムドラゴンは口を開き炎の息を吐き出すことで、正面からの攻撃を防いでいた。
「くそ！」
　シンはすれすれの所で身を翻した。
「ドラゴンの分際で、オレの動きを見切れるのか！？」
　空中に静止すると、脇から爆風が襲いかかってきた。
「何っ！？」
　爆風はエナジーによってもたらされるものだった。シンは爆風により地上へ撃ち落とされたが、地面と接するか否かの所で飛び退いた。シンのいたところにフレイムドラゴンの尾による一撃が振り下ろされる。
「あれは、『デンジャフュジョン』……？　あのチビ、エナジーを使いやがるのか……」
　エナジーを使える所に驚いたが、それ以上の驚きがシンにもたらされた。
　巨躯のフレイムドラゴンの傷が癒えていた。確かに軽い一撃しか与えてこられなかったが、再生するなど考えられなかった。
　ふと、シンは灯台の性質を思い出した。灯台に宿るエレメンタルパワーは凄まじいもので、灯台と同じエレメンタルに属するものには、例え灯が灯っていないにしても、無限に力を与える。
　フレイムドラゴンは火に属する存在であった。再生したのも、灯台がもたらしたものだと考えれば説明が付く。
ーーただでさえダメージが通らないのに、厄介だな……！ーー
　シンは心で舌打ちし、フレイムドラゴンの攻撃を避けた。
　後方へ大きく飛び退いた後、地に降りると、シンは印を結んだ。風のエレメンタルを示す、シンが纏う紫のオーラは輝きを放ち、シンの姿が三つに分かれた。
「まだだ、勝負はこれからだ！　行くぞ、フレイムドラゴン！」
　シンは自らの分身とともに、小躯のフレイムドラゴンに攻めかかった。エナジーを駆使するとわかった以上、放っておけばまた先程のように横槍を入れられる。先にこちらを倒しておいた方がよいとシンは考えたのだ。
　三方向を分身とともに包み、逃げ場をふさぐ。それと同時にシンは白銀の刃をフレイムドラゴンへ向けた。
　分身による攻撃力増強と、目にも留まらぬ早技をもって攻撃したが、やはりドラゴンの強靱な肉体には掠り傷を与えるのが精一杯だった。
　小躯のフレイムドラゴンにも有効打を与えられない。掠り傷では灯台の力によって、すぐに再生されてしまう。
　戦いが長引けば不利になるのはシンである。明白な事実だった。
「ちきしょう、こうなったら速攻だ！」
　シンは分身をもう一体作りだし、小躯のフレイムドラゴンの四方を囲んだ。そして風の力を漆黒の刃に込め、打ち出した。
「四方烈風刃！」
　シンが引き起こした竜巻の中に、小躯のフレイムドラゴンを閉じ込め、対角線上に分身とともに斬りつけた。
　しかし、これでも手応えは薄かった。
　小躯のフレイムドラゴンは竜巻にその身を切り刻まれているが、そのどれもが肉を引き裂くには至らない。
　やがて竜巻が収まると、小躯のフレイムドラゴンは再生を始めた。
「くそったれが……！」
　シンの持つ大技も通用しない、残る手段は一つしかない。
　シンは分身を二体消し、双剣を納めた。鏡写しのように分身も動きを一緒にする。
「だったら、これはどうだ！」
　シンは一瞬にして間合いを詰め、小躯のフレイムドラゴンの腕を取り、極めた。関節部分を肘で締め付けると、フレイムドラゴンの骨はパキッと折れた。
　シンは骨を折ったのを確認すると、すぐさま腕を放し、双剣を片方抜き、フレイムドラゴンの胴体へ突き出した。斬るとなると、やはり掠り傷しか与えられない。
「……肋骨を砕くのは無理か、まあいい、これでトドメだ！」
　シンはフレイムドラゴンの首にすがりつくと、これまで同様の動きをさせていた分身を地上へ残し、上空へ飛び上がった。最高点へ達すると、シンは身を翻し、フレイムドラゴンの頭部を下に地上へ落下した。
　シンは地上付近へ近づくと念じて分身を爆発させた。その爆発の中へフレイムドラゴンを叩き付ける。
『真・イヅナ落とし！』
　シンの奥義であった。両腕を折られ、爆発の中に叩き込まれればさしものフレイムドラゴンとて無事ではすまないだろう。シンはこの攻撃に手応えを感じていた。
　小躯のフレイムドラゴンは地に伏していた。確実に首が折れ、絶命しているはずだった。