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『掌に絆つないで』第四章(前半)

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Act.06 [飛影] 2019年11月6日更新


邪眼が映し出した冥界内部の光景をコエンマたちに報告すると、彼らはひどく困惑していた。だが、ひなげしには思い当たる情報があったらしい。
「もしかすると、黒鵺という妖怪は冥界の者が化けているのかもしれないわ」
どうやら霊界は大きなミスをおかしていたようだ。
強力な冥界玉のエネルギーに執着するあまり、そのほかの情報を漏らしていたのだ。
冥界の王が復活を遂げるためには、三つの条件が必要だった。
ひとつ目が王の肉体。二つ目が王の魂を降臨させられる力を持つ冥界玉。そして三つ目が、それらを成し遂げる者、つまり封印された冥界で未だ王の復活を願い続けてきた者だ。
霊界の結界に穴が開いたのは、冥界そのものの封印が弱まっているため。王の復活は後回しにされたとしても、冥界の住民が蘇るだけの力はすでに得ていてもおかしくはない。
どこから出してきたのか、ひなげしは資料のようなものを片手に持ち、すばやく目的のページを開いた。
「こいつだわ。冥界王直属の部下に、傀麒(かいき)ってやつがいて、そいつには他人の過去を奪い取る能力があるの。さらに自分の姿を変えたり、幻覚を見せたりすることが出来る……」
「ならば蔵馬は黒鵺を蘇らせたのではなく、その傀麒という者に騙されているだけということか?」
「きっとそうです」
冥界の者が友に化けているとは知らず、蔵馬は冥界に足を踏み入れてしまったのだ。否、相手が幻覚を見せる能力を持つというならば、最初からなんらかの暗示にかかっていた可能性もある。
今思えば飛影が黒鵺に感じた違和感は、その暗示によるものだったのかもしれない。
「ようするに……、そいつは蔵馬の肉体を使って王の魂を降臨させるつもりなのか」
飛影が口に出した結論に、コエンマが「おそらくは」と神妙な顔つきで頷いた。
「幽助くんの判断は正しかったのかもしれないわ。このまま蔵馬さんを閉じ込めておくわけにはいかない」
「……そうだな」
「それで頼みの綱が桑原か。当てにならんが、幽助の帰りを待つよりほかないな」
若干の毒を含ませて一言漏らすと、それを聞いていたコエンマは大きくため息をついた。
三代目の霊界探偵は信用されているんだか、いないんだか。
それでも今まで何度も危機を脱してきた。今回に限っても例外はないだろうと、どこかで期待させる男。それが幽助だ。
幽助の到着を亜空間で待ち続けることに苦痛はあったが、飛影にいい策があるわけでもない。仕方なく監視役にまわり、冥界の入り口に設けられた結界の壁に触れながら、黒鵺の動向を窺った。

運良く、亜空間でなんらかの異変が起こるまでに幽助が戻ってきた。
大したやつだ……。
飛影は半ば呆れながら、彼の到着を待ちわびた。
幽助とぼたん、それに桑原が人間界の方角からこちらに向かって走ってくる。
「飛影! 飛影も来てくれたんかー!」
たどり着くや否や幽助は飛影の姿を確認し、歓喜の声をあげる。和解の話など未だ持ち出してはいないのに、相手の頭の中ではすでに昨日の出来事は記憶消去されているようだ。となれば、幽助と敵対していたはずの自分自身が滑稽でならない。
飛影は意地を張ることすら放棄させられた。
「よくやった、幽助!! 本当に桑原を連れてきたんだな」
コエンマの出迎えの言葉に、幽助は多少動揺して見せた。が、彼のそんな仕草には気づかないまま、コエンマは飛影が合流してから得た情報をまくしたてる。
「蔵馬が蘇らせたと思っていた、黒鵺という男。あれは、黒鵺本人ではない。蔵馬の記憶を盗んだ冥界の者が化けておるのだ」
「え……? ちょ、ちょっと待て、なんの話だ、そりゃ?」
「詳しい説明の暇はない。とにかく、黒鵺は偽者だと断定して間違いない。奴の目的は冥界王の肉体。そのために蔵馬を冥界におびき寄せたのだ」
「ってことは……」
「蔵馬の身体を乗っ取って、冥界王を復活させるつもりなのだ」
見るからに、幽助はパニック状態。見かねた飛影は、自ら前に進み出た。
「なんでもいい、このバカにこれ以上の説明はいらんだろう。ようするに、敵は黒鵺だ。乗り込むぞ」
飛影は幽助の隣に立つ桑原を見上げた。
妖魔街で初めて会ったときと同じ姿の桑原。肉体を持っていた頃の彼よりもリアルさを感じ、その実感がまたしても雪菜を連想させた。
だが今は時間との戦い。飛影はクイと顎で冥界の入り口を示し、桑原をけしかけた。
「桑原。せっかく蘇ったんだ。でくの棒になりたくなければ、さっさと結界を斬ってしまえ」
「ヘン、相変わらず態度のデカいチビだぜ!」
懐かしいやりとりに、飛影は瞬間的に感傷を忘れた。
桑原はその唇に暴言を乗せながらも、表情は柔らかく、まるで穏やかに再会の挨拶でも述べているような雰囲気。飛影は心を満たしていた暗雲を解かれた気分でいた。さきほどまでの迷い悩んだ感情が退き、彼らしさが自ずと前面に押し出されていく。
「貴様のつぶれ顔も健在だな。幽助の記憶は随分正確なもんだ」
「やかましいわ!」
飛影さえも、現状の桑原の姿は自らの記憶と一致していて、違和感を覚えなかった。共に戦った時間が走馬灯のように思い出され、つい先日の記憶のように感じられた。
桑原は改めて冥界の入り口の前に立つ。そして、己の身体の真横に右腕を伸ばし、手の平を大きく広げた。
「言っとくが、浦飯じゃねぇぞ」
ふと過去から来た少年は言葉をもらす。そっけなく「なんの話だ」と聞き返す飛影に、予想外の言葉が返った。
「オレを蘇らせたのは、蔵馬だぜ」
「なに……?」
誰もが状況の整理をしかねる混沌とした現場で、桑原だけが何もかも冷静に受け止めているようにさえ見えた。事実、そうだったのかもしれない。
「説明の暇はないんだったなっ!」
そう言って会話を無理矢理区切ると、桑原は広げた右手の平から次元刀を出現させた。
「桑ちゃん……!」
今さらながら桑原の復活を実感したのか、ぼたんが感極まった様子で瞳を潤ませた。
幽助と飛影も我に返ったように身構える。
時間がない。
全員が確実に理解できていることはそれだけだった。
「行くぜ、野郎ども!! オレについて来い!」
桑原が発する出陣の合図が、亜空間にこだました。
こうして三人は封印が解けきらない冥界へ踏み込んだのだ。