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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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排他的ユーフォリア

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 幾度も二人で歩いた森の湖へ向かう道を、ルヴァは今日も一人で歩いていく。
 湖のほとりへ辿りつくと、そこには愛してやまない金の髪の女王候補アンジェリークが佇んでいた。
 ルヴァの足音に気づいて振り返るなり、ぱっと輝くような笑顔で走り出す。
「ルヴァさまーっ!」
 嬉しそうに駆け寄ってきた彼女へルヴァはとても柔らかな笑みを浮かべて両腕を広げ、アンジェリークのほうも躊躇うことなく飛び込んでくる。
 そのまま細い肩ごと抱き締めて、耳元へ口を寄せ囁いた。
「アンジェ、愛しています……ずっと、あなただけを」
 少し上目遣いではにかむアンジェリークの額に、恐る恐る口づける。
 これが泡沫の逢瀬だと、彼は知っている。あの日から繰り返し見ている夢の中身は、もう叶うことのない願望。それでもいつも最後に映るのは、喜びに潤むエメラルドの瞳────

 そして昏々と眠り続けた日の曜日の早朝、ルヴァは気だるい体をどうにかベッドから引きはがす。
 執事が朝の挨拶に訪れるまでの間に身支度を整えて「いつも通り」を演出するのだ────何事もなかったふりをして。
 とりあえず上半身を起こしたもののまだ半分夢見心地の状態が名残惜しく、再び突っ伏して羽毛布団ごと膝を抱えた。仄かだけれどいまも体に残る多幸感────空虚な日常では得られないそれを感じながら泥のように眠る週末は、起床後の空腹や喉の渇きなど最早どうでもいいと思えるほどに重要な儀式になっていた。

 これまでシャワーを浴びて着替えを済ませたあとは茶器一式を片付けるのも忘れずに行ってきたルヴァだったが、今日に限ってうっかりと片付け損ねていたと気づいたのは、執事が「お下げいたします」と言葉にしたときだった。
 手にした茶器に訝し気な視線を落とした執事の姿に一瞬ヒヤリとしたのを、決して勘付かれないように振る舞う。
「ああ、すみません。片付け忘れていました」
 少し困ったふうを装い、それでもにこやかな表情を作ってやり過ごす。執事は無言で頭を下げて部屋を出て行き、ほっと胸を撫で下ろす。これで些細なミスは挽回できたものと思っていた。
 そんな彼の中ではささやかな日常に亀裂が入ったのは、週が明けた月の曜日のことだった。

 取り立てて何事もなく夕方が近づいた頃、静かなルヴァの執務室に荒々しいノックの音が響き渡った。返事をする間もなく扉を蹴り飛ばし入ってきたのは、前回以上に殺気立ったゼフェルだった。
「よぉ、邪魔するぜ」
 今度は一体何に苛ついているのか────と、ルヴァが怪訝な表情を見せると、目の前に何かがばさりと放り投げられた。
「これ、何なんだよ」
「……」
 机上に投げられた薬包をちらりと視界に映し、執務の手を止めて問いかけに答えを返さないまま嘆息するルヴァへ、怒りを抑え込んだ低い声が降ってくる。
「何かって聞いてんだよ、答えろルヴァ」
 鍵付きの引き出しにしか入っていない薬包の存在。恐らくは執事経由だろう。うまく挽回できたと思っていたが、少々厄介なことになってしまったようだ……と、ルヴァの脳内ではめまぐるしく今後の対策が練られていた。
 秘密をいつか知られてしまったときのための”模範解答”も既に用意している。大丈夫、落ち着いて答えれば問題はない────頭の中で瞬時にそう考え、ゆるりと口角を上げた。
「……ただの睡眠導入剤ですよ」
「睡眠導入剤?」
 真っ直ぐに射抜いてくる赤い双眸から目を逸らさずに、脳内でまとめあげた”もっともらしい理由”を述べる。
「ええ。最近どうも寝つきが悪くなってしまいましてねー、週末は寝だめをするために飲んでいるんですよ。それよりあなたがどうしてこれを持っているんです? 鍵をかけていた筈ですが」
 それは住居不法侵入と窃盗だと言外にちらつかせ、責めてくる力を半減させる。案の定、ゼフェルはばつの悪そうなそぶりで俯いている。
「……勝手に入ったのは悪かったと思ってる。でも、心配しちゃだめなのかよ」
「あーいえ、心配いりませんよ、私は大丈夫です。ですから、このことは他言無用にしておいてくれますね? あの……あまり広まって欲しくはないので。特に陛下には要らぬご心配をかけてしまうでしょうから……」
 いい歳をして振られたくらいで不眠に陥っているなんて、あまり笑える話ではないでしょう? とそれらしい理由付けで念を押し、ゼフェルを頷かせようとした。
 だが人間の心の機微においては繊細なゼフェルのこと、そうルヴァの思惑通りにはいかない。彼は眉間をきつく寄せ、言葉を吐き捨てる。
「…………嘘つけよ。導入剤なんてなまっちょろいモンじゃねーだろ」
 そう言って懐から一枚の紙を取り出し、ルヴァの前に見せつけた────薬物成分分析結果を。
「麻薬の一種だよな、これ」
 決定的な証拠を突き付けられても、ルヴァは動じない。ふ、と思わず笑みを漏らした彼の様子にゼフェルが目を見開いている。
「ええ、そうですが何か? それは栽培及び抽出と使用においても合法のものですし、特に依存性もない種類ですよ」
 ルヴァの平然と開き直った態度にゼフェルの顔には落胆の色が浮かび、悲痛な声が喉から絞り出された。
「じゃあ……認めるんだな? なんでだよルヴァ、なんで、こんなもの……!」
 一度は放り出した薬包を奪うように手のひらに固く握り締め唇を噛んでいるゼフェルを見て、ルヴァはいたたまれない気持ちになっていく。
 心配をかけてすみませんでした、もう二度としません────そう言えたなら。
「あなたには関係のないことです。分かったらもうお戻りなさい、ゼフェル」
「……ッ、ばっかやろぉ……!」
 たった一言を叫んで出ていく背中を目で追いながら、ルヴァは「すみません」と呟く。

 いまはどんなに軽蔑されようと、どれ程の心配をかけようと、薬を断つという選択肢は選べない。あれだけが、あの人に逢える唯一の方法なのだから────

作品名:排他的ユーフォリア 作家名:しょうきち