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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 15

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 しかし、シンの確信は驚愕へと変わる。
 小躯のフレイムドラゴンは折れたはずの首をもたげ、骨の砕けたはずの腕も何事もなかったかのように動かした。
 シンの渾身の攻撃は、フレイムドラゴンに死をもたらすにいたらなかったというのだ。灯台の力により、素早く再生し、絶命の一撃は無駄に終わってしまった。
 剣もエナジーも奥義も通用せず、シンの攻め手はこれをもって、文字通り無くなった。
 渦巻く炎が呆然としたシンへ襲いかかった。
「うあああ……!」
 シンは反応しきれず足を焦がされた。火傷の痛みが左足を支配する。
 援護を防ぐべく、小躯のフレイムドラゴンを狙っていたというのに、逆の事態が起きてしまった。巨躯のフレイムドラゴンが小躯の方を援護すべく、シンを攻撃したのだ。
「ぐ、うう……!」
 火傷の激痛にシンは顔を歪めるしかできなかった。足をやられたせいでその場から一歩も動けず、シンは爛れた左足を引きずるように、崩れたままである。
 早く動かなければ集中攻撃を受ける。痛みにこらえ立ち上がろうとするものの、やはりその場に尻餅を付いてしまう。
 火傷に四苦八苦しているうちに、シンへ更なる追い打ちがかけられる。
 小躯のフレイムドラゴンは口を開き、赤い霧を吐き出してきた。シンは動くことができず、霧をまともにくらってしまった。
 体への外傷はなかった。しかし次の瞬間、霧の意味を身をもって理解した。
ーーか、体が言うことを聞かねえ……!ーー
 シンにかけられた霧は呼吸器を通し、神経に作用する毒霧だった。ついにシンは上半身を起こすこともできなくなってしまった。
ーーくっ、くそう……ーー
 視界が歪んでいく、二体のフレイムドラゴンを識別するのも難しくなってきた。
 全身がまるで言うことをきかず、ついには瞼まで閉じ始めた。辺りが暗黒に閉ざされる前に、どちらか判別できなくなったフレイムドラゴンがエナジーを発動した。シンへと襲いかかるのは、熱く燃えたぎる炎に包まれる岩であった。
 巨躯のフレイムドラゴンは隕石を呼び出していた。
ーーこれまでか……ーー
 シンは死を覚悟した。閉じかかる瞼にもあらがうことなく、目を閉じる。暗黒の世界がそこに広がるはずだった。
 しかし、シンの視界は明るい場所だった。
 子供だった頃、リョウカと遊んでいた記憶が走馬灯の如くよみがえる。
 笑っている、妹の無垢な笑顔が眼前に広がる。
 この笑顔は自らが死んだ後も見られるだろうか、シンは朧気な意識で思った。
 いや、見られるはずがない。何故ならば、リョウカが二度目の死を迎えることは、彼女の存在が消えることを意味していたからだ。
 記憶の走馬灯はすぐに締めくくりに近付いた。最近の事、やっとリョウカと和解し、供にいることが叶った。そして昔のように、兄妹慎ましい幸せをかみしめる前に、運命は残酷な事実を突きつけてきた。
 リョウカは消えかかっている、という残酷すぎるまでの事実だ。
 リョウカ、いや、シエルは例えリョウカとは別人格を持つものであろうと、十年以上共に過ごしてきた大切な妹である。彼女の存在そのものが消えること、それを止めるべくシンはここまで来た。やはり、ここで終わってなるものか。
ーーシエル……!ーー
 絶対に死なない、決意をもってシンは目を見開いた。しかし、できることはそれだけで、フレイムドラゴンのエナジーは勢いを増してシンへ向かって来ている。
「き……やが……れ……! 耐えて……、やるよ! どん……な……、手を……尽く……して、でも。き……さま……ら、を倒……す!」
 シンは苦しむ肺から息をし、かすれきった声をひねり出した。神経毒は確かに効いている、本来なら声を出すことは愚か、目さえも開いていられないはずだった。
 シンは見開いたままの目を迫り来る隕石からそらすことなく見続けた。
 隕石がシンを押しつぶすか否かの瞬間、シンの目の前を赤い風が一陣吹き去った。
「炎瞬刃!」
 突如、吹き付けた赤い風は、炎を身に纏い、神速で動くことにより残された軌跡が作り出したものだった。
 赤い閃光は隕石を真っ二つに両断し、さらに二体のフレイムドラゴンを切り裂いた。
 シンは目の前で起こったことが信じられなかった。
「兄様、大丈夫!?」
 赤い閃光はフレイムドラゴンから飛び退き、シンの側に立ち止まると、その正体をあらわにする。いや、シンには自らにかけられた声により既に正体は分かっていた。
「……リョウ、カ……、どうして……」
 シンは伝えたいことを言い終われぬまま気を失ってしまった。
「兄様!」
 リョウカは気絶したシンを抱き起こした。
「おーい、大丈夫か、シンは!?」
 後から続いて現れたのはロビンであった。
「気を、失っているようだな……」
 ロビンはシンの腕を取り、脈を探した。非常に弱い、このままでは命さえも危うい。
「神経毒にやられたか、放っておけば呼吸が止まるかもしれない……」
 ロビンはシンが気を失ったこと、脈が非常に弱いことから、神経毒を疑った。神経が作用しなくなれば、呼吸が止まり、脳へ酸素が行かなくなり、ついには心停止へと繋がる。事実、脈が弱いのが心停止しかけている予兆であった。
「そんな、一体どうすれば兄様は……」
 リョウカは自身も危うい体調であるにも関わらず、兄を心配した。
「何とか蘇生させるしかない。リョウカ、君にこんな役目を頼むのは忍びないが、あのドラゴン達を引き付けていてくれ。オレは持てるエナジーを全部『リバイブ』に変換する。ただし、あまり無理するな」
「分かった、今は動けるから奴らの相手は任せっ……」
 リョウカは、ごほごほと咳き込んだ。しばらく咳が続いた後、リョウカは口を覆う手を離した。
 手のひらには少し赤い点が付いていた。
「いいか、絶対に無理をするなよ」
 ロビンは釘を刺した。リョウカは視線だけを一瞬ロビンへ向けると、フレイムドラゴン目掛けて駆け出した。
ーー頼むぞ、もってくれよ……!ーー
 ロビンは死にかけている兄妹、どちらにも心の中で呼びかけた。そしてエナジーを充填する。
 ロビン達がここへ来る前、ずっと意識が定まらないリョウカに変調が起きた。
 以前にガイアロックで起こった変化のように、リョウカの真紅の髪が鴇色に変化した。あの時のようリョウカは苦しみだしたが、それはほんの一瞬の出来事であった。
 瞬間的な苦しみを見せたリョウカだったが、その後リョウカの体を介してシエルの言葉が紡がれた。
 間もなくリョウカは覚醒し、しばらくの間は身動きが取れる、とシエルは言った。
 そしてその言葉通り、リョウカは意識を取り戻し、この場へ急ぎ現れたのである。しかし、シエルの言葉にはもう一つ付け加える事があった。
 そのしばらくの間、という時間が過ぎたその時が、リョウカの体が停止する。すなわち、二度目の死の時を迎えてしまうというものだった。
 それを阻止する方法は一つだけ残されていた。それは今のリョウカにとって非常に危険を伴うものだった。
 このマーズ灯台の奥へ進み、シンが対峙する二体のドラゴンを打ち破る事だった。そうすれば、灯台解放の道が拓く、そう言い残しシエルの
意識は消えてしまった。