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BYAKUYA-the Whithered Lilac-2

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「私を守るのは、あなたのお姉さんと私が似ているからかしら? 似ている私を守ることで、死なせてしまったお姉さんへの罪滅ぼしにでもなると思っているのではなくて? そうでなければ、そこまでしてあなたが私に付きまとう理由がない」
「うーん。それを言われると返す言葉が無いね。確かに。姉さんの言う通り。僕の自己満足なところが大きい。でも。僕という武器が有れば。『この夜』も恐くないよ?」
「……あなたから感じる顕現は、確かに強い。けれど、本当に私を守りきれるのかしら。交渉するなら、もう少し商品説明が欲しいところね」
「そうだねぇ。姉さんの言うことももっともだ。それなら……」
 ビャクヤは、口元を大きくつり上げた。そして、恐ろしい笑みを浮かべる。目は全く笑っていない。
「ここいらの雑魚。あらかた僕が喰い尽くした。虚無も『偽誕者』も。どちらも。ね」
 女はふと、捜し人について、様々な話や噂を耳にしていた。そんな中、こんな噂を聞いたことがあった。
 川沿いの広場に出没するという猟奇的殺人犯。その殺し方は、まさに残酷にして惨忍なものであり、臓腑を辺りに散らし、肉を喰われたかのような、ほとんど上半身の原型を留めないほどにバラバラにする、というものだった。
 警察は厳戒態勢で殺人犯の捜索に当たっているが、全くの収穫がないという。
 それもそのはずで、『虚ろの夜』で起こった現象は、現実世界に一切の痕跡が残らないのである。
 能力の行使をしていなければ、足跡くらいは残るのだが、能力が発動された瞬間に、そうした証拠は一切消えてなくなるのだった。
 無能力者は、基本的に『虚ろの夜』へと入ることはできない。故に、そうした死体ができるのは、虚無に喰らい尽くされたか、『偽誕者』同士の戦いの末によるものである。
 女は、その噂を耳にしたとき、『あの子』が暴れまわった跡なのではないかと考え、危険を承知で、戦う力がない状態で『虚ろの夜』へとやって来たのだった。
――まさか、最近この辺で死体が上がる事件の犯人というのは、『あの子』じゃなくてこの男だというの?――
 女は、訝しんでビャクヤを見る。「なんだい? 疑っているのかい? だったら論より証拠。隣街にでも行って姉さんが望むだけの首を獲ってこようじゃないか……」
 猟奇的な発言の上、『虚ろの夜』を徘徊する理由の薄さから、女はビャクヤが犯人だと確信した。
「……悪趣味ね。たとえあなたが私の身を守るに足る存在だとしても、惨忍な殺し方をするようじゃ、私の身にも危険がある、まさに諸刃の剣だわ。それなら……」
 女が言いかけた瞬間、ビャクヤは鉤爪を一本伸ばした。
 鉤爪は女の顔の横をすり抜け、女の背後に迫っていたものを貫いた。
 ギイイ、と耳障りな鳴き声のようなものを上げるそれは、小型ではあるが虚無そのものだった。
 ビャクヤは、捕らえた虚無を手元まで引き寄せると、空いている方の手から糸を出し、虚無をぐるぐる巻きにした。
「隣街まで行く手間が省けたよ。しかも。僕の力を姉さんの目の前で実演できた。これでどうかな? 僕は姉さんに危害を加えるものは何であれ排除できるって。証拠になると思うんだけど?」
 ビャクヤは、獲物を口元に寄せ、その顕現を喰らった。顕現を喰われた虚無は霧散した。
「ふう。こんな小物ではあるけど。姉さんみたいに戦う力がないんなら。やられるよ? 『偽誕者』なら分かるでしょ? 虚無の恐ろしさが」
 女は、一連の出来事に唖然としていた。
 ビャクヤは、寸分の狂い無く虚無を仕留めて見せた。少しでも位置がずれていたら、女の首も一緒に飛んでいた事だろう。
 更には、顕現を喰らう能力を有していた。顕現が著しく低下すると、『偽誕者』は能力の行使がしばらくの間できなくなる。
――これなら、力の無い私でも、あの子の『器』を壊せるかもしれない――
 女はしかし、まだ迷いがあった。
 それは、ビャクヤの奇怪な人間性である。しかしまた、無償で用心棒役をやってくれるような者は、大概まともな人間ではないのも当然の事だ。
「ねえ。考えたら。僕たちってお似合いじゃないかな?」
 またしてもビャクヤは、唐突な事を言う。
「……どう言うことかしら?」
 女はもう、ビャクヤの言葉には驚かなくなっていた。
「同じ大切なものを失った者同士。お似合いだと思ったのさ。取り戻すんだ。僕と姉さん一緒にね。僕は姉さんにずっと付いていくよ。どこまでまででも。どこへでも。ね」
「……呆れて何も言えないわね。最初に私に襲いかかってきた時点で変な子だと思っていたけど、ここまで変だったなんてね……」
 しかし女は、どこか吹っ切れたような気がした。特に何かと勝負をしていたわけではないが、ビャクヤの歪んではいるが健気な所に、根負けしたような気分であった。
「ふう……」
 女は一つ大きく息をつき、意を決して言葉を紡ぐ。
「分かったわ。あなたのお姉さんの名前、教えてくれるかしら?」
 ビャクヤは、目を見開いた。
「えっ!? それって僕の誘いに乗ってくれるってこと?」
「いちいち下らない事を訊くのね。早く教えてくれない?」
「ああ! こんなことがあるなんて。運命の神様とやらは僕を見ていてくれているようだ……!」
 女は反対に、死神にでも付け狙われている気分だった。
「自己陶酔するのは後にして。私の気が変わる前に教えなさい。あなた、女心が分からないって言われているんじゃない?」
「あらら。ごめんね。流石は姉さん。お見通しのようだね。月夜見(ツクヨミ)だよ。これが僕の姉さんの名前……」
「ツクヨミ……夜を優しく照らす月を思わせる名前ね。では、今から私はツクヨミと名乗ることにするわ」
 女、ツクヨミは新たな名前を得た。
 親友だった者に『器』を割られ、中身のなくなった女のそれは、ツクヨミという存在で満たされた。
「でも、勘違いしないことね。私はあなたの姉になるわけじゃない。あなたは私を守る剣であり盾。それ以上の何物ではない。私かあなたが死ねば、それで終わるかんけ……」
 ツクヨミは、驚いて言葉を止めた。
「ああ……あああ……! 帰ってきてくれた……」
 ビャクヤは、その生気の無い目から涙を流していた。
「姉さん……月夜見。ツクヨミ。つくよみ姉さん……」
 ビャクヤは、止めどなく流れ出る涙を拭うこともせず、ただ姉の名を口にするだけだった。
「…………」
 よほど姉との絆が深かったのか、とツクヨミは思った。
 ついさっき会ったばかりだという女が、ビャクヤの姉の名を名乗っただけだというのに、ビャクヤは肩を震わせ泣いている。
「ビャクヤ」
「……っ! 僕の名前を……」
 女はツクヨミとなり、初めてビャクヤの名を口にした。
「背中のそれ、しまってくれるかしら?」
「え? うん……」
 ビャクヤは、自身の顕現の象徴である鉤爪を、能力を停止する事で消した。
 するとツクヨミは、ビャクヤへと歩み寄り、背後へと回る。そしてビャクヤを抱き締めた。
「え……姉さん?」
「勘違いしないでちょうだい、ビャクヤ。あなたは私を守る剣。なまくらになられては困るから、今だけしっかり手入れをしてあげる。気がすむまでそうしていなさい。私が、姉さんが支えて上げるから……」
作品名:BYAKUYA-the Whithered Lilac-2 作家名:綾田宗