排他的ユーフォリア
「館の使用人たちからの嘆願書だ。この機会に立ち直って以前の主に戻って欲しいと、皆心配していた」
ロザリアが数枚を手に取り読んでみれば、使用人たちも地の守護聖の気質に似ているのか、嘆願書のどれもこれもが結構な長文だ。
「それだけではない、館の執事がこれも持ってきたのだ」
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた薬包の瓶を見せ、堪えきれない様子でジュリアスがくつくつと笑う。珍しいその表情をロザリアはまじまじと眺めた。
「……ルヴァに黙って、あるだけ全て持ち出してきたそうだ。最近の行動を不審に思っていた執事がゼフェルの来訪時に相談して事の発覚に繋がった、というわけだ。湯飲みがそのまま研究院に持ち込まれ、分析結果を受けてゼフェルが引き出しの鍵を解錠した。その中身がこれだ」
話を聞くうちに唖然とした表情に変わっていくロザリア。
「まあ、呆れた。勝手に持ち出すなんて、仮にも守護聖に対して使用人のする振る舞いとは思えませんわ。ルヴァは優しい人ですから怒らないんでしょうけど……随分なめられたものね」
そう言って眉根を寄せた彼女へ、ジュリアスは口角を上げたまま首を横に振る。
「いや、それは違う」
手の中の瓶へと向けられた温かな視線。その温かさは声にも表れた。
「確かに使用人の行動としては行き過ぎているが、それも主を思ってのことだ。実際の行動はほぼゼフェルの独断、執事が逆らえるはずもないだろう」
ジュリアスから瓶を受け取り、ロザリアもまた笑みを浮かべた。開けて見たが何か恨みでもあるのかというくらいにぎゅうぎゅう詰めで、取り出そうにもひとつも取り出せない有様だ。
「見て、全然取り出せないわ……こういうときに日頃の人徳がものをいうのね。しかもこの嘆願書の書き込みの多さときたら、わたくしが読み終わるのにどれだけかかるか……全くもう」
くすくすと笑い止まないロザリアへ、ふいに真顔に戻ったジュリアスが言葉を返す。
「ロザリア。宇宙の大部分は既に安定したと聞いているが、そろそろ陛下に幾日か暇を取っていただいても良い頃合いではないか?」
そこで初めて彼の思惑を知った補佐官の瞳が、驚きからやがて期待に満ちたものへと変わった。
「そうですわね。わたくしから進言してみますわ、早急に!」
「ああ。宜しく頼む」
それからすぐに踵を返した女王補佐官が心なしか駆け足気味だったことはこの際見逃して、ジュリアスもまた執務室へと戻った。