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しょうきち
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novelistID. 58099
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排他的ユーフォリア

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 その日の深夜、ルヴァが本を片手にベッドに寝転がろうとした頃に、執事が青い顔をして夢の守護聖の来訪を告げに来た。慌ててターバンを巻きつけガウンを羽織り応接間に向かうと、いつになく渋い顔をしたオリヴィエが待っていた。
「こんな時間に悪いね、ルヴァ」
 ルヴァの登場に厳しい顔つきを緩め、オリヴィエが微笑む。それにつられてルヴァもにこりと笑みを返して口を開いた。
「いいえ、ちっとも構いませんよ。しかし何かあったんですか? 何だか深刻そうな……」
 応接間のソファに腰かけたところで、オリヴィエの表情が再びきつくなる。
「うん……ちょっと大変なことがあったもんだから、あんたにまず知らせとこうと思って。……ゼフェルが謹慎食らいそうって話、聞いてる?」
「えっ……」
 オリヴィエのまなざしがじっと注がれて、ルヴァは困惑をもって見つめ返す。
「な、なんでですか。あの子はまた聖地を抜け出したんですか?」
 すぐに執務室でのやりとりを思い出し、あのまま飛び出していったのかと思ったのだ。だがルヴァの予想を裏切り、オリヴィエの口から驚くべき言葉が聞こえた。
「ううん、そんなぬるいレベルじゃない────薬物の所持と使用の罪だってさ」
 薬物という音が耳に届いた刹那、どくんと心臓が跳ねた。
「どうして、ゼフェルが……」
 それきり言葉が途切れたルヴァへ、更に視線が突き刺さった。オリヴィエが話を続ける。
「研究院から報告があったんだってさ。それでジュリアスが確認のために話を聞いたら、あの子ってば自分が使ったって言ったそうだよ。で、その話は一旦ジュリアスが預かって明日には女王陛下へ報告するみたい。謹慎は免れないだろうってさっきオスカーから聞いたんだ」
「そんな……! ゼフェルがそんなことをするわけがないでしょう!」
 思わず立ち上がってこぶしを握ったルヴァに、オリヴィエはひとつ頷いて同意を示す。
「そうだね。どれだけ反抗期だったとしても、あの子はそんなものに頼ったりなんかしないさ。じゃあその薬とやらはどこから手に入れたんだろうね」
 きっと誰の持ち物なのかと厳しく問われたことだろう。だがゼフェルは最後まで口を閉ざしたのだと思った瞬間、目頭が熱くなった。
 オリヴィエの目がすっと細められると同時に、彼の視線の意味を察したルヴァが力なく笑んだ。
「あれは……あの薬包は、私が使っているものです。ゼフェルはそれに気づいて止めにきただけなんです。それなのに……私なんかをかばって」
「…………」
 ルヴァが弱々しく語る告白を、オリヴィエはただじっと目を閉じて聞いていた。
「明日……ジュリアスに全てを話してきます。何としてもゼフェルの潔白を証明して、誤解を解かなくては」
 そこで長いまつ毛がゆっくりと開き、発された言葉が鋭くルヴァの胸を貫いた。
「それで、あんたは救われるの?」
 問われたルヴァは寒そうにガウンの合わせ目を寄せて、二度ほどまばたいてからおもむろに話し出す。
「……たまに思うんですよ。繰り返し見ているあの夢が実は本当で、今のこの世界のほうが夢なんじゃないかって」
「ルヴァ……」
 見ている側が切なくなるような痛ましい微笑を浮かべ、ルヴァは淡々と続ける。
「私にとってあの薬が見せた夢……いえ、幻覚は、たとえようもないほどの幸せな気分をもたらしてくれましたから」
 時間ごと堰き止められてもなお溢れる想いを、新しく覚えた唄のように幾度も幾度も心の中で繰り返している呟きを、あの夢だけが受け止めてくれた。
 ルヴァの顔は口元こそかろうじて笑みの形を保っていたものの、今にも泣き出してしまいそうな危うい繊細さを孕みながら歪み、彼の中に潜んでいた言葉は好機とばかりに口から迸り、次々と溢れ出た。
「あれは合法であり、依存性のない至極安全なものです。執務にだって支障なんて少しも出していません。ちょっと長い時間、夢の中であの人に逢っていたいだけなんです、それの一体何が悪いっていうんですか……!」
 話すうちに感情の波が昂って来たのか徐々に白熱し始めた彼を落ち着かせようと、オリヴィエが身を乗り出してルヴァの背をとんとんと慰める。
「ねえルヴァ、薬で無理やりみる夢ならもうやめにしな。どうせならお次はとびっきりの夢をご覧よ、私のサクリアをちょっとだけ分けてあげるから……ね?」
 肩を落として項垂れたまま「ありがとう」と呟くルヴァの肩を軽く叩き、オリヴィエが自分の館へと戻って行った。ルヴァは早々に眠る気にもなれず、執事に外出を告げてぶらりと散歩に出た。
 少し冷えた夜風は思いの外心地よく、陰鬱としていた気分も多少はましになる。館の周辺から足を延ばして公園の近くへと差し掛かったとき、ベンチに座り星空を見上げているクラヴィスを見つけた。
「こんばんは、クラヴィス。あなたもお散歩ですか」
 近付いて声をかけると、クラヴィスは横目でちらと視線を送りひとつ頷く。
「ああ。館から流星を見かけたのでな……ここからのほうが良く見える」
 元々口数自体そう多くない二人は、それから黙したまま星空を眺めていた。先に沈黙を破ったのはルヴァだった。
「逃げるのは、もう止めようと思うんです」
「どんな心境の変化があったかは知らぬが……おまえが決めた道だ。誰も文句は言うまい」
 この闇の守護聖は、多くを語らないが多くを問い詰めてくることもない。だがこちらの言いたいことはきちんと汲み取ってくれる。それが今日のルヴァにはとても有り難かった。
「可哀想に、ゼフェルがとばっちりを受けてしまいましてね。ジュリアスが明日にも女王陛下へ報告するとなれば、すぐに皆の知るところとなるでしょう────そうなる前に、真実を話してきます」
 光の守護聖の名が出た途端、クラヴィスが苦り切った顔を見せた。
「難儀な一日になりそうだな」
 実に憂鬱そうなそのしかめっ面に、ルヴァはくすくすと笑った。
「そう、かもしれませんねえ。ですが私をかばったばっかりにゼフェルが謹慎処分だなんて、黙ってはいられませんから」
「あれも恐らくおまえが名乗り出てくると見越しての行動だろう」
 常に女王陛下に忠実な光の守護聖がすみやかに報告をせず翌日まで持ち越し、そしてその話をオスカーに漏らしたことの不自然さを、ルヴァ自身とうに感じていた。
「きっとそうなんでしょうね、それならそれでいいんです。合法でも一応麻薬ですから、どんな処分でも受け入れます」
 成分だけで見れば麻薬の仲間ではあったが、大元はある雑草に含まれている毒の抽出物だった。幻覚剤メスカリンと良く似た化学構造をしており、特徴的なのがじわじわとした多幸感が長時間続くことだ。そして強い幻覚作用がある。
 毒を抽出して分離させては乾燥する作業を繰り返している最中にあれだけ感じていた罪悪感も、理想そのものと言える夢の前にはあっけなく崩れ去った。そのことを思い出し、思わず自嘲気味の言葉が漏れた。
「私はただ……あの人に逢って、好きなだけ想いを伝えたかったんです。自分ではもっと、淡い気持ちだと思っていましたが……そうでもなくて」
 ぽつりぽつりと語られる独白に、クラヴィスは相槌ひとつ打たずにじっと耳を澄ませている。きりのいいところで穏やかな声音がルヴァの耳に届いてきた。
作品名:排他的ユーフォリア 作家名:しょうきち