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『掌に絆つないで』第四章(前半)

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Act.02 [飛影] 2019年10月21日更新


「桑原を復活させるだと…?」
亜空間のコエンマ、ひなげしのもとに辿りついた飛影は、幽助の動向を聞いて驚かずにはいられなかった。
「ああ、それで今、霊界に冥界玉を取りに行っている。ここへ戻ってくる頃には桑原を……」
そこまで口にして、コエンマは語尾を切った。そして短い沈黙の後、「成功すれば、の話だがな」と付け足す。
飛影が瞬時に思い浮かべたのは、妹の顔。それもそのはずだ。つい先ほど、彼女は桑原への想いを吐露しながら涙していたのだから。
飛影の胸中に複雑な想いがくすぶった。分裂期を迎えた雪菜と、死へと旅立ったはずの桑原。まるで申し合わせたように、彼らは再会を果たすというのだろうか。それはまるで御伽話のようだけれど、現実はそんな綺麗なものではない。妹の命に関わる事態といえなくもない。
「ところで飛影。お前はもう幽助と争う気はないようだな?」
疑心暗鬼となりかけていた飛影は、コエンマの言葉で我に返る。そして感情を殺した表情でそっけなく応えた。
「気が変わった。それより、なぜ今さら桑原を復活させてまで次元を切り裂く必要があるんだ」
「蔵馬が、冥界に入ってしまったのだ」
「蔵馬が?」
「ああ。ワシらはこの入り口を封鎖するために来たのだが、蔵馬が冥界に足を踏み入れるのを目撃してしまってな。連れ戻さないと、閉じ込めてしまうことになる」
亜空間に開いた不自然な穴。次元の向こうの冥界がどうなっているのか、外から見ることは出来なかった。
「飛影、お前が復活させた母親だが……今はどこにいる?」
「安心しろ、雪菜と一緒にいる」
なんとなく、飛影は雪菜と氷菜がすでに雷禅の塔へ到着しているであろうことを伏せた。やはり心のどこかで、このまま氷菜が消えていくことに不安があったのだ。
氷菜との接触で、故郷への憧憬にも似た感情を呼び覚まされてしまった。今までは気づかぬ振りをしてきた氷河の国の影。今後はその存在の大きさを自覚させられるだろう。
とはいえ、今さら母をこの世に繋ぎとめても気持ちは晴れない。わかってはいるものの、飛影は自らの取るべき行動を決めかねていた。
母の居場所を未だ語らない飛影。それでもコエンマは彼が自分たちの邪魔をするつもりもないことを察し、安堵ともとれるため息をついた。直後、「お前や蔵馬には……辛い思いをさせてしまったな」と申し訳なさそうに呟く。

霊界の管理下にあった冥界の封印が崩れたことは、確かにコエンマの責任のようにも感じられた。だが、霊界の力にも限度がある。水面下でのコエンマの努力をわざわざ飛影が激励してやるはずもないが、それらを認識できないほど、霊界との繋がりも浅くなかった。
それ故に腹が立った。父性すら思わせるコエンマの優しさが、今の飛影には憎悪の対象に感じられ、彼はコエンマを睨みつけた。
「なんのつもりだ。憐れみを受ける覚えはない。オレはただ単に『冥界』が気に入らんだけだ。お前ら以上にな」
幽助たちとの出会いで少しずつ味わってきた温かい感情。それを愛情と呼ぶのだろうかと思いふけりながら、ぼんやり眺め続けた空の雲。思い描く母親は、それを教えてくれる人物であるはずだった。
所詮、これが現実か……。
「何が全世界を掌握出来る玉だ。くだらんことに力を発揮しやがって……」
「……母親と、ゆっくり話せたのか?」
「貴様には関係のないことだ」
思わずこぼれた愚痴。それだけですべて見透かされたような気になって、飛影はコエンマから目を逸らした。
背中に感じるコエンマの視線が、痛い。それを誤魔化すように、冥界の入り口を手で触れてみると、冷たい壁の感触があった。その瞬間、飛影の邪眼は冥界内の風景を捉えた。
黒い大きな翼を広げ、高らかに笑う黒鵺の足元より下に、見慣れた長い髪の少年が何かに捕らえられる格好で身動きを封じられている。
予期せぬ光景に、飛影は思わず冥界の入り口から飛び退いた。
「どうした…!?」
飛影の様子に、コエンマが声を上げる。二人のやりとりを静かに見守っていたひなげしも、ビクリと大きく肩を震わせた。
どうしたと聞かれたものの、飛影自身、何も把握できていない。
気を取り直し、もう一度冥界の入り口に触れ、邪眼で中を覗いた飛影は、やはり信じられない光景に言葉をなくした。
冥界と思われる次元の向こう。蔵馬の旧友であるはずの黒鵺は、今にも獲物に飛び掛ろうとする爬虫類のような輝く瞳で蔵馬を見据えていた。
蔵馬が、危ない。
明確なのは、それだけだった。