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ーここより本編ー

「おい、お前!」
 月曜日の朝、ミーシャ・クラヴィツキーが教室に入っていくと、オレグ・マンスーロフの声が聞こえた。また誰かを家来扱いしているらしい。まあ、どうでもいいや。自分には関係ない。ミーシャは素知らぬ顔で教室の壁際にある自分の席へ向かった。すると今度は、マンスーロフの取り巻きたちの声がした。
「こら、オレーシャが呼んでるだろ」
「なに知らん顔してんだよ!」
 へえ、あの暴君を無視する度胸のあるやつもいるのか。誰だろう? ちょっと興味がわいて肩越しに振り返ってみると、マンスーロフとその取り巻き数人が揃って自分の方を見ていた。
 なんだ、おれかよ…
 ミーシャは途端に白けた気分になったが、目が合ってしまったので仕方なく返事をした。
「用があるんなら名前で呼べよ。分かんないじゃないか」
「なんだよお前、偉そうに…」
 取り巻きのひとりが憤慨したように言いかけたが、マンスーロフは親分らしく鷹揚に手を振って遮ると、一歩前に出て腕組みしながらこう言った。
「ミーシカ、お前、ケンカ強いんだって? 7年生をぶっとばしたって聞いたぞ」
 言われてミーシャは思い出した。この前の土曜日の放課後に、学校の中庭の片隅で上級生3人がひとりの小柄な少年を取り囲んでいるところに出くわしたのだ。上級生たちは、少年がぶつかって足を踏んだとか、それで靴が汚れたとか、実にくだらないことで文句をつけていた。知らん顔をしても良かったのだが、平身低頭で謝っている少年を執拗に小突き回して面白がる3人には腹が立ったし、小突かれている少年は親しくはないにせよ自分のクラスメイトで、それが今にも泣き出しそうな顔でこちらに目線を送ってよこすから、放っておくのも気の毒になった。そんなわけでミーシャは間に割って入り、結局その3人とケンカになって、それぞれに2〜3発ずつ軽いのを見舞ってやったのだった。
「へえ、あれ7年生だったのか。知らなかった」
 ミーシャは興味なさそうな顔でそれだけ言うと、肩にかけていた布カバンを自分の席に置いた。
「じゃあホントだったんだな」
 マンス―ロフは、さっさと座ろうとするミーシャの前に回り込んできて、高飛車な態度でこう言った。
「お前さ、そんなに強いんなら、僕のボディーカードになれよ。そしたら仲間に入れてやるぜ」
「やだよ」
 ミーシャは即答した。間髪を入れずに拒否されたマンスーロフは、一瞬ポカンとした顔になった。自分の仲間に入れてやると言えば、誰でも嬉しがるものと思っていたのだ。
「お前の手下になるなんて真っ平だし、仲間に入りたいとも思ってねえもん」
「なんだと!」
「生意気だぞ、ミーシカ!」
「お前、何様のつもりだよ!」
 取り巻きどもが口々に非難を鳴らしている間に、予想外の返事に対するマンスーロフの驚きは、メンツをつぶされた腹立ちと、自分の優位を取り戻さなければという焦りに変わった。
「ホントにいいのか、ミーシカ。きっと7年生のやつら、お前に殴られたって先生たちに言いつけてるぞ。でも、お前が僕のいうことを聞くんなら、かばってやってもいいぜ。向こうが先に手を出したんで、お前は悪くないって僕が言えば、先生だってキツイことは言えないんだ。考え直すなら今のうちだぞ」
 マンスーロフとしては精いっぱい、自分の傘下に入るメリットを強調したつもりだったが、ミーシャには何の効果もなかったようだ。
「くっだらねぇの。そんなの、お前に言ってもらわなくたって自分で言うよ」
 ミーシャは小バカにしたような顔で肩をすくめただけだった。
「お前は自分が親にかばってもらってるだけじゃん。実力ねえくせに、偉そうなこと言ってんなよ」
 これを聞いてマンスーロフは満面朱を注いだようになったが、実際のところ、これ以上はどうすることもできなかった。すでに始業時間も近くなり、ほとんどの生徒が教室に揃っていて、それら全員がミーシャとマンスーロフのやり取りに耳をそばだてている。彼らの前で、言えば言うほど自分が面目を失うことになるのは嫌だったし、怒りにまかせてミーシャに殴りかかっても勝てるはずがなかった。
「ふん! せっかく仲間に入れてやろうと思ったのにさ。だったら勝手にしろよ」
 どうにか体面を保とうと背を反らせながら、やっとそれだけの負け惜しみを言って、マンスーロフは取り巻きたちを促して引き下がった。
 ようやく自分の席に腰をおろしたミーシャが、じろりと教室を眺め回すと、ひと悶着あるのではないかと興味津々でこちらを見ていた生徒たちは、あわてて目を逸らした。ここまでハッキリとマンスーロフを批判したミーシャに少しでも関わると、自分にも累がおよぶと思うのだろう。土曜日の一件でミーシャに助けられたペーチャ・コーズロフは、心配顔で様子をうかがっていたが、ミーシャと目が合うと、やはりきまり悪そうに俯いた。
 そんな中でたったひとり、臆する様子もなくまっすぐミーシャの方を見つめている者がいた。ミーシャが気づいてそちらに目を向けると、にっこりと屈託なく笑いかけてきた。サーシャ・ザイコフだった。思わず目を逸らしたのは、今度はミーシャの方だった。
 ちぇっ、優等生め。見境なく愛想ふりまきやがって…
 内心で悪態をつきながら、ミーシャは不機嫌な顔で頬杖をついた。
 そうこうするうちに始業のベルが鳴り、一時間目の授業が始まったのだった。

 マンスーロフに言われるまでもなく、ミーシャは土曜日のケンカの件では呼び出しを食らうだろうと覚悟していた。そして実際、放課後になると、指導教官室へ来るようにと言われたのだった。むっつりと教室を出て行くミーシャの背中を、マンスーロフとその取り巻きたちがニヤニヤ笑いながら見送った。ここまでは予想していた通りだった。予想外だったのは、呼び出されたのがミーシャだけではなかったことだ。
 教官室に入ってみると、担任教師のイリヤ・デニソヴィチの隣にいかつい顔つきの女教師が立っており、その前にケンカ相手の7年生3人が神妙な顔で並んでいる。驚いたことに教師たちは、ケンカの前に彼らが下級生をいじめて面白がっていたことも、ミーシャが割り込んだのはそれを見咎めたからだということも、話す前から承知していた。なんでも3階の中庭を見下ろす窓から一部始終を見ていた者がいて、そいつから教師に報告があったのだという。ただし、それが誰だったのかは明かされなかった。
 3人の7年生は初め、ミーシャが理由もなく一方的にケンカを吹っかけてきたのだと主張したらしいが、この第三者の目撃証言を突きつけられて、仕方なく本当の理由を認めたようだ。正体の分からない目撃者はミーシャより手強い上級生か、あるいは特権階級の「面倒なヤツ」かも知れず、下手にそいつを「嘘つき」呼ばわりすると、後で余計に不利な立場になるかも知れない…。そんな計算が働いたのだろう。
作品名:We have been friends since... 作家名:Angie