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神殿長ジルヴェスター(15)

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 ローゼマインが帰還した。丁度私とラオブルート様の話が一旦終わった処で。
「ローゼマイン様!?」
 見知らぬ大人の姿で。
「…っ!!?」

 ラッフェルの実。

 ブルーアンファ。

 エフロレルーメ。

 この瞬間、私は確かに自らの変化を感じ取った。

 ラオブルート様が用意していた契約魔術を了承したが、詳細は後日となったのは、ローゼマインが望んだからだ。
「申し訳ありませんが、私、アウブ・エーレンフェストと、お話したい事が沢山あります。」
 そう言ったローゼマインの微笑みはいっそ壮絶な美しさだった。…怒っていたのだと知ったのは、エーレンフェストに帰還した後だった。感情を隠すのが上手くなったと想ったのは私だけではなかろう。
「アウブ、お人払いを。いえ、いっそ隠し部屋へお連れ下さいな。」
「え。」
 隠し部屋に2人で籠ると言いたいのだろう。成長したローゼマインの案に頷ける訳が無い。
「ローゼマイン、それは、」
「破廉恥だと仰るなら、アウブ、貴方に対する養父様と先々代アウブの共通点は何と言うのですか?」
「!!?」
 何故…、何故知っている? ローゼマインが会った事も無い兄上の存在とフェルディナンドを重ねた事で、私は頷かない訳には行かなくなった。

 隠し部屋内。2人だけ。
「ジルヴェスター様、正座しましょうか。」
「セイザ?」
 聞いた事も無い言葉に首を捻る。
「見てて下さい。」
「なっ!!?」
 突如、ドレスを膝上まで捲り上げ、ほっそりとした足が眼前に現れる。
「こうです。こうやって座ります。」
 床に座るローゼマイン。まるで神に感謝を示す時の様だが、明らかに違う。
 体温が上がるのを感じながら、頭が余り働かないと思いながら、私は従った。
「さて、ジルヴェスター様。」
「はい。」
 何か怖い。
「どうして黙ってました?」
「え、」
「ど・う・し・て、黙っていたんですか?」
 ニッコリ淑女笑顔が恐い。やめてくれ。
「そ、それは、」
「それは?」
「済まぬ!! 言いたく無かったのだっ!!」
「そうでしょうね。寧ろそれ以外の理由だったら撲ってます。」
「い!?」
 ローゼマインから似つかわしくない言葉を、何処までも本気だと分かる迫力で述べられ、正直脅えている。
「ではもう1つ。ガマガエル伯爵の件、黙っていたのは何故ですか?」
「あ、あの、ローゼマイン、何故、その事を知ったのだ?」
「聞いているのは此方です。」
 ひいぃぃぃっ!!!!
「ジルヴェスター様?」
 血の気がドンドン引いていく。目眩がしそうだ。
「そ、それは…、知らぬ方が良いかと…。」
 スクリ、と立ち上がるローゼマイン。洗礼式から外さぬ指輪を抜いた。
「ローゼマイン!?」
 驚く私の目の前で握られる拳。――あ。
 気付いた瞬時に諦観し、私は来る衝撃に耐えた。

 「自分が悪く思われたくなかったから。そう答えるなら許そうと思いました。」
「はい。」
「でも私の為、なのですよね。」
 笑顔から無表情に変わる。
「バカにしないで下さい。」
 ついで真っ赤になる顔。
「私は…!! 私は貴方の婚約者なのに!! 貴方に庇護されるだけの子供じゃないのに!! …どうして何も仰って下さらなかったのですか…っ!!?」
 悔しい、と感情を露にするローゼマインに自分が間違っていたと、甘やかしていたと、初めて気が付いた。
「すまぬ…。」
「…許します。だから2度と私の為だなんて理由で、蚊帳の外に置かないで下さい…。」
 蚊帳? 言われた言葉が分からぬ。けれど何となくとにかく隠すな、と言われたのだと思う。
 ローゼマインが立ち上がり、私もそれに倣おうと――、
「うぐっ!!」
 足がっ!! 足がぁ~っ!!
「ジルヴェスター様、その痺れも罰ですよ。」
 四つん這いになってしまった私に、ローゼマインが近付いて(ドレスに隠れて分からなかったが、ローゼマインは正座していなかったらしい)、そっと抱き締めてくる。頬に柔らかい感触が当たる。唇だと気付いた瞬間、体温が上がる。
「ロ、ローゼマイン、離れ、」
「嫌っ!!」
 む、胸がっ、胸の感触がっ!! 更に強く抱き締められ、動揺する私を追い打つ様にリンシャンの甘い薫りが思考力を奪う。
 成長した彼女の美しさは正しくゲドゥルリーヒの様で、私の眠りっぱなしの役立たずなエーヴィリーベを起こした。そして今、…活動している。
 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!!! どうしたら良いのだっ!!?? 固まってしまった私の記憶は飛んだ。