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章と旌 ( 第一章 第二章)

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平旌をよく知る兄が、ずっと側にいて、逃げる隙が無かったのだ。兄は先回りして、逃げる道を塞いでしまうのだから、、、。
「、、、ぁー、、、。」
ついにその時が来た。
「ほら、平旌。」
兄が促す。
「平旌、逃げてもずっと付いてまわるぞ。逃げ続ければ軽くなる訳でもない。全ては自分で決めて、自分でした事だ。心配をかけたことは帳消しにはならない。ほら、男だろ!、さっさと終わらせよう。」
兄は平旌の背中を、左手でバシッと叩く。
「、、、ん、、。」
のろのろと平旌が歩き出す。
父は居所に入り、平旌が来るのを待っている。
「行くぞ、平旌。」
兄は平旌の手を引いて、父の部屋へと大股に歩いていく。
「、、、ぁ、、兄上、、。」
泣き出しそうな平旌。

平章には、父の心が分かるのだ。厳しい罰を与えようが、平旌を大事に考えている。平旌の行方が分かったあの瞬間、父の目に涙が浮かんでいるのを、平章は見逃しはしなかった。父は、日頃小煩(うるさ)く言ってはいるが、平旌が可愛くて仕方がないのだ。
反抗期がずっと続いた様な状態は、父親にも責任がある。平旌に期待をかけてはいるのだが、平旌は思う通りには動かない。平旌の本幹がそうなのだから、仕方がないのだが、父親には、期待通りには動かない平旌が理解出来ない。
何せ庭生自身は、皇帝が望むように、期待に背かぬ様に生きてきたのだ。そしてその命も心も、皇帝と梁の民から生かされ、期待をかけられ、応え続けてきたのだ。
その自分の息子が、誰に入れ知恵されたものか、「自由を愛する」等と口走り、全く思い通りにならない。そしてその行動は、兄平章の同じ年の頃に比べると、幼さを感じぬ訳にはいかなかった。父の苛立ちは募る一方だ。
それを隣で感じる平章は、幾らかでも苛々を和らげようとしているが、この親子ときたら、いつまでも平行線で、互いに譲ろうとはしないのだ。ほんの少し、互いに譲歩すれば、全ての問題は解決しそうなものなのに、、、。
その父が、どれだけ平旌を心配し、どれだけ眠れぬ夜を過ごしていたか、『平旌に分らせてやりたい、平旌は知るべきだ』、そう思っていた。
父の心を知れば、如何に平旌でも、何かが変わるだろう。
ぐずぐずと父の心を知ろうとしない、平旌が、兄は焦れったくて仕方ない。



長林王の居所には、王妃たる、平旌の母親も居て、おずおずと入ってくる平旌を、じっと待っていた。
「ほら、平旌。」
兄が催促する。やるべき事は決まっているのだ。平旌が謝らねば、まずは収まらない。
おずおずと拱手する平旌。そして第一声。
「、、、父上、、母上、、、ご機嫌、麗しゅう、、、。」
「、、チガウ!。」
慌てて取り繕おうとする平章と、重ねるように母親の声。
「この、馬鹿息子!。」
そして平旌に扇子が飛んできた。平旌は、ひょいと首を傾げ、扇子を避け、母親の扇子は後ろにいた平章が、左手でパシっと受け止めた。
人に、物を投げつける様な、母ではないのだ。余程の怒りなのだろう。
━━いっそ、扇子に当たっておけば、母上の怒りも少しは治まるのに。━━
なまじ運動神経が良いのが裏目に出たか。
いや、これも兄弟の性格や、考え方の違いなのだろう。
真っ直ぐで少しも濁りのない、秋空のような平旌の性格、自分という物がしっかりとあり、多少の事に揺らぐことは無い。
一方、兄平章は、相手の気持ちなどが手に取るように見えてしまう。一歩下がって物事を見てしまう。
人に左右されず、一本気な所は、兄の羨む所だが、弟を危惧する部分でもあった。

そして、母親の小言が開始される。
「平旌!、ふた月もよ、ふた月!!、あなたって子は、こんなに人を心配させて!、、、、、、、白髪が増えたわよ!!。」
つかつかと母親が平旌に近付く。
──引っぱたかれる。──
そう思った平旌の体が、一瞬固まった。
「どこか具合は悪くないの?、ちゃんと食べてた??。こんなに痩せて、、、、。」
母親はあちこちと、平旌の身体を触り、どこか怪我でもしてはないかと、確認をしていた。
そして、母親は平旌の顔を両手で挟んだ。母親の手に伝わる平旌の体温が、平旌の無事を伝えている。
「良かったわ、、、本当に良かった。」
云々と平旌の顔を見て、頷く母親。
そして母親は、平章と視線を交わす。母親の眼は涙に濡れ、平章に『ありがとう』と言っている様にも見えた。
「ごめんなさい、、、母上、、。」
平旌は、そう、母親に素直に言えた。
母親はぎゅっと平旌を抱き締めた。
「、、、馬鹿な子、、、死んでしまったかと思ったわ、、。」
涙声の母親の言葉に、胸が締め付けられた。
平旌には、これで小言は終わりに見えた。
この母が言った言葉が、王府の皆の心、全てなのだ。


、、、、が、そうではなかった。
母親は涙を拭き拭き、平旌から離れる。
「さぁ、お父様からも叱ってもらいなさい。」
「、、ぇ??。」
平旌の目が点になる。
「え、、、今、謝ったし、、。」
「何を驚いているの。これで済むわけが無いでしょう。」
慌てて、平旌は兄の顔を見る。
『、なわけないだろう』という顔をしている。
恐る恐る父親の顔を見ると、目と眉がつり上がって、まるで修羅の如き、恐ろしい形相なのだ。

それから二刻余り、平旌は父親から、こってり絞られた。
下手な言い訳は、一切出来なかった。
兄から、「黙って叱られろ」と、言われた訳が分かった。
だが、言い返したくても、不可能な程、父親の怒りは大きい。誰も、一言も口を挟めなかった。
母親が人に、物を投げつけたりしないのと同様、長林王とて、これ程怒りを露わにする事など、殆ど無い無い。
どれ程、心配をしたのか、、、、終わる出口が見えなかった。
『兄上も一緒に謝ってくれるって言ったじゃん!』
父親の怒りの隙を見て、チラリと平旌は兄を見る。
兄は涼しい顔で、平旌の斜め後ろに正座していた。
「、、、、マエヲムイテロ!、、。」
視線に気が付き、兄は顎で合図する。
「平旌!、どこを見てる!!。」
この様子がまた、父親の癇に障ったのか、一際大きな怒号が飛んだ。
──ウソツキ、、、一緒に謝ってくれるって、言ったのに、、。
、、もう兄上には頼れない、、、。──
感じた事のない孤独、母親も兄も、父親の剣幕には、一切口を挟まなかった。もうここに居る誰も、助け舟を出してくれそうに無かった。
平旌は諦めて、父親の説教と向き合った。
「お前という子は、どれ程人に心配をかけ、迷惑をかけたか、、。武門の子として、恥ずかしくないのか?。自分がどう動いたら、周りにどんな影響があるか、分かっていていい歳だ。あれ程以前から、よく考えて行動せよと、口が酸っぱくなるほど言い含めていたのに、お前の頭には父の言葉は、残っていなかったのだな。」
平旌は、さっきから、ずっと同じ事を、堂々巡りで言われている。
それを、言い訳も許されず、ただ黙々と聞いて、反省しなければならないのである。
ぼーっとしていれば、『聞いているのか!』と、どやされるし、かと言って『はい、、、はい、、、』と、生返事を返すと、『不真面目だ!』と怒られる。小言の聞き塩梅が、今まで以上に、非常に難しい。集中力も途切れがちになる。