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「朝、オレグのヤツにも言ったけど、おれは必要なことは自分で言えるんだよ。それを、あんな嘘をひねり出して先手を打っておくなんて、余計なことすんじゃねえよ」
「嘘って言うけど、あの話は本当のことなんだろう?」
「だから、それはおれが自分で言えばいいんで、お前が見てたなんて嘘は余計だってんだよ」
「もちろん君は、何でも自分でハッキリ言えるだろうけど」
 サーシャはちょっと溜息をついた。
「でも、君がいくら本当のことを言っても、相手だって自分に都合のいい嘘を言うだろうから、水かけ論になるだけだよ。そうなったら、一人の君より口裏を合わせている3人の方が有利になるかも知れないから、君の話に第三者の裏付けがあった方がいいと思ったんだ」
 サーシャの言うことは実に理路整然としていたが、ミーシャにはカチンとくるものがあった。
「つまり、おれが自分で言っても信用されないけど、お前が言えば信用されるってわけか! お前、先生に評判いいもんな!」
「そんなこと言ってないだろ! ただ、この件では君が当事者なのが不利だと言っただけだよ」
 声を荒げたミーシャにつられて、サーシャの声も高くなる。
「同じことだろ! 要するにお前が援護しなきゃ、おれ一人じゃ信用されないと思ってたんだよな。だからお前は何様だってんだ。おれのこと見下してるんじゃないか!」
「僕は誰も見下してない!」
「でも、おれを庇ってやったと思ってるんだろ! 自分がちょっとひとこと言えば、先生のお説教も、ほらこの通り…ってわけだ。まったくお前は親切で頼りになって、お偉いよなあ、優等生!」
 そう言い放った途端、ミーシャは目が真ん丸になるほど驚いて後退った。なんと、あの穏やかな優等生のサーシャが、いきなり拳を振り上げて殴りかかって来たのだ。ただしそれは「ムダな大振り」というやつで、体力だけは消耗するがパワーもスピードもない、5歳からボクシングを習って鍛えているミーシャの目には「ハエがとまりそう」なほどの、まるでトロくさいパンチだった。どう見ても、生まれてこのかた殴り合いなど一度もしたことがないという感じだ。
 ミーシャは内心、困り果ててしまった。あまりに実力の差がありすぎて、かえって手が出せない。こんな遅いパンチをかわすのは何でもないが、サーシャは先ほどから一発も当たらないくせに、悔しさに歯を食いしばりながら何度でもかかってきて、一向にあきらめる様子がない。これではキリがなさそうだ。
 こいつ、なんでこんなにムキになってんだろう…?
 疑問に思いながらも、いい加減ウンザリしてきたミーシャは、軽いフットワークでサッと横移動すると、素早く右フックを繰り出した。むろん当てるつもりはなかった。ただ、速いパンチが鼻先をかすめるように飛んで来れば、サーシャのようなシロウトは身がすくんで動きが止まるだろうと思ったのだ。だが間の悪いことはあるもので、まさにミーシャがパンチを繰り出した瞬間に、大振りの空振り続きで息があがっていたサーシャは、足をもつれさせて大きくよろめいた。
「あっ!」
 ミーシャが声を上げた時にはすでに遅かった。当てるつもりのなかったパンチだけにパワーは大したことなかったが、とにかくスピードがあった。サーシャは数十センチ吹っ飛び、誰かの椅子をひっくり返しながら床に転がった。
「おいっ! 大丈夫か?」
 ミーシャは慌てて駆け寄ると、まずは手を触れずにサーシャの顔をのぞき込んだ。サーシャは息を切らせながら目を開けて、ミーシャを見返した。意識は失ってない。瞳孔の大きさも左右で揃っている。
「なあ、いま何してたか覚えてるか? 目ェ回ってたり、どっか痺れてたりしないか?」
 ミーシャは声をかけながら、慎重にサーシャの様子をうかがった。受け身もなにも知らなさそうだから、脳震盪でも起こしていないかと本気で心配だったのだ。
「…大丈夫だよ、どこもおかしくない」
 サーシャはそう答えると、自分で起き上がろうとした。
「まだ立つなって! ムチャすんなよ」
 ミーシャはひっくり返った椅子を元に戻すと、サーシャを助け起こしてそこに座らせた。サーシャは肩で息をしながら、恨めし気な上目遣いでミーシャを見上げている。その目からポロッと一粒の涙がこぼれて、頬に筋を作った。
「お…、なんだよ、そんなに、その…痛かったのか?」
 ミーシャは驚いたり慌てたりで、しどろもどろになって訊ねたが、サーシャは首を横に振った。
「僕は君を見下してなんかいない」
「まだ言ってるのか。もういいよ、その話はやめようぜ」
 ミーシャは半ば呆れてそう言ったが、サーシャは承知せず、椅子に座ったまま地団太を踏んだ。
「よくない! 僕は君を見下してない! 見下すどころか、こんなにも君にはかなわないんだ! 悔しくて情けなくて涙が出る!」
「なんだよ、お前、ケンカぐらいで」
「ケンカだけじゃない。僕は君にはかなわない。ずっと君が羨ましかったんだ」
 これにはミーシャも面食らった。自分には、誰かに羨ましがられることなんか何もないはずだ。
「はあ? なに言ってんだよ、優等生。お前こそ…」
「優等生って呼ぶなぁッ!!!」
 悲鳴かと思うような声で、サーシャはそう怒鳴った。それでミーシャはようやく気がついた。そういえばサーシャはさっきも、ミーシャが「優等生」と言った途端に顔色を変えたり、殴りかかってきたりしたのだ。どうやら彼には、そう呼ばれることが相当に不愉快なのだろう。
 それであんなにムキになってたのか。
 ミーシャは少し合点がいったが、それにしても優等生と言われることのどこが、そんなに気に入らないというのだろう。そう呼ばれたくても呼ばれない生徒の方が圧倒的に多いはずじゃないか。ミーシャは手近にあった椅子を引き寄せて、自分も腰をおろしながら訊ねた。
「なんでだよ? だってお前は成績トップだし素行はいいし、クラス委員でも生徒代表でも何でも任されて、先生からも生徒からも信頼されててさ、どこから見たって文句なしの優等生じゃんか。なのに何が気に入らないってんだ?」
「…なんだか絵に描いたみたいな優等生だよね」
「自分で言ってりゃ世話ないや」
「でもそれは僕じゃない。みんなが自分の思い描く優等生を僕の上にかぶせて、僕のすることを先回りして勝手に決めちゃうんだ。クラス委員とかナントカの代表とかも、当たり前みたいに僕にお鉢が回ってきて、もう断っちゃいけないみたいな雰囲気が出来上がってる。そうやって僕は、みんなの期待通りに動かされるだけなんだ。まるで操り人形みたいに。窮屈なんだよ。これが僕だなんて思われたくない。みんなに都合のいい優等生の役なんて、僕はやりたくない!」
 溜めこんでいたものを吐き出すように、サーシャは早口で一気にまくしたてた。
「…うーん…そうかぁ。そうかもなぁ…」
作品名:We have been friends since... 作家名:Angie