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章と旌 ( 第一章 第二章)

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突然、黙(だんま)りになる平旌。ここまで触れられなかったから、もうこの件は、聞かれないと思い込んでいた。
じっと平旌から目を離さない兄。平旌は居心地が悪くなって、目を合わさず、もじもじと動いていた。
「大方、殿(しんがり)の戦法に興味でも湧いたのだろ?。」
「、、、、、、、、、(大汗)。」
急にシャンとなり、兄の顔を凝視する。
「何だ、、やっぱりそうか。」
平旌は急いで兄の背中に回る。
「兄上、長旅で肩が凝ってない???。」
取り繕うように、平旌が兄の肩を揉み始めた。
「、、ぁぁん??、、凝ってないよ。」
「いやいやいや、、ほら、この辺が、凄い凝ってるよ。気持ちイイでしょ??。」
「、、、そうか?、、、別に何とも、、、。」
「ほらほら、この辺りも、酷い凝りが、、。んんん、これ酷いよ。」
「、、、、、、ぷっ。」
必死に兄の機嫌をとる弟が、可愛らしく見えて、つい吹き出してしまう。。
「、、、、分かってるよ。」
肩を揉む、弟の手を、ポンポンと叩いてやる。
「父上には、内緒にしておけば、良いんだろう?。」
「、、、、お願いします、、、、兄上様、、、。」
「、、、父上がその事を察していたら、私のせいじゃないからな。」
「あ────、、、それもあるか、、。
、、、でも、兄上が内緒にしていてくれたら、もの凄──く恩に着ます。」
「ふふふ、、、。
また今度、私が甘州に行く時は、お前を連れて行くよ。今回は見せられなかったが、梅嶺にも連れて行く。」
「ホントに?!。」
平旌が、背中から兄にしがみ付く。やっぱり兄は自分の心を知っている、そう、嬉しくなった。
兄は兄で、『以前よりもまた、力が強くなった』背中から抱き締める腕の強さに、そう感じた。
ぎゅっと抱き締めて、平旌は兄の懐かしい匂いを感じた。
何事もきっちりしている、兄らしい髪の油の匂いや、衣服の糊の匂いや、、、そして以前には、あまり感じなかった、大人の漢の匂いの様なものを。
──ああ、、、、家に帰ってきたのだ、、私は、、。──
兄の匂いに、長林王府の生活を呼び出されたのか、平旌の心に安らぎが溢れ出す。
「、、、、ごめんなさい、、、兄上、、、アリガトウ、、。」
平旌は兄の背中にかおを埋(うず)めて、囁くようにそっと言った。
小さな声だったが、兄は聞き逃さなかった。
平旌は、まだまだ素直な、十三の子供なのだ。そして必死に大人になろうと、背伸びをしているのだ。

何十年過ぎようと、兄にとっては、『可愛い弟』なのだ。




あの日、あの時、平章は長林王妃の産室の庭にいた。
元気な赤子の産声が響きわたる。
長林王府に平旌が産まれた瞬間、平章は嬉しかった。そして、王府全体が沸き立った。
父長林王は軍務で、王府を不在にしていた。
長林王は、『留守中を、頼むぞ』と、幼い平章に託して行った。
言葉だけであったろうが、平章は、長林王に男らしく扱われ、身重の長林王妃の助けになろうとしていたのだ。
やがて、長林王妃は幼い平章を呼び、産まれたばかりの平旌に引き合わせた。
『あなたもこうして、母から生まれた』のだと。
『あなたを思う皆の思いの中で、大切に大切に、育まれた』のだと。

「弟を、よろしくね。」
長林王妃は産室の床に座った平章に、小さな平旌を抱(いだ)かせ、そう言った。
小さな赤子は欠伸をして、平章の腕の中で、安心した様に眠ってしまった。
小さな小さな弟。
『守ってやりたい』、平章はそう思った。

四六時中、自分の後ろをついてまわった、小さな可愛い弟。
平章と同じ年頃の友は、『面倒だ』と、年下の兄弟を煙たがっていたが、平章は、平旌が泣いたり駄々を捏ねても、煩わしいと思った事は無い。
平旌の気持ちを汲み取り、話せば、平旌は理解して、落ち着いた。
平旌の心の中は、手に取るほどよく分かった。父よりも、母よりも、兄の言う事は、本当によく聞いた。兄が一番、自分を理解をしてくれたからだ。

腕の中にいた赤子が、いつの間にか、背丈も兄に迫る。
弟の視野は外へと拡がり、強い相手を見つけては、手を合わせ、己を磨いていく。
逞しく頼もしいばかりだが、兄は些か、寂しく思う。
近年は、平章の軍務が増え、弟の事を見てやれなくなった。
弟は、兄を待っているだけの、子供ではない。
世の中に興味を持ち、その可能性は無限なのだ。

王府に届く軍報や、兄の軍務の内容など、時折、平旌にも話したが、難しい軍事内容とその意味を、平旌は、一度で理解をした。
そして、兄も驚く程の、意見を出したりする。恐らく兄だけではなく、父親すら舌を巻くだろう。

驚くべき天賦の才を持つ平旌ではあるが、、、平旌は、近しい者の心の奥が分からない。いや、分かってはいるが、その者の為に、自分がどう動けば良いのかが、分からなくなるのだ。
そして、、『逃げる』。
その点、兄は複雑な人々の絡まりを見通す能力を持ち、過不足なく対応する。伸ばす者は褒めて伸ばし、邪な心の覗く者は、厳しく対応し、以降煩わせぬよう指摘をする。
卒無く任を熟(こな)し、順風満帆の兄ではあるが、機が熟さねば解決出来ぬ事を知っているだけに、憂う物事には事欠かない。

兄の目から見て、平旌に危うさを感ずる所が、正直、あるのだ。
平旌は『正しいものは正しい、正しい事は言って良い』と思っている。若さだろうが、世の中、正論だけでは片付けられぬ事の方が多いのだ。
だが、『弟の能力が欠けている』とは思わなかった。それで良いのだと思っていた。
『今は伸び伸びと進めば良い』、と。
自分の様な能力は、追々、成長すれば、自然に身につくものだと。
今は、平旌の思うままに、成長して欲しいと思った。
真っ直ぐに、ありのままに。
平章は、生まれながらか、育てられた環境か、人の心を察し、王府を取り巻く環境に、時には強く時には柔く、柔軟に対応する。この平章の能力に、長林王が、助けられる部分は非常に大きく、二人でありながら、まるで一人の如く絶妙に事に当たる。互いに、次にどう動くのかが良く分かり、違えた事は無い。父親の役に立ち、平章も嬉しいと思う。窮屈だと思った事など一度もない。
父親と自分と、そこに平旌が加われば、本当に嬉しいと、ただ、そう思う。


ふと、平旌が何かに気が付いたようだ。
「、、、あれ?。」
「ん?、、どうした?。」
「、、後ろに、、、白髪?。」
「、、、!!!。」
平章は、自分の後頭部を手で押さえて、平旌を振り返る。
「え、白髪、気にしてるんだっけ?、、兄上、一本だけだったよ。ごっそりある訳じゃ、、。」
「、、、抜いてくれ。、、、ミットモナイ、、。」
「そんなに目立ってないのに、、。」
そう言って、兄の後の髪を弄り出した。
しばらくいじっていたのだが、、、。
「あの、兄上、、、、どっかに紛れちゃったみたいだ、、。」
「何だと?。よく探せ。」
「全部真っ白じゃなかったんだ。多分根元から途中まで白いヤツで、、。隠れちゃったくらいだから、大丈夫だよ。」
「探すのが面倒だから言ってるんだろ、髪を解くから、よく探してくれ。」
「え─────、この髪、全部から一本だけ探すの??!!。」
「そうだ。」
「無理だよ〜。」
「無理じゃない、私だって、ふた月かけてお前を探したんだ。ほら、頑張れ。」