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BYAKUYA-the Whithered Lilac-2

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 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、男は薄ら笑いで軽口を叩く。
「しかも戦えそうなほどの力を全く感じない。『この夜』に来られるってこたぁ、能力者に違いはないようだがな」
 男は、半裸にコートを羽織るような、硬派な見た目をしながらも、言動は軽いものだった。
 しかし、ツクヨミの能力を完璧に読み取る冷静さを持ち合わせている。
「久し振りね、とでも言っておこうかしら」
 ツクヨミは、男から感じる圧倒的な力に潰されまいと、口を開いた。
 男の眉が上がる。
「久し振り、ねぇ……お嬢、うちの店に来てくれたことがあったか? 自分で言うのもアレだが、うちの店はほとんど客が来ない。店で会ったことがあるなら、忘れるはずないんだが……」
「覚えてはいないか。それも仕方ないかしらね。今の私は力がない上に、様相も違うしね……」
「お嬢、失礼だが名前は……いや、こういう時は俺から名乗るのが筋だな。俺は……」
「いえ、名乗らなくてもあなたのことは知ってるわ。『強欲』さん。『忘却の螺旋』で最強と名高い『収穫者(ハーベスター)』、名前は確かゴルドー……」
 ゴルドー、『強欲』の二つ名を持つ男は、一瞬驚いて露になっている片眼を見開いた。
 しかしすぐに、表情に余裕が戻る。
「これはこれは……こんないたいけなお嬢様にまで知られているとは、驚いたねぇ。だがまあ、それも有り得るか。俺も昔は相当ヤンチャしてたしな」
 ゴルドーは、昔を懐かしむように夜空を見上げると、すぐにツクヨミに視線を戻した。
「さぁて、別に名乗った訳じゃあないが、俺の事は知ってるんだ。次はお嬢について聞かせてくれるかい?」
 例え拒んだとしても、ゴルドーならば仕方ない、と諦めてくれるであろうが、ツクヨミもここには人捜しに来ている。名乗らないことには話が進まないであろう。
 しかし、名乗ったら名乗ったで、少し厄介な事にもなりそうな気がした。だがツクヨミは、意を決して名乗ることにした。
「……私の名はツクヨミ。『鬼哭王(きこくおう)』オーガを中心としていた組織、『万鬼会(ばんきかい)』に属していた。『生命の樹(セフィロト)』とでも言えば分かるかしら?」
 今度ばかりは、ゴルドーに余裕の表情が戻ることはなかった。
「そんなバカな、お嬢が『万鬼会』の……!? 久し振りどころの騒ぎじゃねぇぜ。ついこないだの事じゃねえか!」
「先日はどうも。とでも言っておくべきかしら? あの女、『眩き闇(パラドクス)』に借りを受けたから、ね」
 それは、ほんの数十日前の事であった。
 この街一体に、能力者の集う武力組織がいくつもあった。その中でも、飛び抜けて勢いがあったのが、『忘却の螺旋』とツクヨミも属していた『万鬼会』であった。
 自分の力がどれほどか、力試しをしたいと『万鬼会』のリーダー、オーガは、様々に乱立している能力者組織に次々と抗争を仕掛けてきた。
 オーガ率いる『万鬼会』は、『虚ろの夜』の中では古参な『忘却の螺旋』に迫る勢いであり、無名の組織は次々と『万鬼会』に潰されていった。
 やがて残った能力者団体は、『忘却の螺旋』と『万鬼会』のみになった。
 手っ取り早く『眩き闇』との対決を望み、オーガは、『忘却の螺旋』の末端の能力者をいびるように潰していった。オーガとしては、挑戦状を叩き込む目的であった。
 しかし、オーガの本当の狙いは、『忘却の螺旋』の総帥『眩き闇』を挑発することではなく、強者の集う『忘却の螺旋』に与する者と戦い、己を鍛えるためであった。
 そして程無くして、『忘却の螺旋』と『万鬼会』の頂上決戦は行われたのだった。
 結果は、オーガと『生命の樹』の力、実質二対一の戦いであったにも関わらず、その圧倒的顕現のパワーを持つ『眩き闇』の勝利に終わり、彼女に惜敗した『万鬼会』は、その日を境に自然消滅した。
 ゴルドーとツクヨミの関係は、敵対関係に近かった。
「……そうかい、『万鬼会』は……全ては『眩き闇』、あのバカ女が招いたこと。そして俺は、今は組織からは足を洗っちゃいるが、そのバカ女の下にいたことに変わりはねぇ……すまねぇ、オーガの旦那は……」
「無理に言わなくてもいいわ。もとより統率のとれた集団じゃない。いつもいつもこうるさい男で、相手をしなきゃいけない事に私もうんざりしていた。彼がどうなろうが、私はどうでもいい。それに『忘却の螺旋』に報復しようなんて残党は……」
 いない、と言いかけたところでツクヨミは、存在を頭に思い浮かべた。しかし、その者の存在をゴルドーに話せば、やはりややこしくなる。
「うん? どうかしたかい、ツクヨミのお嬢。ああ、ひょっとして『二重人格(ドッペルゲンガー)』とかいうお仲間の事かい?」
 さすが『忘却の螺旋』で最強と謳われた男である。ツクヨミが顔に陰りを見せたのは、オーガが原因ではなく、別の要因であり、しかも親友との離別が原因だと見抜いていた。
 尤も、ツクヨミが『二重人格』と親友だった事まで見抜いていたかまでは分からなかったが。
「……隠しても無駄のようね。あなたの言う通りよ。私は探し出さなければならない。私が知らぬ間に心を傷付けていた親友を、ね……」
「親友……」
 親友と言う言葉に、ゴルドーまでも顔に暗い影を落とした。そして静かにツクヨミに訊ねる。
「……お嬢のダチ公は、生きているのかい?」
「分からないわ。でも、こんな噂を聞いたことがある。あの日の戦い以来、顕現求めて『夜』を荒らし回っては、出会った『偽誕者』を片っ端から打ち倒している者がいると。私はその者が『あの子』だと信じているわ」
 ツクヨミは訊ね返す。
「でも、どうしてそんな事を?」
 ゴルドーは大きくため息をつき、やはり静かに語り始めた。
「……俺は、あの日をとても忘れられねぇ……決戦の前に、俺が迂闊にアイツを誘わなければ、こんな事にはならなかった。お嬢に話してどうにかなるものじゃねぇのも分かっている。それでも聞いてくれるかい?」
「お互いあの日の事を知っている。ここで会ったのも浅からぬ縁。慎んで聞きましょう」
「ありがとよ、お嬢。ちぃとばかし長い上情けねぇ話だが、まあ、適当に腰落として聞いてくれや……」
 ゴルドーは、その場に座り込んだ。そして同時に、空間に巨大でギラギラ煌めく鎌を顕現させ、それを担いだ。
「ああ、すまねぇ。つい癖でな。座るときゃあコイツを担いでないと落ち着かないんでね」
「それがあなたの顕現の武器……ここはいつ何が現れても不思議じゃないわ。そうして戦いに備えるのも傭兵の仕事よ……」
 ツクヨミは、生け垣を囲うレンガの縁に腰を落とした。
「悪いな、それじゃあ聞いてくれ。俺のマブダチだった、ロジャーだった物の話をな……」
 ゴルドーには、長い付き合いの親友がいた。しかし、あの戦いの日、彼の親友ロジャーは人ならざるものとなった。
 ロジャーは、オーガと『眩き闇』の激戦を、まるで格闘技の試合でも観戦するかのように見ていたが、勝敗も見え始めた戦いの佳境に、物見遊山に『虚ろの夜』の顕現が一転集中する『深淵』へと近づいてしまった。
 大して強い能力を持っていなかったロジャーは、自身のすかすかの『器』に『深淵』の周りに漂う顕現が激流のごとく流れ込まされた。
作品名:BYAKUYA-the Whithered Lilac-2 作家名:綾田宗