神殿長ジルヴェスター(15)
領主候補生が神殿長職を勤めて、アウブになるのが当たり前だった昔々と図らずとも同じ道を辿ったんだから、秩序を戻したと言えるし、戒律とか法典とかは神殿長が持つ聖典を連想させるじゃないか。
そこにちょっと小学生男子な中身を付け足したのが不味かった? いや、寧ろ完璧だよね。
後は幼い時から面倒を見てくれたって考えて見たんだけど、育てたのは違うよね。それはやっぱり下町の家族やルッツだ。商人として鍛えたのはベンノさんだし、貴族女性として劣らぬ様にって、スパルタしたのは養父様だし。…序でに身体を育てたのはアーンヴァックス様本人(?)だから、どうにも例えにくかったし。
うんうん、何も間違ってないよ。ジルヴェスター様が私のゲドゥルリーヒになった経緯だって、本当の事だし。
カーオサイファを退けるだけなら、カーオスフリーエかフェアドレーオスでも良かったのかも知れないけど、カーオサイファに焚き付けられたエーヴィリーベを防ぐって言うイメージじゃないし。
そもそも真相を知った今となっては、養父様はカーオサイファでエーヴィリーベでありながら、カーオスフリーエとフェアドレーオスの役割を担っていた、酷いマッチポンプだ。
それに堪え忍び、私を守り続けたジルヴェスター様はゲドゥルリーヒでシュツェーリアで間違い無い筈だ。
私の秘密を隠していたとしても、フェアベルッケンは結婚式で出せないし、そもそも何時の間にかハルトムートやクラリッサを始めとして、お祖父様やリヒャルダ、コルネリウスにランプレヒト…、結構な範囲に素性をバラし、父様や母様、ダームエルを中心に、私を‘マイン’に戻す計画を勝手に立てていた時点で、隠蔽の神は有り得ない。
…嬉しかったんだけどね、養父様視点じゃ解らない、他の隠し事が無いか問い詰めたら返ってきた答えは。でもそれ以上に怒ったよ。
ジルヴェスター様は私を妻としては考えていなかったんだって。共に人生を歩く対等な関係じゃ無いって、知らされて。私はとっくの昔に覚悟が出来ていたのに。
…これで下町関係にまで企みが伝えられていたら、本当に流されるしか無かったけど、そこはセーフだった。平民は感情を露にするから、そこからユストクスやエックハルト兄様に知られて、邪魔される訳には行かないからだ。誰にも止められない流れを創ってから教えるつもりだったらしい。
その為にも契約魔術がなくなっても貴族と平民の距離を守らなきゃならないと思い込んでいた私を良い事に、何の変化も許されなかった。
…私は本当にギリギリのタイミングで覆す事が出来たのだ。
「魔石の交換を。」
ユストクスの咳払いと、その言葉にハッとする。若干の苦笑を見せたジルヴェスター様と魔石を交換した。
‘其方の身と心を守る’
‘貴方自身とその御心を守らせて下さい’
同じ内容の魔石に軽く驚いて、微笑を浮かべた。
作品名:神殿長ジルヴェスター(15) 作家名:rakq72747